船舶の火災、衝突、乗揚げや沈没等の事故がひとたび発生すると、人命・財産が脅かされるだけでなく、事故に伴い油や有害液体物質が海に流出することにより、自然環境や付近住民の生活にも甚大な悪影響を及ぼします。海上保安庁では事故災害の予防に取り組むとともに、災害が発生した際には関係機関とも連携して、被害を最小限にするよう取り組んでいます。
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4 災害に備える
CHAPTER1 事故災害対策
船舶の火災、衝突、乗揚げや沈没等の事故がひとたび発生すると、人命・財産が脅かされるだけでなく、事故に伴い油や有害液体物質が海に流出することにより、自然環境や付近住民の生活にも甚大な悪影響を及ぼします。海上保安庁では事故災害の予防に取り組むとともに、災害が発生した際には関係機関とも連携して、被害を最小限にするよう取り組んでいます。 1 事故災害への対応
平成24年に海上保安庁が対応した船舶火災は75件で、前年より12隻減少しました。船種別に見ると、漁船が42隻であり、全体の約56%を占めています。海上保安庁では、海上において船舶火災が発生した際には、消防機能を有する巡視船艇等を活用して消火活動を実施しています。 また、平成24年に海上保安庁が対応した油流出事故は106件で前年より21件減少しました。海上における油等の排出事故では、排出した原因者による防除が原則であるため、海上保安庁では、原因者が適切な防除を行うための指導・助言を行っています。しかし、油等の排出が大規模である場合や、原因者の対応が不十分な場合には、海上災害防止センター等の関係機関とも協力の上、海上防災の専門集団である機動防除隊等により海上保安庁自らが防除を行っています。
2 事故災害対処のための体制強化
海上保安庁では、事故災害に対して、迅速・的確な対処を行うための体制整備を進めています。平成24年は高い消防能力を有した巡視艇を配備したほか、現場で対応にあたる海上保安官に対して、海上火災や有害液体物質排出への対処等に関する研修・訓練を実施しました。 また、流出油等に対する的確な防除体制を取るためには、流出油等の挙動を予測する必要があります。海上保安庁では、測量船等で測定した海象(海流、水温等)の情報や、海洋短波レーダにより測定した相模湾や房総半島南方の海流の情報等をリアルタイムに収集し、漂流予測の精度向上に努めています。 さらに、排出油による被害を最小限に食い止めるためには、地域における関係者との情報共有・連携が極めて重要であることから、地方自治体、漁業協同組合、港湾関係者等で構成する協議会等を全国各地に設置し、関係者が迅速かつ的確に対応できるよう油防除訓練の実施等を促進しています。 このほか、油排出事故の発生への備えとして、日頃から、日本全国の沿岸域の地理・社会・自然・防災情報等を沿岸海域環境保全情報として整備・更新しています。これらの情報は、CeisNet(http://www2.kaiho.mlit.go.jp)としてweb上で提供しています。 3 事故災害の未然防止対策
海上保安庁では、事故災害の未然防止対策として、タンカー等の危険物積載船舶の乗組員や、危険物荷役事業者等を対象に訪船指導や、タンカーバースの点検等を行っています。さらに、旅客船の事故対応訓練等を実施し、運航管理者等に対して事故時の措置について指導しています。 4 国際連携
排出油等による海洋環境汚染は、我が国だけの問題ではなく、各国と連携して対応することが重要です。海上保安庁では、海洋環境に関係する各種条約の採択、締結及び改正等に対応するため、国際海事機関(IMO)の関係委員会に出席するなど、国際的な取組に対応しています。 また、日本海及び黄海における海洋環境の保全を近隣諸国とともに進める「北西太平洋地域海行動計画(NOWPAP)」への参画や、各国関係機関との合同油防除訓練を通じて、事故発生時に関係国が協力して対応できる体制の構築にも努め、国際的な連携を図っています。 さらに、海洋汚染・海上防災に関する知識・能力が十分でない途上国に対しては、各国担当者に対する研修等を通じ、海上防災体制の構築を支援していきます。平成24年9月から約2ヶ月間、独立行政法人国際協力機構(JICA)と共同で「海上保安実務者のための救難・環境防災コース」を開催し、アジア諸国からの研修員に対して、我が国の災害対応や油防除等の知識・技術等を伝えました。
迅速な油流出事故対応に向けて〜環境脆弱性指標をスマートフォンに提供〜
海上保安庁では、油流出事故が発生した場合に海岸に油が漂着した場合の影響を示す環境脆弱性指標(Environmental Sensitivity Index:ESI)情報を印刷物やCeisNet上で提供しています。海岸に漂着した油により受ける環境的な影響は、海岸の形状や海水の流れなどに左右されるため、海岸の形状、位置等を把握するためにESI情報は非常に役に立ちます。 平成24年8月、海上保安庁はESI情報をスマートフォンに提供できるシステムの運用を開始しました。これにより、パソコンが使えないような油流出事故現場においても、迅速に情報を参照することが可能になり、環境への影響を最小限に抑えることが期待されます。
海上保安庁では、今後とも、巡視船艇・航空機や防災資機材の整備、現場職員の訓練・研修等を通じ、事故災害への対処能力強化を推進するとともに、関係機関への指導等を通じ、事故災害の予防に努めます。さらに、国内外の機関との連携強化により、事故災害発生時には迅速かつ的確に対処していきます。特に、平成25年10月1日に「海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律」の一部改正法が施行され、海上保安庁所管の独立行政法人海上災害防止センターが民間法人化されますが、今後とも、同センターの業務を継承する指定海上防災機関と適切な連携・協力を図っていきます。 機動防除隊出動300件
平成24年6月、機動防除隊は千葉県の石油コンビナートにおけるアスファルト流出事故に出動し、発足以来の出動件数が300件に達しました。 機動防除隊は、海上に排出された油、有害液体物質の防除措置や海上火災の消火・延焼防止措置等に関する指導・助言等を行う海洋汚染及び海上災害防止のための専門家集団であり、横浜機動防除基地(神奈川県横浜市)を拠点に業務を行っています。 平成7年4月の発足以降、機動防除隊は海上保安庁の災害対応の中核を担い、平成9年に発生したロシア船籍タンカー「ナホトカ」重油流出事故や「ダイヤモンドグレース」原油流出事故等の大規模油流出事故に対応してきました。さらに、平成23年3月に発生した東日本大震災では被災地に派遣され、座礁した船舶やコンビナートから流出した油を防除するための指導・助言等を実施しました。
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