海上保安レポート 2017

はじめに


TOPICS 海上保安の一年


特集 平和な海の継承〜海上保安庁の使命〜


海上保安官の仕事


海上保安庁の 任務・体制


■本編

1 治安の確保

2 生命を救う

3 青い海を守る

CHAPTER I 海洋汚染の現況
CHAPTER II 海洋環境保全対策

4 災害に備える

5 海を知る

6 交通の安全を守る

7 海をつなぐ


語句説明・索引


図表索引


資料編

3 青い海を守る > CHAPTER II 海洋環境保全対策
3 青い海を守る
CHAPTER II 海洋環境保全対策

海上保安庁では、海上環境関係法令違反の監視・取締り、海洋環境の調査等に加え、国民の皆様への指導・啓発活動等を実施するなど、海洋環境を保全するための総合的な取組みを実施しています。

海洋環境保全対策の現況
1 海上環境関係法令違反の監視・取締り

海上保安庁では、海洋汚染につながる油の不法排出、廃棄物の不法投棄等の海上環境関係法令違反に対しては、巡視船艇・航空機による海・空からの監視・取締りに加えて、沿岸部では陸上からの監視・取締りを実施しています。

平成28年に海上保安庁が摘発した海上環境関係法令違反の送致件数は625件であり、前年と比較して56件増加しました。違反の種類別に見ると、船舶からの油の不法排出や、廃棄物、廃船の不法投棄が多くなっています。これらの違反は、適正な処理費用や設備整備への投資を惜しんでの行為であることが多く、その形態も、夜陰に紛れた不法排出や不法投棄、船名や船体番号を抹消した上での廃船の投棄等、悪質・巧妙なケースが見受けられます。

平成28年6月には、過去5年にわたり、常習的に港内でビルジ(※)を排出していた遊漁船を、海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律違反で検挙しました。

※ビルジ:船底等に溜まる水や油等が混合した液体


廃筏・廃船の調査
廃筏・廃船の調査

外国船舶による海洋汚染への対応

外国船舶による海洋汚染については、領海に加え、排他的経済水域(EEZ)においても取締りを行っており、平成28年は12件検挙しました。平成28年3月には、紀伊水道において外国船舶が鉱石陸揚げ作業で発生した鉱石くずを海上に投棄していた事実を特定し、同船船長を海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律違反で検挙しました。なお、国連海洋法条約に基づき、船舶の航行の利益を考慮し、担保金制度を適用しています(平成28年担保金制度適用件数:7件)。

また、我が国の法令を適用できない公海等において外国船舶の油等の排出を確認した場合は、当該船舶の旗国に排出事実を通報し、適切な措置を求めています(平成28年旗国通報件数:1件)。


有害液体物質を排出する外国船舶
有害液体物質を排出する外国船舶

2 海洋環境調査

海洋汚染の調査

海上保安庁では、海洋汚染の状況を正確に把握するため、閉鎖性の高い港湾等において、測量船により定期的に海水や海底堆積物を採取し、油分、PCB(ポリ塩化ビフェニル)、重金属等の調査を行っています。


放射能調査

旧ソ連・ロシアによる日本海・オホーツク海への放射性廃棄物の海洋投棄や過去に行われた核実験等による海洋環境への影響を把握するため、日本近海で海水や海底堆積物を採取し、人工放射性物質の調査を実施しています。

また、原子力規制庁が定める実施要領に基づき、原子力艦が寄港する横須賀港(神奈川県)、佐世保港(長崎県)、金武中城港(沖縄県)では、周辺住民の安全・安心を確保するため、定期的に海水や海底堆積物を採取し、放射能調査を行うとともに、原子力艦の入港前、寄港時、出港後の放射能調査を行っています。さらに、平成23年3月の東京電力福島第一原子力発電所事故に対応する政府の総合モニタリング計画に基づいた放射能調査も行っています。

3 海洋環境保全のための指導・啓発

海洋汚染の大半が故意や取扱い不注意等による人為的な要因により発生していることから、海洋汚染を防止し、海洋環境を保全するためには、国民の皆様に意識を高めていただくことが重要です。そのため、海上保安庁では、ボランティアや地方公共団体とも連携し、全国各地で海洋環境保全に関する指導・啓発活動を実施しています。

