海上保安レポート 2013

はじめに


TOPICS 海上保安の一年


特集 領海・EEZを守る海上保安庁


海上保安庁の任務・体制


■本編

1 治安の確保

2 生命を救う

3 青い海を守る

4 災害に備える

5 海を知る

6 交通の安全を守る

7 海をつなぐ


目指せ! 海上保安官


語句説明・索引


図表索引


資料編

5 海を知る > CHAPTER2 海洋情報の提供
5 海を知る
CHAPTER2 海洋情報の提供

海洋は、海運や漁業、資源開発、マリンレジャーなど様々な目的で利用されているため、それぞれの目的によって必要となる情報が異なります。海上保安庁では、海洋調査により得られた多くの海洋情報を基に、それぞれの目的に合わせ、ユーザーの利用しやすい形での情報提供に努めています。

平成24年の現況
1 海図等の作製・刊行

海上保安庁では、船舶の安全航行に必須となる海図航海用電子海図等の作製・刊行を行っています。平成24年には、海洋調査により得られた最新データを基に、海図(新刊8図、改版62図)や水路誌(新刊2冊、改版8冊)等を、電子海図表示システム(ECDIS)で利用できる航海用電子海図(ENC)については、新刊セルを14セル刊行しました。


■水路図誌等の種類と刊行版数(平成24年末現在)
水路図誌等の種類と刊行版数(平成24年末現在)
海図に東京スカイツリー!?

海図には、灯台や岬、島の名前など海に関する膨大な情報が掲載されていますが、実はそれだけではないことをご存知でしょうか? 実は海図には、船舶が航行の際に目標とする顕著な物標も掲載されているのです。

このため、平成24年5月に完成した高さ634mの東京スカイツリーも、顕著な物標として平成24年6月、海図に掲載されました。ちなみに東京タワーも海図に掲載されており、両タワーは陸上からだけでなく、海上からも多くの人の目を惹きつけているのです。


■海図に掲載された東京スカイツリー  
海図に掲載された東京スカイツリー(1) 海図に掲載された東京スカイツリー(2)
2 海洋情報の利活用活性化のために

海洋情報は、海洋の資源開発や船舶の安全航行、漁業やマリンレジャーを行う際の安全確保等様々な目的で利用されています。このため、その目的に応じ、ユーザーが利用しやすい形で情報提供することが非常に重要となっています。

このため、海上保安庁は、日本海洋データセンター(JODC)として、海上保安庁が収集した情報だけでなく、国内の海洋調査機関によって得られた海洋情報を一元的に収集・管理し、インターネット等を通じて提供を行っています。また、国の関係機関が保有する様々な海洋情報の所在について、一元的に検索できる「海洋情報クリアリングハウス(マリンページ)」を運用しています。これに加え、平成24年5月からは、海上保安庁が保有する自然情報(海底地形や海流等)・社会情報(訓練区域や漁業権区域等)をビジュアル的に重ね合わせ、インターネット上で閲覧できる、海洋台帳(海洋政策支援情報ツール)の運用を開始しました。重畳させる情報はユーザーが任意に選択することができ、様々な目的に合わせた使い方をすることができるため、洋上風力発電の設置場所の選定や新たなビジネスの創出の検討等にも利用できるものとして期待されています。


■日本海洋データセンター(JODC)
日本海洋データセンター(JODC)
今後の取組み

引き続き、海洋調査によって得られた最新データを基にして、海図等水路図誌を刊行していきます。

また、JODC海洋情報クリアリングハウス(マリンページ)海洋台帳(海洋政策支援情報ツール)を運用するとともに、政府機関や関係団体等との連携を一層強め、掲載情報の拡充や機能の強化に努め、海洋情報の幅広い利用を推進していきます。

海洋台帳(海洋政策支援情報ツール)とは

一口に海洋情報と言っても海底地形や水深、水温といった「海洋情報」、航路、漁業権設定区域、港湾区域といった「社会情報」、湿地、干潟、海水浴場、海底障害物といった「環境情報」、航路標識(灯台等)、海上構造物といった「インフラ情報」など、様々な情報が存在します。

海洋台帳(海洋政策支援情報ツール)」は、こうした様々な情報を、地図上に重ねて表示することができるインターネットサービスです。ユーザーは、目的に応じて、様々な情報を、自由に組み合わせて図を作ることができます。掲載している情報は100項目以上、その組み合わせは多種多様であり、今までにない視点で海洋を捉えることができます。

一義的には、海洋再生可能エネルギーの推進といった海洋開発や環境保護、防災、教育といった場面での活用を想定していますが、用途を限定するものではなく、ユーザーの皆さんが自由な発想で使っていただきたいと考えています。

今後も、掲載する情報の拡充や機能強化等を行い、より皆さんの使いやすいツールへと発展させてゆく予定です。

ぜひ一度、以下のアドレスへアクセスしてみてください!


