海上保安レポート 2020

はじめに


TOPICS 海上保安庁、この1年


特集 海上保安庁新時代


海上保安庁の任務・体制


■本編

1 治安の確保

2 生命を救う

3 青い海を守る

4 災害に備える

5 海を知る

6 海上交通の安全を守る

7 海をつなぐ


語句説明・索引


図表索引


資料編

7 海をつなぐ > CHAPTER I. 各国海上保安機関との連携・協力
7 海をつなぐ
CHAPTER I. 各国海上保安機関との連携・協力

犯罪は国際犯罪組織が関与するものも発生し、事故・災害は大規模化する傾向にある中、一つの国の管轄権が行使できる海域には制約があります。

海に関する問題は、一つの国で解決することが困難なものが多く、海でつながる諸外国と連携・協力して対処することが極めて重要です。海上保安庁では、諸外国との合同訓練や共同パトロール等を通じ、これら海上保安機関間の協力関係を実質的な活動に発展させるよう主導し、さまざまな分野で連携・協力を図っています。

多国間での連携・協力
1 世界海上保安機関長官級会合(Coast Guard Global Summit)

海洋の安全と平和、そして美しい海洋環境は、国際社会の繁栄に不可欠なものです。一方、近年は、地球規模での自然環境や社会環境の変化により、海洋においても、大規模な自然災害による被害や、薬物犯罪等国境を越える犯罪の脅威が拡大しています。このように地球規模の課題が拡がる中で、平和で豊かな海を次世代に継承していくためには、平和と治安の安定機能としての役割を担う海上保安機関が世界的に連携し協力することが強く求められるようになってきました。

こうした背景の下、世界の海上保安機関が地域の枠組を超え、法の支配に基づく海洋秩序の維持等基本的な価値観を共有し、力を結集してこれらの課題に取り組むため、海上保安庁は、平成29年9月、世界で初めて世界各国の海上保安機関等のトップが一堂に会する「世界海上保安機関長官級会合」を日本財団と共催しました。

世界34か国1地域、38の海上保安機関等の長官級が参加したこの会合では、世界中の海上保安機関間における対話と連携・協力の強化、その知恵や先進的な取組を共有することの重要性を確認しました。

令和元年11月、第1回の長官級会合の規模を大きく上回る、世界75か国、84の海上保安機関等の長官級をはじめ約190名以上が参加した「第2回世界海上保安機関長官級会合」が東京で海上保安庁と日本財団の共催により開催されました。この会合によって、世界各国の海上保安機関が、“the first responders and front-line actors”として直面する地球規模の課題を克服するためには、共通の行動理念の理解を深め、全世界の海上保安能力を向上させることが重要であり、そのためにこの会合を継続して開催していく旨認識を共有するとともに、地球規模の課題に対応するための人材育成に向けた取組に着手すること、先進的な成功事例及び経験等の情報を共有するためのウェブサイトの創設に向けて具体的な検討を行うこと等に合意しました。令和2年には「第2回世界海上保安機関実務者会合」が東京で開催される予定です。

世界海上保安機関長官級会合-1
議長を務める海上保安庁長官(右)

議長を務める海上保安庁長官(右)

世界海上保安機関長官級会合-2
第2回世界海上保安機関長官級会合集合写真

第2回世界海上保安機関長官級会合集合写真

2 北太平洋海上保安フォーラム(NPCGF)

北太平洋海上保安フォーラムは、北太平洋地域の6か国(日本、カナダ、中国、韓国、ロシア、米国)の海上保安機関の代表が一堂に会し、北太平洋の海上の安全・セキュリティの確保、海洋環境の保全等を目的とした各国間の連携・協力について協議する多国間の枠組であり、海上保安庁の提唱により、平成12年から開催されています。

このフォーラムの枠組の下、参加6か国の海上保安機関は、北太平洋の公海における違法操業の取締りを目的とした漁業監視共同パトロールや、現場レベルでの連携をより実践的なものとするための多国間多目的訓練(MMEX)等を行っています。また、今後の連携・協力の方向性やこれまでの活動の成果について議論するため、毎年、長官級会合(サミット)と、実務者による専門家会合を開催しています。

令和元年6月には東京において、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会における海上警備対策と救助対応をテーマとした、多国間多目的訓練を実施しました。10月には、長官級会合がウラジオストク(ロシア)で開催され、参加6カ国が連携して実施する取組及び今後の活動の方向性について議論が行われたほか、海上での犯罪取締り等に関する情報交換も行われ、北太平洋の治安の維持と安全の確保における多国間での連携・協力の推進が確認されました。

北太平洋海上保安フォーラムの様子(於:ウラジオストク)

北太平洋海上保安フォーラムの様子(於:ウラジオストク)

多国間多目的訓練の様子(於:東京)

多国間多目的訓練の様子(於:東京)

3 アジア海上保安機関長官級会合(HACGAM)

アジア海上保安機関長官級会合は、海上保安機関の長官級が一堂に会して、アジアでの海上保安業務に関する地域的な連携強化を図ることを目的とした多国間の枠組であり、海上保安庁の提唱により、平成16年から開催されています。

令和元年10月には第15回長官級会合がコロンボ(スリランカ)で開催され、HACGAMウェブサイトの運用開始に向け、試行運用を開始することについて合意がなされたほか、「捜索救助」、「海洋環境保全」、「海上不法活動の予防・取締り」及び「人材育成」の4分野について、より実践的な協力を推進していくため、各ワーキンググループの活動方針等について議論がなされました。

