海上保安レポート 2012

はじめに


TOPICS 海上保安の一年


特集 東日本大震災


海上保安庁の任務・体制


■本編

1 治安の確保

2 領海等を守る

3 生命を救う

4 青い海を守る

5 災害に備える

6 海を知る

7 交通の安全を守る

8 海をつなぐ


目指せ! 海上保安官


語句説明・索引


図表索引


資料編

3 生命を救う > CHAPTER 1 海難救助
3 生命を救う
CHAPTER 1 海難救助

海では、海難等の未然防止に関する様々な取組みにも関わらず、毎年数多くの命が失われています。

海上保安庁では、海難等による死者・行方不明者をできる限り減少させるため、安全意識の高揚等の海難防止思想の普及・啓発に努めるとともに、海難等の発生に備えた救助体制の充実強化、民間救助組織等との連携・協力等を行っています。また、実際に海難等が発生した場合には、救助勢力を早期に投入するなど、迅速かつ的確な捜索救助活動を実施しています。

平成23年の現況
■機動救難士の配置状況
機動救難士の配置状況

平成23年の海難及び船舶からの海中転落による事故者数は9,882人で、自力又は救助機関等により救助されたのは9,660人(うち救助機関等によるもの3,870人)でした。このうち1,352人を海上保安庁が救助しましたが、救助に至らず死亡または行方不明となった方の数は234人でした。この人数は、平成22年と比較して37人の増加となっています。

緊急通報用電話番号「118番」による海難等発生情報の通報(第一報)は1,015件であり、全体の通報件数の42%を占め(平成22年は1,113件、全体の44%)、このうち788件が携帯電話からの通報でした。また、2時間以内に海上保安庁が海難等の情報を入手した割合は、64%でした。

海上保安庁では、救助・救急体制の充実強化のため、平成14年度より、ヘリコプターからの降下・吊り上げ救助技術、潜水能力、救急救命処置能力を兼ね備えた機動救難士の配置を順次進めてきましたが、平成23年度、仙台航空基地に8名を配置したことで、特殊救難隊とともに日本沿岸の大部分をカバーする機動救難体制を確立しました。また、平成24年度から機動救難士が配属されている航空基地等に、現場における高度な判断や機動救難士への指揮等業務の統括を行う上席機動救難士を1名ずつ配置し、救助・救急体制の充実を図ることとしています。


■海難及び船舶からの海中転落による死者・行方不明者数の推移 ■2時間以内に海上保安庁が海難等の情報を入手した割合
海難及び船舶からの海中転落による死者・行方不明者数の推移 2時間以内に海上保安庁が海難等の情報を入手した割合
今後の取組み
1 海難情報の早期入手
118番通報を受け付ける職員
▲118番通報を受け付ける職員

海上保安庁では、緊急通報用電話番号「118番」を運用するとともに、「緊急通報位置情報システム」を導入しています。これにより、携帯電話からの「118番」通報の際に、音声と併せて発信位置情報が通知され、迅速かつ的確な対応が可能となります。さらに、海上保安庁では、世界中どの海域からでも衛星通信等により救助を求めることが可能な「海上における遭難及び安全に関する世界的な制度(GMDSS)」に基づき、24時間365日による海難情報の受付を行っています。

海上保安庁では、これらを活用しながら、海難情報の早期入手と初動対応の時間短縮に努めていきます。


2 救助・救急体制の充実強化及び救助・救急能力の向上

海上保安庁では、特殊救難隊機動救難士潜水士といった高度かつ専門的な知識・技能を有する救助活動のエキスパートの配置・養成に努め、救助体制の充実を図ります。また、海難等により生じた傷病者を搬送する間に、容態に応じた適切な処置等を行うため、専門の資格を取得した救急救命士が実施する救急救命処置の質を医学的観点から保証するメディカルコントロール体制の充実強化を図っていきます。さらに、巡視船艇・航空機の高機能化、救助資器材の整備などを通じた救助・救急能力の向上を図っていきます。

また、海中転落等の際には、より迅速かつ的確な救助活動のため、転落者の漂流範囲等の予測を行っていますが、リアルタイムの海潮流を反映した漂流予測システムを活用することで、より高精度の漂流予測を目指します。

救急救命士による救急救命措置 潜水士による訓練
▲救急救命士による救急救命措置 ▲潜水士による訓練

3 他機関との協力体制の充実
海上保安庁の巡視船(奥)と韓国海洋警察庁の警備救難艦による日韓合同捜索救助訓練
▲海上保安庁の巡視船(奥)と
韓国海洋警察庁の警備救難艦による
日韓合同捜索救助訓練

広い海をカバーするためには、日頃から警察・消防等の救助機関や民間救助組織との密接な連携・協力体制を構築しておくことが重要です。特に、沿岸部で発生する海難に対しては、空白地域のない救助エリアの確保や円滑な救助活動を実施できるよう(公社)日本水難救済会や特定非営利活動法人日本ライフセービング協会等の民間救助組織との関係の構築・発展に努めていきます。

我が国周辺海域で発生した海難には、中国、韓国、ロシア、米国といった関係国の救助調整本部(RCC)と協力し、合同で救助活動を行うなど、引き続き連携を図っていきます。また、「1979年の海上における捜索及び救助に関する国際条約(SAR条約)」に基づき、任意の相互救助システムである日本の船位通報制度(JASREP)を、米国の通報制度(AMVER)と連携して運用し、引き続き海難救助の効率化を図っていきます(平成23年参加船舶2,955隻)。