海上保安レポート 2021

はじめに


TOPICS 海上保安の一年


特集 現場「第一線」


海上保安官の仕事


海上保安庁の任務・体制


■本編

1 治安の確保

2 生命を救う

3 青い海を守る

4 災害に備える

5 海を知る

6 海上交通の安全を守る

7 海をつなぐ


語句説明・索引


図表索引


資料編

3 青い海を守る > CHAPTER II. 海洋環境保全対策
3 青い海を守る
CHAPTER II. 海洋環境保全対策

海上保安庁では、海上環境関係法令違反の監視・取締り、海洋環境の調査、国民の皆様への指導・啓発活動等、海洋環境を保全するための総合的な取組を実施しています。

海洋環境保全対策の現況
1 海上環境関係法令違反の監視・取締り

海上保安庁では、海洋汚染につながる油の不法排出、廃棄物の不法投棄等の海上環境関係法令違反に対し、巡視船艇・航空機による海・空からの監視・取締りに加え、沿岸部では陸上からの監視・取締りを実施しています。

令和2年に海上保安庁が送致した海上環境関係法令違反は758件であり、前年と比較して9件増加しました。違反の種類別に見ると、船舶からの油の不法排出や、廃棄物、廃船の不法投棄が多くなっています。これらの違反は、適正な処理費用や設備整備への投資を惜しんでの行為であることが多く、その形態も、夜陰に紛れた不法排出や不法投棄、船名や船体番号を抹消した上での廃船の投棄等、悪質・巧妙なケースが見受けられます。

不法に投棄された廃船
不法に投棄された廃船
外国船舶による海洋汚染への対応

外国船舶による海洋汚染については、領海のみならず、EEZにおいても取締りを行っており、令和2年は8隻を検挙しました。なお、国連海洋法条約に基づき、船舶の航行の利益を考慮し、担保金制度を適用しました。

また、我が国の法令を適用できない公海等において外国船舶の油等の排出を確認した場合には、当該船舶の旗国に排出事実を通報し、適切な措置を求めています(令和2年旗国通報件数:1件)。

2 海洋環境調査
海洋汚染の調査

海上保安庁では、海洋汚染の状況を正確に把握するため、閉鎖性の高い港湾等において、測量船により定期的に海水や海底堆積物を採取し、油分、PCB(ポリ塩化ビフェニル)、重金属等の調査を継続的に行っています。

表面採水作業
表面採水作業
海底堆積物の分析作業
海底堆積物の分析作業
放射能調査

海洋環境モニタリングの一環として、核実験や放射性廃棄物の海洋投棄等による海洋環境への影響を把握するため、日本周辺海域において海水や海底堆積物を採取し、人工放射性物質の調査を継続的に行っています。

また、原子力規制庁が定める実施要領に基づき、原子力艦が寄港する横須賀港(神奈川県)、佐世保港(長崎県)、金武中城港(沖縄県)において、周辺住民の安全・安心を確保するため、定期的に海水や海底堆積物を採取し、放射能調査を行うとともに、原子力艦の入港前、寄港時、出港後の放射能調査を行っています。さらに、平成23年3月の東京電力福島第一原子力発電所事故に対応する政府の総合モニタリング計画に基づいた放射能調査も行っています。

3 海洋環境保全に関する指導・啓発

海洋汚染を防止し、海洋環境を保全するためには、国民の皆様に意識を高めていただくことが重要です。海上保安庁では、毎年5月30日から6月30日までの期間を「海洋環境保全推進月間」とし、「未来に残そう青い海」をスローガンに、海洋環境保全に関する指導・啓発活動を重点的に実施しています。

その一環として、海事・漁業関係者、マリンレジャー等を行う方々を対象とした海洋環境保全講習会、若年層を含む一般市民の方々を対象とした海洋環境保全教室、地域の方々とも連携した海浜清掃などのイベントを開催し、全国各地の海上保安庁職員がそれぞれの地域において工夫を凝らした活動を行っています。また、海に関心を持ってもらうとともに、海洋環境保全思想の普及を図ることを目的として、全国の小中学生を対象に、公益財団法人海上保安協会と共催で「未来に残そう青い海・海上保安庁図画コンクール」を開催しています。

令和2年度は、新型コロナウイルス感染症の影響を受け、予定されていたイベントが全国各地で中止や延期となり、例年どおりの活動をすることは困難となりましたが、海上保安庁では、地域の感染状況を考慮しつつ、感染症対策に万全を期したうえで、様々な活動に取り組みました。

