海上保安レポート 2017

はじめに


TOPICS 海上保安の一年


特集 平和な海の継承〜海上保安庁の使命〜


海上保安官の仕事


海上保安庁の 任務・体制


■本編

1 治安の確保

2 生命を救う

3 青い海を守る

4 災害に備える

5 海を知る

CHAPTER I 海洋調査
CHAPTER II 海洋情報の提供

6 交通の安全を守る

7 海をつなぐ


語句説明・索引


図表索引


資料編

5 海を知る > CHAPTER I 海洋調査
5 海を知る
CHAPTER I 海洋調査

海上保安庁では、海上の安全確保、海洋権益の確保、海洋資源の開発・利用といったさまざまな目的のために海洋調査を実施しています。特に、近年では、我が国の管轄海域や新たな海洋資源の開発・利用等への関心が高まる中、海洋権益確保の基礎となる海洋調査が重要となっています。

平成28年の現況
1 海洋権益の確保のために

四面を海に囲まれた我が国にとって、領海排他的経済水域(EEZ)等の海洋権益を確保することは極めて重要であり、その基礎となる海洋情報の整備は不可欠です。海上保安庁では東シナ海において、測量船に搭載されたマルチビーム測深機や最新の調査機器である自律型潜水調査機器(AUV)等による海底地形や地殻構造等の調査を重点的に推進するとともに、航空機に搭載した航空レーザー測深機等により、領海EEZの外縁の根拠となる低潮線等の調査を実施しています。

平成27年7月及び11月には、沖縄県宮古島の北方約120kmの第3宮古海丘にて、AUVによる海底地形調査を行った結果、第3宮古海丘の詳細な地形が明らかになり、円錐形の山体の頂部には中央火口丘(直径800m、高さ150m)や3つのカルデラ地形(それぞれ直径2km、1.5km、1.2km)といった海底火山地形が発見されました。

これらの調査結果については、南西諸島海域における海底火山活動の解明のための基盤情報として役立つことが期待されています。

また、これまでの海上保安庁が行ってきた海底地形調査の成果を用いて、平成28年9月にアメリカで開催された海底地形名小委員会において、我が国が提案した23件の海底地形名が承認されました。

日本提案の海底地形名を国際会議が承認
今回承認された海底地形名
今回承認された海底地形名

平成28年9月にアメリカにて開催された、海底地形名小委員会において、我が国提案の海底地形名23件が承認されました。

このうち、「野崎海山」、「浅野海山」、「金谷海山」、「尾田海山」、「的場海山」、「服部海山」、「角皆海山」、「岩宮海山」、「井村海山群」の9件は、海洋化学、微化石学等の研究者、海洋調査船の船長、測定装置の普及に尽力し、海洋調査に貢献する等の功績のあった人物にちなんだものです。


2 海上の安全確保のために

船舶の安全な航行を確保するためには、最新の情報が掲載された海図が必要です。また、海難事故発生時の迅速・的確な救助活動を行うためには、漂流予測が重要となります。海上保安庁では、測量船や航空機等により海底地形の調査等を行い、海図を最新の情報に更新するとともに、測量船や海洋短波レーダー、さらには平成28年度から導入された「自律型海洋観測装置(AOV)」等により海潮流や水温等の観測を行い、漂流予測の精度向上を図るなど、様々な海洋調査により、海上の安全確保を支えています。


3 様々な目的のために

海洋調査は、海洋権益の確保や海上の安全確保といった目的のほか、海洋環境の保全や防災のためにも実施されています。

海上保安庁では、海洋環境の変化を的確に把握するため、海水や海底堆積物を採取し、汚染物質や放射性物質の調査を継続的に行っています。また、海底地殻変動観測や海底地形調査、海域火山の活動監視観測等を実施し、大規模地震発生のメカニズムや海域火山の構造等の解明に役立てています。

今後の取組み

海洋権益の確保のため、領海EEZ等における海底地形や地殻構造等の調査を実施するとともに、低潮線等の調査を継続して実施していきます。

また、水深や海潮流等の最新の観測結果を海図漂流予測へ反映させることで、より一層の海上の安全確保に努めます。

さらに、海洋汚染調査や海底地殻変動観測、海域火山の監視観測等、様々な目的に合わせた海洋調査を実施することで、海洋情報の収集に努めるとともに、海洋調査の実施に必要不可欠な測量船や観測機器等の整備を進めていきます。