特に、毎年6月は「未来に残そう青い海」をスローガンに掲げた「海洋環境保全推進月間」を全国で展開し、海事・漁業関係者、マリンレジャー等を行う方々を対象とした海洋環境保全講習会や訪船指導、一般市民の方々を対象とした海洋環境保全教室の開催等を重点的に実施しています。

平成28年は新たな取組みとして、日本財団等が推進する「海と日本プロジェクト」に初参加し、22都道府県35海岸等で、5,392人の参加により約3,600袋のごみを収集・分類を行いました。


「海と日本プロジェクト」に初参加
「海と日本プロジェクト」に初参加
主な海洋環境保全活動の実施状況の表
主な海洋環境保全活動の実施状況の表
 
海洋環境保全講習会
海洋環境保全講習会
 
訪船指導
訪船指導
4 全国海の再生プロジェクト
透明度の測定
透明度の測定

海洋環境の保全・再生のためには、海上保安庁が単独で実施する取組みだけでなく、関係機関が効果的に連携した取組みを推進することが重要です。このような取組みの一つとして、海上保安庁は「全国海の再生プロジェクト」に参画しています。「全国海の再生プロジェクト」では、東京湾、伊勢湾、大阪湾、広島湾を対象として、国、自治体、大学・研究機関、民間企業が連携して、海域の環境改善対策、環境モニタリング等の各種施策を推進しています。海上保安庁では、測量船による水質、潮流等の観測を実施しているほか、人工衛星を利用した赤潮等の常時観測を行っています。

特に、「東京湾再生プロジェクト」では、関係省庁や地方自治体からなる東京湾再生推進会議において事務局を務めるとともに、東京湾のモニタリングを強化するため千葉灯標にモニタリングポストを設置し、水質と海潮流の連続観測を実施しています。また、海上保安庁では、毎年夏季に国、自治体、研究機関、企業、市民団体等が連携して実施する「東京湾環境一斉調査」の事務局も務めており、平成28年8月に実施した調査では、100以上の機関が参加して水質調査が行われました。平成29年3月には「東京湾再生のための行動計画(第二期)(平成25年度〜平成34年度)」の第1回中間評価が行われ、水質や環境の一定の改善が見られたとの報告がなされるとともに、今後も、NPOや市民団体、研究機関等、多様な主体と連携して、東京湾の水質改善の取組を推進していくことが確認されました。


海の再生プロジェクトの概念図
海の再生プロジェクトの概念図

今後の取組み

海上保安庁では、海洋環境調査を通じ、海洋汚染の現況を的確に把握するとともに、海上環境関係法令違反に対しては、厳正な監視・取締りを実施します。また、国民の皆様に対する指導・啓発活動を推進し、法令遵守意識の高揚を図ります。さらに関係機関等との連携により、海洋環境保全のための取組みをより効果的に推進していきます。

第17回未来に残そう青い海・海上保安庁図画コンクールの開催
図画展示による海洋環境保全思想の普及活動
図画展示による海洋環境保全思想の普及活動

海上保安庁では、海洋環境保全啓発活動の一環として、「未来に残そう青い海・海上保安庁図画コンクール」を開催しています。

平成28年で第17回目を迎えた本コンクールでは、全国の小中学生から33,298点の作品応募があり、応募作品の中から特別賞(国土交通大臣賞)、海上保安庁長官賞及び海上保安協会会長賞を決定しました。受賞作品をはじめ、全国から集まった作品は、各地でのさまざまなイベントや広報に活用されており、海洋環境保全思想の普及に大きく貢献しています。


特別賞

小学校低学年の部 広島県福山市樹徳小学校3年 鈴木 真生さん
小学校低学年の部
広島県福山市樹徳小学校3年
鈴木 真生さん
石井国土交通大臣による表彰
石井国土交通大臣による表彰

海上保安庁長官賞

中学生の部 宮城県塩竈市立玉川中学校2年生 岡本 愛海さん
中学生の部
宮城県塩竈市立玉川中学校2年生
岡本 愛海さん
小学校高学年の部 徳島県美波町立日和佐小学校5年生 影山 一心さん
小学校高学年の部
徳島県美波町立日和佐小学校5年生
影山 一心さん
小学校低学年の部 福岡県大牟田市立みなと小学校2年生 大村 悠貴さん
小学校低学年の部
福岡県大牟田市立みなと小学校2年生
大村 悠貴さん