例えば、環境省と「CHANGE FOR THE BLUE」を推進する日本財団の共同事業である「海ごみゼロウィーク」一斉清掃については、海上保安庁も積極的に協力し、海上保安協会、自治体、学校等とも連携して3密(密閉空間、密集、密接場面)を避けるなど、感染防止対策を徹底することにより、地域の方々のご理解とご協力を得たうえで、全国の海岸等で海浜清掃を行いました。あわせて海洋環境保全啓発活動を実施することで、多数の方々に身近なごみが海洋汚染に結びつく現状を体感してもらうなど、海洋環境保全の意識高揚につなげるための活動を重点的に行いました。

海浜清掃活動
海浜清掃活動
海洋環境保全啓発を目的とした動画の作成(第五管区)
海洋環境保全啓発を目的とした動画の作成(第五管区)
海洋環境保全教室
海洋環境保全教室
訪船指導
訪船指導
4 海の再生プロジェクト

海洋環境の保全・再生のためには、関係機関が連携して取り組むことが重要です。このような連携の一つとして、東京湾、伊勢湾、大阪湾及び広島湾では「海の再生プロジェクト」が進められています。これらのプロジェクトでは、海上保安庁を含む国や自治体、教育・研究機関、民間企業、市民団体等の関係機関が連携し、陸域からの汚濁負荷削減対策、海域の環境改善対策及び環境モニタリングを推進しています。

海上保安庁は、「海の再生プロジェクト」の各種施策のうち、環境モニタリングに取り組んでおり、測量船によって海水の透明度や溶存酸素等の水質観測を定期的に行っています。夏季には上記の各湾において環境に関する一斉調査が開催されており、海上保安庁も関係機関と連携して湾内や周辺の環境の把握に努めています。特に東京湾における一斉調査では事務局の一員として、水質調査・生物調査・環境啓発活動といった各種取組の取りまとめを実施しています。令和2年度の東京湾環境一斉調査では、民間企業や市民団体を含む162の機関が水質調査に参加しました。

海の再生プロジェクトの概念図

海の再生プロジェクトの概念図
令和2年度の東京湾環境一斉調査の結果(底層の溶存酸素量(DO)分布)
一部に、溶存酸素量が3.0mg/Lを下回った貧酸素水塊の分布が見られた
今後の取組

海上保安庁では、海洋環境調査により海洋汚染の現況を的確に把握するとともに、海上環境関係法令違反の厳正な監視・取締りを実施します。また、広く指導・啓発活動を推進するとともに、関係機関と情報共有体制を構築し、各機関と連携・協力して海洋環境保全につながる取組を推進していきます。

未来に残そう青い海・海上保安庁図画コンクールの開催

海上保安庁では、将来を担う小中学生の子どもたちに海洋環境について考える機会を提供することで海への関心を高め、海洋環境保全思想の普及を図るとともに、海上保安業務への理解の促進を図ることを目的として、公益財団法人海上保安協会と共催で「未来に残そう青い海・海上保安庁図画コンクール」を開催しています。

第21回目となる令和2年度の図画コンクールは、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、全国の小中学校では授業日数確保のため、夏季休暇が大幅に短縮される見込みであったことから、地域の教育委員会及び学校の事務負担の軽減等を考慮して、小中学生が手軽に描けて、ポストに直接投函できるよう、用紙の大きさを従来の「四つ切サイズ」から「ハガキサイズ」に変更して開催しました。

全国の小中学生から3,706点の応募があり、審査及び選考の結果、特別賞(国土交通大臣賞)、海上保安庁長官賞等を決定しました。

受賞作品をはじめ、全国から集まった作品は、各地でのさまざまなイベント及び広報に活用され、海洋環境保全思想の普及に貢献しています。

国土交通大臣による選考
国土交通大臣による選考
特別賞(国土交通大臣賞)
特別賞
徳島県
徳島市国府小学校 2年生
青木 勇麻(あおきゆうま)さん
海上保安庁長官賞
海上保安庁長官賞-1
小学生高学年部門
鹿児島県 鹿児島市立草牟田小学校 6年生
桃北(ももきた)はなさん
海上保安庁長官賞-2
小学生低学年部門
北海道 小樽市立花園小学校 2年生
山口 敬太(やまぐちけいた)さん
海上保安庁長官賞-3
中学生部門
福島県 福島県立ふたば未来学園中学校 2年生
八木 香練(やぎかれん)さん