海上保安レポート 2019

はじめに


TOPICS 海上保安の一年


特集 増大する危機に立ち向かう


目指せ! 海上保安官


海上保安庁の任務・体制


■本編

1 治安の確保

2 生命を救う

3 青い海を守る

4 災害に備える

5 海を知る

6 交通の安全を守る

7 海をつなぐ


語句説明・索引


図表索引


資料編

5 海を知る > CHAPTER I. 海洋調査
5 海を知る
CHAPTER I. 海洋調査

海上保安庁では、海洋権益の確保、海上交通の安全、海洋環境の保全や防災といったさまざまな目的のために海洋調査を実施しています。特に近年では、我が国の管轄海域や新たな海洋資源の開発・利用等への関心が高まる中、海洋権益確保の基礎となる海洋調査が重要となっています。

平成30年の現況
1 海洋権益の確保のために

四方を海に囲まれた我が国にとって、領海排他的経済水域(EEZ)等の海洋権益を確保することは極めて重要であり、その基礎となる海洋情報の整備は不可欠です。海上保安庁では東シナ海において、測量船に搭載されたマルチビーム測深機や自律型潜水調査機器(AUV)等による海底地形調査、地殻構造調査や底質調査等の調査を重点的に推進するとともに、航空機に搭載した航空レーザー測深機等により、領海EEZの外縁の根拠となる低潮線等の調査を実施しています。

西之島の現状〜管轄海域が約50km2拡大見込み〜

海上保安庁では、火山活動によって面積が拡大した西之島の領海及び排他的経済水域の画定及び船舶の航行安全に資する資料を得るために、航空レーザー測量を平成30年7月4日から7日に実施しました。

本調査で取得した調査データを解析した結果、平成29年6月に発行した海図に基づく領海及び排他的経済水域の面積と比べてそれぞれ約4km2、約46km2拡大する見込みです。

また、西之島は、平成29年4月に再噴火したのちに噴火活動が一時沈静化していましたが平成30年7月12日、新たな噴火が確認されました。噴火直後には小規模な爆発的噴火や噴煙、溶岩流が確認されましたが、その後、噴火活動は沈静化し、静穏な状態が続いています。

海上保安庁は、引き続き、西之島及びその周辺の航行安全及び火山活動の動静を把握するため、定期的に西之島の調査を実施してまいります。

航空機内での観測の様子

航空機内での観測の様子

航空レーザー測量の調査結果

航空レーザー測量の調査結果

噴煙を上げる西之島(平成30年7月12日)

噴煙を上げる西之島(平成30年7月12日)

静穏な西之島(平成30年7月30日)

静穏な西之島(平成30年7月30日)

2 海上交通の安全のために

船舶の安全な航行を確保するためには、最新の情報が掲載された海図や海の流れ・潮の満ち引きといった海洋情報が必要です。海上保安庁では、測量船や航空機等により海底地形の調査等を行い、海図を最新の情報に更新するとともに、測量船や海洋短波レーダー、自律型海洋観測装置(AOV)、験潮所等により海潮流や水温、潮位などの情報を収集し、インターネットにより情報提供することで海上交通の安全に貢献しています。

観測中のAOV

観測中のAOV

3 さまざまな目的のために

海洋調査は、海洋権益の確保や海上交通の安全のほか、海洋環境の保全や防災のためにも実施されています。

海上保安庁では、海洋環境の変化を的確に把握するため、海水や海底堆積物を採取し、汚染物質や放射性物質の調査を継続的に行っています(詳しくは2 海洋環境調査)。また、海底地殻変動観測(詳しくは海底地殻変動の観測)、海底地形調査、海域火山の活動監視観測等を実施し、大規模地震発生のメカニズムや海域火山の構造等の解明に役立てています。

その他、さまざまな目的に用いるため、詳細な海底地形図を作成しています。さらに、世界の海底地形名を標準化するための国際会議(海底地形名小委員会)に海底地形名を提案しており、平成30年は我が国から73件が承認されました。

