海上保安レポート 2019

はじめに


TOPICS 海上保安の一年


特集 増大する危機に立ち向かう


目指せ! 海上保安官


海上保安庁の任務・体制


■本編

1 治安の確保

2 生命を救う

3 青い海を守る

4 災害に備える

5 海を知る

6 交通の安全を守る

7 海をつなぐ


語句説明・索引


図表索引


資料編

4 災害に備える > CHAPTER I. 事故災害対策
4 災害に備える
CHAPTER I. 事故災害対策

ひとたび船舶の火災、衝突や沈没等の事故が発生すると、人命、財産が脅かされるだけでなく、事故に伴って油や有害液体物質が海に排出されることにより、自然環境や付近住民の生活にも甚大な悪影響を及ぼします。

海上保安庁では、事故災害の予防に取り組むとともに、災害が発生した場合には関係機関とも連携して、迅速に対処し、被害が最小限になるよう取り組んでいます。

平成30年の現況
事故災害への対応
船舶火災

平成30年に発生した船舶火災隻数は53隻で、船舶火災隻数を船舶種類別で見ると、漁船の火災隻数が最も多い傾向が続いており、平成30年においても、漁船の火災隻数は24隻と、全体の約45パーセントを占めています。

このような船舶火災に対して海上保安庁では、消防機能を有する巡視船艇からの放水等による消火活動を実施しています。

油排出事故

平成30年に海上保安庁が確認した油による海洋汚染発生件数は283件で、前年と比べ3件減少しました。

海上における油排出事故等では原因者による防除が原則となっているため、海上保安庁では、原因者が適切な防除を行えるよう指導・助言を行っています。一方、油等の排出が大規模である場合や、原因者の対応が不十分な場合には、関係機関と協力のうえ、海上防災のスペシャリストである機動防除隊等により海上保安庁自らが防除を行っています。平成30年は、海上保安庁において、112件の油排出事故に対応しました。

火災船への放水状況
火災船への放水状況
機動防除隊による油防除措置の状況
機動防除隊による油防除措置の状況
油流出の状況
油流出の状況
事故災害対処のための体制強化
油排出事故等への備え

海上保安庁では、事故災害に対して、迅速かつ的確な対応を行うための体制の整備を進めており、現場で対応にあたる海上保安官に対して、海上火災や油排出事故等への対応等に関する研修・訓練を実施しています。

また、「油等汚染事件への準備及び対応のための国家的な緊急時計画」に基づく関係省庁連絡会議において、油排出事故等に備え図上訓練を実施し、関係省庁間の対応体制を確認するなど、体制の強化を図っています。

海上に排出された油等の防除等を的確に行うためには、排出された油等がどのように流れるかを予測することが重要です。

海上保安庁では、油排出事故等に備えるため、測量船等で観測した海象(海流、水温等)の情報を基に油等が漂流する方向、速度等を予測する漂流予測に取り組んでいます。

さらに、自律型海洋観測装置(AOV)、イリジウム漂流ブイ及び海洋短波レーダーにより日本周辺の海流の情報等をリアルタイムに収集することで、漂流予測の精度向上に努めています。このほか、全国の沿岸域の地理・社会・自然・防災情報等を沿岸海域環境保全情報としてとりまとめ、インターネット上で公開しています。

大規模流出油関連情報 https://www1.kaiho.mlit.go.jp/JODC/ceisnet/
国内連携

事故災害による被害を防止するためには、事業者をはじめとする関係者に事故災害に対する意識を高めていただくことや地方公共団体等の関係機関との連携が重要です。海上保安庁では、タンカー等の危険物積載船の乗組員や危険物荷役業者等を対象とした訪船指導、運航管理者等に対する事故対応訓練、タンカーバースの点検等を実施しています。また、地方公共団体、漁業協同組合、港湾関係者等で構成する協議会等を全国各地に設置し、災害発生時に迅速かつ的確な対応ができるよう油防除訓練や講習等を実施しています。

国際連携

油や有害液体物質等による海洋環境汚染は、我が国だけでなく周辺の沿岸国にも影響を及ぼすことから、各国と連携した対応が重要です。海上保安庁では、各国関係機関との合同訓練や国際海事機関(IMO)の関係委員会への参加等、国際的な取り組みに貢献しています。また、海上保安庁では、研修等を通じてこれまで培ってきた海上災害への対応に関するノウハウを各国関係機関に伝えることで、海上防災体制の構築を支援しています。

平成30年においても、9月下旬から約2か月間、独立行政法人国際協力機構(JICA)の協力のもと、5か国(インドネシア、フィリピン、スリランカ、マレーシア、パプアニューギニア)から現場指揮官クラスの職員9名を招へいし、国際海事機関(IMO)のモデルコースに準拠した内容をさらに充実させた油防除対応者向けの研修を実施しました。

*IMOモデルコース:IMOの各加盟国が国際条約やIMOの勧告等の技術的要件を満たすために必要な教育訓練を実施するに当たり、モデルとなるコースプラン、教材、詳細な計画書等の訓練カリキュラムを示したもの。

オイルフェンス取扱い実習

オイルフェンス取扱い実習

機動防除隊による機材説明

機動防除隊による機材説明

今後の取組み

海上保安庁では、2020年に東京オリンピック・パラリンピック競技大会が開催されることを踏まえ、今後とも、巡視船艇・航空機や防災資機材の整備、現場職員の訓練・研修等を通じ、事故災害への対処能力強化を推進するとともに、関係者への適切な指導・助言、国内外の関係機関との連携強化を通じて、事故災害の未然防止や事故災害発生時の迅速かつ的確な対応に努めます。

平成30年8月の千葉県野島埼沖火災タンカーへの対応

8月5日、千葉県野島埼沖において大型原油タンカー「FRONT HAKATA(159383トン)」(以下、「F号」という。)が機関室火災によって航行不能となりました。台風13号が接近する中、沿岸部への漂流・座礁により、積載する原油の流出による甚大な被害の発生が懸念されました。

海上保安庁は本事故を受けて、直ちに第三管区に中規模海難対策本部及び本庁対策室を設置し、F号が強い潮流等により沿岸に接近する中、巡視船艇、航空機、特殊救難隊機動防除隊を投入し、船体冷却放水、鎮火確認等を実施し、沿岸部への座礁を防ぎました。また、船主に対し、東京湾入出湾時における安全指導を強力に実施しました。

航行不能のF号は、巡視船艇や東京湾海上交通センター等による厳重な警戒態勢の下、10数隻のタグボートによって東京湾内を曳航され、無事、原油25万キロリットルの荷役を終えた後、東京湾を出湾しました。

巡視船による船体冷却放水

巡視船による船体冷却放水

航空機による状況確認

航空機による状況確認

神奈川県横須賀市倉庫火災に対する海からの消火活動

平成30年7月22日夕刻に神奈川県横須賀市臨港部所在の倉庫から発生した火災が隣接した倉庫にも延焼したことから、横須賀市消防局から横須賀海上保安部に巡視船艇による消火支援要請がありました。これを受け横須賀海上保安部では、直ちに巡視艇「はかぜ」を緊急出動させ、海上からの放水を開始するとともに、続いて派遣された横浜海上保安部所属消防船「ひりゆう」ほか横浜市消防局消防艇「よこはま」も加わり、海上からの消火支援を実施しました。

横須賀市消防局消防車、「はかぜ」「よこはま」による放水及び「ひりゆう」の強力な放水が炎上する倉庫中央部の火災鎮圧に効果を発揮し、23日夕刻には倉庫火災は鎮火しました。

消防船による消火活動

消防船による消火活動

海上保安官による消火活動

海上保安官による消火活動