第15回長官級会合集合写真

第15回長官級会合集合写真

二国間での連携・協力
1 アメリカ

海上保安庁は米国沿岸警備隊(USCG)を模範として設立、2010年には「米国沿岸警備隊と海上保安庁との間の覚書」を署名・交換しました。同覚書に基づき、職員交流並びに情報共有・交換を実施しています。令和元年10月には東京において5年ぶりとなる日米海上保安機関長官級会合が開催され、日米両長官の間で、練習船こじまによる学生交流プログラム、東南アジア諸国の海上保安機関に対する能力向上支援における協力、北太平洋公海上における漁業監視共同パトロール、サイバーセキュリティ分野における今後の連携等、幅広い分野において意見交換が行われ、両機関間の連携・協力の重要性について確認しました。

日米海上保安機関長官級会合(於:東京)

日米海上保安機関長官級会合(於:東京)

2 韓国

海上保安庁と韓国海洋警察庁は、海域を接する両国間における海上の秩序の維持を図り、幅広い分野での相互理解・業務協力を推進するため、平成11年からこれまでに合計18回、日韓海上保安当局間長官級協議を開催しています。

18回目となる協議は、令和元年12月東京において、最近の両機関による連携・協力状況を評価するとともに、今後、二国間協力のみならず、多国間の枠組においても連携・協力していくことで双方一致しました。

令和元年10月には、第七管区海上保安本部と南海地方海洋警察庁が、12月には第八管区海上保安本部と東海地方海洋警察庁が双方の船艇を用いた日韓合同捜索救助訓練を実施しました。

日韓海上保安当局間長官級協議(於:東京)

日韓海上保安当局間長官級協議(於:東京)

3 ロシア

海上保安庁とロシア連邦保安庁国境警備局は、海上での密輸・密航の不法活動の取締り等に関する相互協力のため、平成12年9月に締結した「日本国海上保安庁とロシア連邦国境警備庁(現ロシア連邦保安庁国境警備局)との間の協力の発展の基盤に関する覚書」に基づき、これまで原則年1回の長官級会合のほか、日露合同訓練等を実施し、協力関係の推進を図っています。

令和元年7月にはロシア・モスクワにおいて日露海上警備機関長官級会合が開催され、覚書に基づく両機関間の連携・協力関係を維持していく事で一致するとともに、引き続き、両機関間のみならず多国間の枠組においても連携・協力していく事で一致しました。同9月には第一管区海上保安本部長を団長とする代表団及び巡視船「つがる」がサハリン(ロシア)を訪問し、サハリン州国境警備局と連携した、密輸・密航容疑船捕捉訓練及び海中転落者に対する吊上げ救助訓練を実施しました。

日露海上警備機関長官級会合(於:モスクワ)

日露海上警備機関長官級会合(於:モスクワ)

4 インド

平成11年に発生した、「アロンドラ・レインボー号」(日本人船長・機関長が乗船)がマラッカ海峡で海賊に襲われた事件で、インド沿岸警備隊が海軍と連携して海賊を確保したことを契機に、海上保安庁とインド沿岸警備隊は、平成12年以降、定期的に、長官級会合や連携訓練を実施しています。

令和2年1月には、第19回長官級会合をデリー(インド)で開催し、両機関の連携・協力を推進していくことで一致しました。また、チェンナイにおいて、連携訓練として、海賊対処にかかる情報伝達訓練から追跡、捕捉、停船移乗訓練等の一連の流れを実施しました。連携訓練には、当庁から第九管区海上保安本部所属巡視船えちご、同船搭載機(ヘリコプター1機)が参加し、インド沿岸警備隊の巡視船艇および航空機と訓練を行いました。

日印海上保安機関長官級会合(於:デリー)

日印海上保安機関長官級会合(於:デリー)

日印代表団

日印代表団

5 べトナム

平成27年9月、海上保安庁とベトナム海上警察は、海上法執行機関として、安全で開かれ安定した海を維持することが両国の繁栄に寄与するとの価値観を共有し、海上保安分野に係る人材育成、情報の共有と交換の維持などについて覚書を締結しました。令和元年12月には、ベトナム海上警察巡視船が日本に初寄港し、海難救助に関する訓練及びワークショップを開催しました。また、日越海上保安機関実務者会合を実施し、海上保安庁モバイルコーポレーションチーム(MCT)の派遣を柱とする、ベトナム海上警察に対する今後の支援の方向性について合意しました。

ベトナム海上警察巡視船日本寄港(於:横浜)

ベトナム海上警察巡視船日本寄港(於:横浜)

6 インドネシア

令和元年6月、海上保安庁とインドネシア海上保安機構は、海上安全に係る能力向上、情報共有、定期的な会合の開催等に関し、両機関の連携強化を目的とした長官級の協力覚書に署名しました。

協力覚書署名式(於:東京)

協力覚書署名式(於:東京)

国際緊急援助活動について

我が国は、海外の地域、特に開発途上にある海外の地域において、大規模な災害が発生した場合、被災国政府または国際機関の要請に応じ、救助や災害復旧等の活動を行う国際緊急援助隊を派遣しており、海上保安庁もこれに協力しています。

油防除専門家チーム

油防除専門家チーム
国際緊急援助隊の活動(平成29年9月メキシコ地震・倒壊した家屋での活動)JICA提供

国際緊急援助隊の活動(平成29年9月メキシコ地震・倒壊した家屋での活動)JICA提供

国際緊急援助隊の活動(平成29年9月メキシコ地震・救助手順を確認する隊員)JICA提供

国際緊急援助隊の活動(平成29年9月メキシコ地震・救助手順を確認する隊員)JICA提供

今後の取組

海上保安庁は、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて、法の支配に基づく自由で開かれた海洋秩序の維持・強化のため、二国間・多国間会合や合同訓練等を通じ、各国の海上保安機関との連携・協力を推進していきます。