海底地殻変動観測の基準局を投入する様子

海底地殻変動観測の基準局を投入する様子

領海・EEZはどう決まる?〜海上保安庁の精密低潮線調査〜

国連海洋法条約によると、領海EEZの根拠について、「通常の基線は、沿岸国が公認する大縮尺海図に記載されている海岸の低潮線とする」とされています。低潮線とは、海面が最も低いときの陸地と水面の境界線で、領海EEZの拡大には低潮線の精密な決定が必要です。

海上保安庁では、精密に低潮線を決定するために、航空機やAOVによる調査を実施しています。航空機ではレーザー測量により、水深が浅い海域を効率的に測量することで、詳細な低潮線を調査することが可能です。AOVは波の力を動力源として進み、ソーラーパネルによりバッテリーを充電し、洋上で長期間にわたり潮位を観測します。

これらの技術を組み合わせることで、新たな浅瀬や低潮線を発見する可能性があり、領海EEZの外縁の根拠になります。このように引き続き海上保安庁は領海EEZの拡大に貢献していきます。


日本の「海」について

四方を海に囲まれた我が国は、国土面積の約12倍、447万km2にも及ぶ領海EEZを有しています。

また、平成24年4月国連大陸棚限界委員会からの勧告により、我が国の国土面積の約8割にあたる大陸棚の延長が認められました。これを受け、平成26年10月には我が国初の延長大陸棚が設定されました。

※国連海洋法条約第7部(公海)の規定はすべて、実線部分に適用されます。また、航行の自由をはじめとする一定の事項については、点線部分にも適用されます。


国連海洋法条約に基づく沿岸国の管轄海域は次のとおりです。

※以下の内容はあくまで一般的な場合の説明です。詳細については、外務省のHP、関係法令等を参照してください。


1 領海

領海基線(7参照)からその外側12海里(約22km)の線までの海域で、沿岸国の主権が及びますが、領海に対する主権は国連海洋法条約及び国際法の他の規則に従って行使されます。

すべての国の船舶は、領海において無害通航権を有します。また、沿岸国の主権は、領海の上空、海底及び海底下にまで及びます。

*沿岸国の平和、秩序又は安全を害しない限り、沿岸国に妨げられることなくその領海を通航する権利。


2 接続水域

領海基線からその外側24海里(約44km)の線までの海域(領海を除く。)で、沿岸国が、自国の領域における通関、財政、出入国管理(密輸入や密入国等)又は衛生(伝染病等)に関する法令の違反の防止及び処罰を行うことが認められた水域です。


3 排他的経済水域(EEZ)

原則として領海基線からその外側200海里(約370km)の線までの海域(領海を除く。)です。

なお、排他的経済水域においては、沿岸国に以下の権利、管轄権等が認められています。

  1. 水域並びに海底及びその下の天然資源の探査、開発、保存及び管理等のための主権的権利
  2. 人工島、施設及び構築物の設置及び利用に関する管轄権
  3. 海洋の科学的調査に関する管轄権
  4. 海洋環境の保護及び保全に関する管轄権

4 公海

国連海洋法条約上、公海に関する規定は、いずれの国の排他的経済水域領海若しくは内水又はいずれの群島国の群島水域にも含まれない海洋のすべての部分に適用されます。

公海はすべての国に開放され、すべての国が公海の自由(航行の自由、上空飛行の自由、一定の条件の下での漁獲の自由、海洋の科学的調査の自由等)を享受します。


5 深海底

深海底及びその資源は「人類共同の財産」と位置付けられ、いずれの国も深海底又はその資源について主権又は主権的権利を主張又は行使できません。


6 大陸棚

原則として領海基線からその外側200海里(約370km)の線までの海域(領海を除く。)の海底及びその下ですが、地質的及び地形的条件等によっては国連海洋法条約の規定に従い延長することができます。