■海洋台帳のイメージ
海洋台帳のイメージ
日本の「海」について

四方を海に囲まれた我が国は、国土面積でいうと世界第61位にしかすぎませんが、領海EEZを合わせた面積は国土面積の約12倍の広さを有しています。

また、平成24年4月には、我が国が行っていた大陸棚の延長申請に対し、国連大陸棚限界委員会から、我が国の国土面積の約8割に当たる面積の大陸棚の延長を認める勧告が発出されました。

海洋国家である我が国は、貿易や漁業によって、その恩恵を得る一方、密輸・密航といった海上犯罪や海難の発生、領土や海洋資源の帰属に関する国家間の主権主張といった様々な問題にも対応していく必要があります。


■領海・排他的経済水域等模式図
領海・排他的経済水域等模式図

1 低潮線

干満により、海面が最も低くなったときに陸地と水面の境界となる線です。


2 領海

沿岸国は、国連海洋法条約に基づき、領海基線から12海里を超えない範囲で、自国の主権が及ぶ水域として「領海」を設定しています。沿岸国の主権は、領海の上空、海底及び海底の下にまで及び、沿岸国は漁業や資源採掘の独占権を有します。また、全ての国の船舶は、無害通航権が認められています。

*:沿岸国の平和、秩序又は安全を害しない限り、沿岸国に妨げられることなくその領海を通航する権利。


3 接続水域

沿岸国は、領海に接続する水域で、領海基線から24海里を超えない範囲で、接続水域を設定することができます。同水域では、自国の通関、財政、出入国管理、衛生に関する一定の規制を行うことができます。


4 排他的経済水域(EEZ)

沿岸国は、国連海洋法条約により、領海の外側で領海基線から200海里を超えない範囲でEEZを設けることができます。同水域では、沿岸国に対して、一切の漁業及び鉱物資源に対する排他的な主権的権利と海洋汚染を規制する権限等が認められています。


5 公海

いずれの国のEEZ領海もしくは内水またはいずれの群島国の群島水域にも含まれない海洋のすべての部分です。特定の国の主権に属さず、世界各国が共通に使用し得ます。


6 深海底

いずれの国の管轄権も及ばない海底の部分です。人類共同の財産であるとされています。


7 大陸棚

国連海洋法条約では、沿岸国は領海基線から200海里までの海底及び海底下を「大陸棚」とするとともに、海底の地形・地質が一定の条件を満たす場合、国連の勧告に基づき、200海里を超えて大陸棚の限界を設定することが可能とされています。大陸棚では、沿岸国に対して、天然資源の開発に係る主権的権利等が認められています。


8 領海基線

領海の幅を測る基準となる線です。通常は、海岸の低潮線ですが、海岸が著しく曲折しているか、海岸に沿って至近距離に一連の島がある場所には、適当な地点を結んだ直線を基線(直線基線)とすることができます。

■基線のイメージ
基線のイメージ

9 内水

領海基線の内側の水域です。沿岸国は領海と同様に主権を行使できます。外国船舶の無害通航権は認められていません。

海洋情報フォーラムの開催

国土交通省と海上保安庁では、海洋の開発・利用・保全の基盤となる海洋情報について、産官学の有識者を交え、海洋情報のニーズや新ビジネスの可能性について検討するため、平成25年2月、「海洋情報フォーラム」を開催しました。

冒頭、梶山国土交通副大臣から挨拶があり、「海洋立国の実現に向け、基盤として不可欠となる海洋情報について、情報提供のあり方、産業やビジネスに結び付けていくための道筋など、今後に向けての大きな課題について議論をしていただき、皆様のお知恵を今後の施策に活かして参りたい。」と、本フォーラムに対して、大きな期待を寄せられました。

フォーラムでは、海上保安庁を含めた政府関係機関から海洋情報の一元化に関する取り組みについての発表があった後、産学官有識者によるパネルディスカッションでは様々な知見が取り交わされるなど、大変有意義な会となりました。

海上保安庁では、本フォーラムで出された意見等を踏まえ、更なる海洋情報の利活用の推進に努めていきます。

本フォーラムへの期待を述べられる梶山国土交通副大臣
▲本フォーラムへの期待を述べられる
梶山国土交通副大臣
パネルディスカッションでの活発な意見交換
▲パネルディスカッションでの活発な意見交換
元海上保安庁海洋情報部長がアジア初となるアレクサンダー・ダルリンプル賞を受賞!

元海上保安庁海洋情報部長である西田英男博士(在任期間:平成14年4月〜16年3月)が、平成24年10月2日、ロンドンにて英国水路部から、世界の水路業務分野において顕著な貢献をした個人に対して贈られる「アレクサンダー・ダルリンプル賞」を受賞しました。この賞は、平成18年(2006年)に国連総会で採択された「世界水路の日(6月21日)」の制定を記念し英国水路部が設けた賞で、その名称は、初代英国水路部長(1795-)であるアレクサンダー・ダルリンプルの名前から採られています。これまでに毎年1人ずつ、世界の水路業務分野で著名な6名(順に、英、英、独、南ア、仏、米)が受賞しており、日本はもちろん、アジアでも西田博士が初の受賞となります。

受賞理由には、アジアを中心とした途上国に対する海洋調査・海図作成を行う技術者育成等の国際協力や、英国との協力関係構築による日本周辺海図の国際普及等、その長年にわたる水路分野での国際的な貢献が挙げられています。

海上保安庁は今後も、国際的な水路業務の発展への貢献を通して、航海の安全の確保に努めていきます。

受賞した西田元海洋情報部長(右)とモンクリーフ英国水路部長(左)
▲受賞した西田元海洋情報部長(右)と
モンクリーフ英国水路部長(左)