海洋調査へ向かう測量船「天洋」
海洋調査へ向かう測量船「天洋」
採泥器投下の様子
採泥器投下の様子
観測機器投入の様子
観測機器投入の様子

自律型海洋観測装置を用いた海洋観測
自律型海洋観測装置(AOV)
自律型海洋観測装置(AOV)
 
AOV移動原理イメージ
AOV移動原理イメージ

海上保安庁では、平成28年度から、「自律型海洋観測装置(AOV)」を導入し、日本で初めて、海象・気象情報の網羅的な観測を開始しました。

AOVとは、洋上において波の上下動を動力源として移動し、観測機器や通信に使用する電力を太陽光発電により供給し、海象・気象観測を行う装置のことをいいます。このような特徴から、これまで船舶でしかできなかった洋上での観測を、ゼロエミッションで、生物や環境への影響なくかつ荒天時も含めた長期に亘り行うことが出来るようになりました。

また、AOVは衛星通信を介して陸上からの遠隔操作や観測データの転送も可能であり、24時間リアルタイムで気象・海象データを得ることが可能となりました。これにより、海難の未然防止や安全な航海に寄与することが期待されます。

西之島の現状
西之島拡大に関連するEEZの外縁線をイメージした図
西之島拡大に関連するEEZの外縁線をイメージした図

海上保安庁では、防災等の目的のため、海域火山の監視観測も行っています。平成25年11月に39年ぶりに噴火を開始した西之島では、およそ2年にわたり活発な噴火活動が継続し、これまでに噴出した溶岩等により島が大きく拡大しました。平成28年9月15日時点で西之島の面積は2.68平方kmであり、噴火前の島の約12倍となっています。

海上保安庁では、平成28年8月17日、気象庁が噴火警報の警戒範囲を縮小し、火山現象に関する海上警報を解除したことに伴い、西之島の噴火に関する航行警報を削除しました。その後、平成29年4月20日、海上保安庁の航空機により、新たな噴火活動を確認したため、再び航行警報を発出しました。今後とも西之島の火山活動の推移を見守ることとしています。

噴火による西之島の拡大によって我が国の領海及びEEZが広がることが見込まれており、平成28年9月15日に実施した航空機による観測結果では、領海は約70平方km、EEZは西之島の西側に約50平方km広がる見込みとなっています。

平成25年11月20日
平成25年11月20日
平成26年10月16日
平成26年10月16日
平成27年11月17日
平成27年11月17日
平成28年9月15日
平成28年9月15日
平成29年4月27日
平成29年4月27日
西之島及びその周辺海域における調査

海上保安庁では、西之島周辺海域の航行船舶の安全を確保するための海図作製等を目的として、平成28年10月22日から11月8日までの間、測量船「昭洋」及び航空機により西之島とその周辺海域の調査を行いました。

測量船「昭洋」及び搭載艇に装備されているマルチビーム測深機により西之島周辺海域の水深を調査したほか、航空機搭載の航空レーザー測深機により、噴火活動に伴い大きく変化した西之島周辺のごく浅い海域から、陸域までの水深等をシームレスに取得しました。さらに、西之島の正確な位置や水深の基準を決定するために、衛星測位観測や潮汐観測等の作業を上陸して実施しました。これらの成果を基に海図を作製することで、新たな領海等の範囲が画定し、我が国の領海EEZが拡大することとなります。

30度近い気温かつ日陰がほぼないという厳しい環境の中、精密機材については耐熱カバーを使用するなどの熱対策を施した上で上陸作業を行いました。また、調査のために溶岩が積み重なってできた、足場の不安定な場所で作業をすることもあり、危険と隣り合わせで肉体的にも精神的にも大変な思いをしながらの作業となりました。

なお、上陸にあたっては、環境省が定める西之島保全のための上陸ルールに従って、測量機材の燻蒸や上陸前に海水で全身を洗うウェットランディングを実施するなど、植物の種子や外来生物を持ち込まないよう細心の注意を払ったうえで上陸作業を実施しました。


西之島調査の概要
西之島調査の概要

西之島へ上陸
西之島へ上陸
航空機による調査
航空機による調査
昭洋搭載艇による調査
昭洋搭載艇による調査
GPS観測
GPS観測