海上保安レポート 2019

はじめに


TOPICS 海上保安の一年


特集 増大する危機に立ち向かう


目指せ! 海上保安官


海上保安庁の任務・体制


■本編

1 治安の確保

2 生命を救う

3 青い海を守る

4 災害に備える

5 海を知る

6 交通の安全を守る

7 海をつなぐ


語句説明・索引


図表索引


資料編

4 災害に備える > CHAPTER II. 自然災害対策
4 災害に備える
CHAPTER II. 自然災害対策

近い将来に発生が懸念されている南海トラフ巨大地震や首都直下地震、激甚化する豪雨災害等、自然災害への対策は重要性を増しています。

海上保安庁では、自然災害が発生した場合には、人命・財産を保護するため、海陸を問わず、災害応急活動を実施するほか、自然災害に備えた灯台等の航路標識の災害対策や防災情報の整備・提供、関係機関との連携強化等に努めています。

平成30年の現況
自然災害への対応

海上保安庁は、自然災害が発生した場合、被害が海上に及ばない場合でも、巡視船艇、航空機及び特殊救難隊等の機動力を活用して、人命救助、被害状況の調査等を行います。また、被災住民の避難支援のほか、被災地域のニーズを踏まえた給水・給電支援、入浴提供及び医療関係者や支援物資の搬送等を実施しています。また、これら支援情報は、SNS等も活用し、被災地住民にお知らせしています。

航空機による吊り上げ救助
航空機による吊り上げ救助
漂流ガスボンベの回収
漂流ガスボンベの回収
平成30年7月豪雨への対応

平成30年6月28日以降、梅雨前線が日本付近に停滞し、また台風第7号が日本に接近した影響により、西日本を中心に広い範囲で記録的な大雨となり、各地で甚大な被害が発生しました。

海上保安庁では、本庁及び第五、六、八管区海上保安本部に対策本部を設置し、広島県、岡山県、愛媛県など10県7市町村に延べ172名の海上保安官を派遣するなどして情報収集等にあたるとともに航行警報等により海上漂流物等の情報提供を行いました。また、巡視船艇延べ989隻、航空機延べ125機を投入し、海上・河口付近において行方不明者の捜索にあたり、患者27名、医師等40名を含む244名の救助・搬送を行ったほか、海上に流出したガスボンベや流木の回収など、海上交通の安全確保にあたりました。さらに、広島県等の断水地域において、大型巡視船等により合計1028トン(給水車479回、住民2153人)の給水支援を行うとともに、孤立地域に食料や飲料水等の支援物資輸送等を行いました。

自衛隊給水車への給水支援
自衛隊給水車への給水支援
自治体給水車への給水支援
自治体給水車への給水支援
平成30年台風第21号への対応

台風第21号は、9月4日に非常に強い勢力を保ったまま徳島県南部に上陸し、その後、速度を上げながら近畿地方を縦断しました。関西国際空港付近では最大瞬間風速58.1メートルの猛烈な風雨を記録し、大阪湾などに面した沿岸部では記録的な高潮が発生しました。これらの影響により、関西国際空港連絡橋への船舶衝突海難、阪神港におけるコンテナの海上流出、中古車両の火災、小型船舶等の流出など、衝突海難1隻、乗揚げ海難29隻、転覆海難29隻が発生しました。

海上保安庁では、走錨が疑われる船舶への注意喚起・指導、また航行警報等により海上に流出したコンテナ等の情報提供、海難船舶から乗組員2名のヘリコプターによる吊り上げ救助及び消火活動等を行いました。

関西国際空港連絡橋に衝突したタンカーからの航空機による吊り上げ救助
関西国際空港連絡橋に衝突したタンカーからの航空機による吊り上げ救助
中古車両火災現場での消火活動
中古車両火災現場での消火活動
防波堤に乗り揚げた船舶
防波堤に乗り揚げた船舶
北海道胆振東部地震への対応

平成30年9月6日3時7分頃、北海道胆振地方中東部でマグニチュード6.7の地震が発生し、胆振地方で最大震度7を観測しました。

海上保安庁では、地震発生後直ちに、本庁及び第一管区海上保安本部に対策本部を設置し、巡視船艇、航空機により被害状況を調査するとともに、羽田特殊救難基地に所属する特殊救難隊及び函館航空基地に所属する機動救難士を北海道勇払郡厚真町(ゆうふつぐんあつまちょう)に派遣し、行方不明者の捜索や被害状況調査等を行いました。また、日本赤十字社からの要請に基づき、当庁航空機により医師等を搬送したほか、国土交通省緊急災害対策派遣隊(TEC-FORCE)の隊員及び資機材を被災地へ搬送しました。

さらに、地震災害の影響で北海道全域に停電が発生し、市民生活に多くの支障が生じていたこと等から、室蘭、小樽、釧路、根室の各港において停泊中の巡視船に24時間対応の電源供給ブースを設置し、合計1551名に対し携帯電話等への給電支援を行いました。

航空機による医師等の搬送
航空機による医師等の搬送
特殊救難隊等による被害状況調査
特殊救難隊等による被害状況調査
携帯電話等への給電支援
携帯電話等への給電支援
東日本大震災からの復旧・復興に向けた取組み