沿岸国には、大陸棚を探査し及びその天然資源を開発するための主権的権利を行使することが認められています。


7 領海基線

領海の幅を測る基準となる線です。通常は、海岸の低潮線(干満により、海面が最も低くなったときに陸地と水面の境界となる線)ですが、海岸が著しく曲折しているか、海岸に沿って至近距離に一連の島がある場所には、一定の条件を満たす場合、適当な地点を結んだ直線を基線(直線基線)とすることができます。


8 内水

領海基線の陸地側の水域で、沿岸国の主権が及びます。

ただし、直線基線の適用以前には内水とされていなかった水域を内水として取り込むこととなる場合には、すべての国の船舶は、無害通航権を有します。


9 低潮高地

低潮高地とは、自然に形成された陸地であって、低潮時には水に囲まれ水面上にあるが、高潮時には水中に没するものをいいます。低潮高地の全部又は一部が本土又は島から領海の幅を超えない距離にあるときは、その低潮線は、領海の幅を測定するための基線として用いることができます。

低潮高地は、その全部が本土又は島から領海の幅を超える距離にあるときは、それ自体の領海を有しません。


海洋境界をめぐる主張への対応

近年、東シナ海の我が国周辺海域において、二国間の地理的中間線を越えた一方的な境界画定を主張している国があります。

沿岸国は、国連海洋法条約の関連規定に基づき、領海基線から200海里までのEEZ及び大陸棚の権原を有していますが、東シナ海をはさんで向かい合っている日中・日韓それぞれの領海基線の間の距離は400海里未満ですので、双方のEEZ及び大陸棚が重なる部分について、相手国との合意により境界を画定する必要があります。


平成30年度の現況
中国及び韓国の大陸棚延長申請への対応

中国及び韓国は、東シナ海における境界画定は東シナ海の特性を踏まえるべきであり、沖縄トラフで大陸性地殻が切れると主張し、平成24年12月、大陸棚限界委員会に対し、沖縄トラフまでを自国の大陸棚とする大陸棚延長申請を行いました。昭和57年に採択された国連海洋法条約の関連規定とその後の国際判例に基づけば、向かい合う国の距離が400海里未満の水域において境界を画定するにあたっては、自然延長論が認められる余地はなく、また、沖縄トラフのような海底地形に法的な意味はありません。したがって、大陸棚を沖縄トラフまで主張できるとの考えは、現在の国際法に照らせば根拠に欠けます。

※国連海洋法条約は、沿岸国の大陸棚を領海基線から200海里と定める一方、海底地形等の条件を満たせば、200海里を超える大陸棚を設定できることを定めている。


中国及び韓国の大陸棚延長申請に対する我が国の立場は、「国連海洋法条約の関連規定に従って、両国間それぞれの同意により境界を画定する必要があり、中国及び韓国の大陸棚延長申請については、審査入りに必要となる事前の同意を与えていない」というものであり、大陸棚限界委員会に中国及び韓国の申請を審査しないよう求めた結果、同委員会は審査を行なわないと決定しております。中国及び韓国の大陸棚延長申請の審査順が到来しても、現在のところ、審査の実施は想定されていません。

しかしながら、中国及び韓国は海洋調査体制を強化しており、我が国としても科学的調査データを収集・整備しておく必要があります。

海上保安庁では、我が国の海洋権益を確保するため、外務省等の国内関係機関との協力・連携を進めつつ、他国による日本とは異なる境界画定の主張に対応するために必要な海洋調査を計画的に実施していきます。

今後の取り組み

海洋権益の確保のため、今後も引き続き、領海排他的経済水域(EEZ)等における海底地形や地殻構造等の調査を実施するとともに、低潮線等の調査を実施していきます。

また、最新の観測結果を海図へ反映させることで、より一層海上交通の安全確保に努めます。さらに、海潮流、潮汐の観測や海洋汚染調査、海底地殻変動観測、海域火山の監視観測など、さまざまな目的に合わせた海洋調査を実施することで、海洋情報の収集に努めます。