海洋は、海運や水産業、資源開発、マリンレジャー等、さまざまな目的で利用されており、それぞれの目的によって必要となる情報が異なります。海上保安庁では、海洋調査により得られた多くの海洋情報を基に、それぞれの目的に合わせ、ユーザーの利用しやすい形での情報提供に努めています。
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5 海を知る
CHAPTER II. 海洋情報の提供
海洋は、海運や水産業、資源開発、マリンレジャー等、さまざまな目的で利用されており、それぞれの目的によって必要となる情報が異なります。海上保安庁では、海洋調査により得られた多くの海洋情報を基に、それぞれの目的に合わせ、ユーザーの利用しやすい形での情報提供に努めています。 1 海上交通の安全のために
海上保安庁では、船舶の安全航行に不可欠な海図や電子海図表示システム(ECDIS)で利用できる航海用電子海図(ENC)等の作製・刊行を行っています。 令和2年には、海洋調査により得られた最新データを基に、海図(新刊1図、改版22図)、航海用電子海図の新改版(うち新刊4セル)、水路書誌(新刊4冊、改版6冊)等を刊行しました。 2 海洋情報の利活用活性化のために
海洋情報は、船舶の航行の安全や、資源開発、マリンレジャー等のさまざまな目的で利用されています。 このため、ユーザーが目的に応じて、利用しやすいように海洋情報を提供することが非常に重要となっています。 海上保安庁は、日本海洋データセンター(JODC)として、長年にわたり海上保安庁が独自に収集した情報だけでなく、国内外の海洋調査機関によって得られた海洋情報を一元的に収集・管理し、インターネット等を通じて国内外の利用者に提供しています。 IODE:国際海洋データ情報交換システム
また、平成19年に策定された海洋基本法に基づく海洋基本計画に従い、各機関に分散する海洋情報の一元化を促進するため、国の関係機関等が保有するさまざまな海洋情報の所在について、一元的に検索できる「海洋情報クリアリングハウス(マリンページ)」を平成22年3月より運用しています。 さらに、国や地方自治体等が海洋調査で取得した情報をはじめ、海洋の利用状況を把握するうえで必要となるさまざまな情報を、地図上で重ね合わせて閲覧できるウェブサービス「海洋台帳」を運用し、海洋再生可能エネルギーへの期待が高まるなか、洋上風力発電施設の適地選定等に役立てられてきました。 平成28年には、総合海洋政策本部にて決定された、「我が国の海洋状況把握の能力強化に向けた取組」において、海洋におけるさまざまな人為的または自然の脅威への対応と海洋の開発及び利用促進のため、関係府省・機関が連携して、海洋観測を強化するとともに、衛星情報を含め広範な海洋情報を集約・共有する「海洋状況表示システム(以下「海しる」)」を新たに整備することとされました。 「海しる」は、海上保安庁が整備・運用を行ってきた海洋台帳等をシステムの基盤として活用し、この基盤に関係府省・機関が収集したさまざまな情報を追加し、広域性・リアルタイム性の向上を図るなど、利便性を高めたシステムです。海上保安庁では、内閣府総合海洋政策推進事務局の主導・支援のもと、「海しる」を整備し、平成31年4月に運用を開始しました。 海しる(海洋状況表示システム)は海のデータの「総合図書館」
「海しる」は、平成31年4月の運用開始以降も、掲載情報の充実を進めています。令和2年度には、沖縄科学技術大学院大学と第十一管区海上保安本部の業務協力により得られた、潮流の影響が大きい沖縄県慶良間列島周辺における潮流の予測情報を算出するシミュレーションの結果や、湘南工科大学が研究するアジア周辺地域における落雷位置情報といった、政府関係機関以外から提供された情報を「海しる」に掲載しました。これらの情報は、「海しる」に掲載されている他の情報と重ね合わせて表示できるようになり、マリンレジャー等の安全対策や、海上での災害対策への活用が期待されます。 また、官民の海洋の関係者間でのデータの共有・活用を推進するため、データの要望を受け付ける機能やフォーラムの開催などを通じて、海のデータ連携を進めています。 これからも、海のデータの「総合図書館」として、マリンレジャー、災害対策、海洋教育など様々な場面で活用されるよう、掲載情報の充実や機能強化を進めていきます。 「うみしる」 沖縄科学技術大学院大学との共同記者会見 慶良間列島周辺の潮流予測情報 湘南工科大学での情報提供開始式 落雷位置情報 引き続き、海洋調査によって得られた最新データを基にして、海図等の水路図誌を刊行していきます。 また、JODCをはじめ、海洋情報クリアリングハウス(マリンページ)、海洋状況表示システム(海しる)の管理・運用を適切に行うとともに、政府機関や関係団体等との連携を一層強め、掲載情報の充実や機能の拡充に努めます。これらの取組を通じて、目的に合わせて利用しやすい海洋情報の提供を推進していきます。 海図の歴史
海図をはじめとする水路図誌は、航海の安全に不可欠な情報であり、現在は海上保安庁海洋情報部が作製・刊行を行っています。 海洋情報部の前身である「水路部」は、明治4年(1871年)に当時の海軍に設置された「水路局」に端を発しています。測量から製図まで、日本人のみによって作られた最初の海図は明治5年(1872年)に刊行された岩手県の「釜石港」であり、「陸中国釜石港之図」として刊行されました。当時開港していた東京と函館を結ぶ航路の中間補給地点として重要な港であったことや、また当時高炉による銑鉄の生産に成功しており、官営製鉄所建設の直前であったことが理由であると考えられています。 その後も地道な測量及び製図作業を続け、約50年をかけて、日本周辺の海図を整備しました。 情報技術の発展に伴い、平成7年には世界に先駆けて、国際基準に基づく航海用電子海図(ENC)を刊行しました。国際条約に基づき、一定以上の船舶には平成30年にこの電子海図表示システム(ECDIS)の搭載義務化が完了するなど、航海用電子海図のニーズはますます高まっています。 本年は、近代的水路業務を開始してから150周年を迎えます。これを機に、海図等の水路図誌に我が国が作成したものであることを示す印章(エンブレム)についても変更を行いました。海上保安庁では、引き続き航行安全に必要な情報を海図等の水路図誌により提供していきます。 陸中国釜石港之図 明治初期 太平洋戦争当時 現在(令和3年から使用) |