海上保安庁では、引き続き第二管区海上保安本部を中心に、東日本大震災からの復旧・復興に向けた取組みを実施しています。

平成30年においても、地元自治体の要望に応じ、潜水士による潜水捜索や警察、消防と合同捜索を実施しています。

また、被災地での海上交通の安全を確保するため、被災した灯台等の航路標識158基のうち、航路標識として廃止した3基を除き、仮復旧等を含め155基を復旧させました。

自然災害に備える体制の強化
海上交通の防災対策

海上保安庁では、台風や地震などの自然災害発生時においても、海上交通の安全の確保を図るため、航行船舶の動静を常に把握し、走錨等の危険回避のための注意喚起・指導や、防災情報の提供等を行っています。

また、自然災害発生後も、船舶交通の安全確保のため、航路標識の被災状況の迅速な調査及び復旧を行っています。

平成30年度においては、自然災害に伴う航路標識の倒壊や消灯を未然に防止し、災害時でも海上輸送ルートの安全確保を図るため、航路標識の耐震補強、耐波浪補強及びLED灯器の耐波浪化による防災対策に係る整備を推進しました。

また、台風第21号及び北海道胆振東部地震等による航路標識の倒壊等を踏まえ、全国の航路標識等の重要インフラの緊急点検を行い、必要な措置を講じていくこととしました。

さらに、台風21号が大阪湾付近を通過した際、タンカーが走錨し、関西国際空港連絡橋に衝突した事故を受け、有識者及び海事関係者等による検討会を設置し、荒天時の走錨等により、重要施設に甚大な被害をもたらすような事故の再発を防止するために必要な事項について検討を行いました。

防災情報の整備・提供

海上保安庁では、災害発生時の船舶の安全や避難計画の策定等の防災対策に活用していただくため、防災に関する情報の整備・提供も行っています。西之島をはじめとする南方諸島や南西諸島等の火山島や海底火山について、海底地形、地下構造等の調査、火山の活動状況の監視を実施し、付近を航行する船舶の安全に支障を及ぼすような状況がある場合には、航行警報等により航行船舶への注意喚起等を行っています。

そのほかにも、船舶の津波避難計画の策定等に役立つように、大規模地震による津波被害が想定される港湾及び沿岸海域を対象に、予測される津波の到達時間や波高、流向・流速等を記載した「津波防災情報図」を整備・提供しているほか、津波浸水想定の設定に活用してもらうため、海底地形のデータを自治体に提供しています。

また、「海の安全情報」において、気象・海象の現況のほか、自然災害時における避難勧告、航行の制限等の緊急情報を提供しています。

海底地殻変動の観測

日本列島周辺では、複数のプレートが複雑に接しており、海側のプレートが海溝で、陸側のプレートの下に沈み込むことで蓄積されたプレートのひずみが限界を超えることにより、巨大地震が発生すると考えられています。

海上保安庁では、GNSS測位と海中での音響測距技術を組み合わせた海底地殻変動観測を平成12年度から行っています。この観測では、将来の海溝型地震の発生が予想される南海トラフや東北地方太平洋沖地震後の挙動が注目される日本海溝において、陸側のプレート上に海底局を設置して、陸側のプレートの動きを調べています。この調査により、プレート間の固着具合やひずみの蓄積具合の推定による海溝型地震の予測や、地震に伴う地殻変動の観測による地震メカニズムの解明に貢献しています。

平成30年度においては、東北地方太平洋沖地震後の地殻変動や、南海トラフにおけるプレートの固着状態を継続的に観測し、データの蓄積と提供を行いました。

*GNSS(Global Navigation Satellite System):GPS等の人工衛星から発射される信号を用いて地球上の位置等を測定する衛星測位システムの総称

関係機関との連携・訓練

災害応急対応にあたっては地域や関係機関との連携が重要であることから、海上保安庁では、関係機関との合同訓練に参画するなど、地域や関係機関との連携強化を図っています。平成30年度は、迅速な対応勢力の投入や非常時における円滑な通信体制の確保等を念頭に置いた防災訓練等、関係機関と連携した合同防災訓練を354回実施しました。また、主要な港では、関係機関による「船舶津波対策協議会」を設置し、海上保安庁が収集・整理した津波防災に関するデータを活用しながら、港内の船舶津波対策を検討しています。

今後の取組み

海上保安庁では、東日本大震災被災地の復旧・復興に向けた取組みを継続するとともに、2020年には東京オリンピック・パラリンピック競技大会が開催されることをふまえ、起こりうる自然災害に備えるため、巡視船艇・航空機等の必要な体制の整備や、関係機関との連携強化、防災に関する情報の整備・提供、航路標識の防災対策等を引き続き推進していきます。

また、平成30年度に実施した重要インフラの緊急点検の結果を踏まえ、海域監視体制の強化及び灯台の海水浸入防止対策等の防災・減災、国土強靱化のための対策を推進していきます。

さらに、「荒天時の走錨等に起因する事故の再発防止に係る有識者検討会」において取りまとめられた報告を受け、海上交通安全法に基づき、関西国際空港周辺海域の法規制を適切に運用していくとともに、羽田空港等の海上空港や各海域の重要施設周辺について、海域利用者等と連携した検討を行い、必要な対策を進めていきます。