海上保安レポート 2012

はじめに


TOPICS 海上保安の一年


特集 東日本大震災


海上保安庁の任務・体制


■本編

1 治安の確保

2 領海等を守る

3 生命を救う

4 青い海を守る

5 災害に備える

6 海を知る

7 交通の安全を守る

8 海をつなぐ

CHAPTER 1 関係国との連携・協力
CHAPTER 2 外国海上保安機関に対する能力向上支援
CHAPTER 3 国際機関との連携

目指せ! 海上保安官


語句説明・索引


図表索引


資料編

8 海をつなぐ > CHAPTER 2 外国海上保安機関に対する能力向上支援
8 海をつなぐ
CHAPTER 2 外国海上保安機関に対する能力向上支援

貿易の大半を海上輸送に依存する我が国にとって、海上の安全確保は国民生活に直結する重大な問題です。

しかしながら、ソマリア周辺海域の海賊事案等、世界には安全が十分に確保されていない海域が存在します。

海上保安庁では、関係国に対して、海上保安機関の設立支援や能力向上支援を行うことにより、海上の安全確保に貢献していきます。


1 東南アジア諸国に対する取組み

マラッカ・シンガポール海峡を含む東南アジア周辺海域は、我が国の海上貿易にとって重要な海域ですが、海賊海上武装強盗の発生等、海上の安全を脅かす様々な問題が存在しています。このため、海上保安庁では、東南アジア諸国に対して、海上保安機関の設立や、海上保安能力の向上のための支援を積極的に行っています。

これらの取組みの継続により、近年の同海域の海賊発生件数がピーク時に比べ減少したほか、捜索救助、海上法令執行能力等の向上や、人材育成についても効果をあげています。


(A)フィリピンに対する支援

フィリピンに対しては、海上保安行政全般に渡る支援のため、平成12年から、JICA国際協力機構Japan International Cooperation Agency)長期専門家としてフィリピンコーストガードに職員を派遣するとともに、JICA技術協力プロジェクトの枠組みにより、平成14年からは、海難救助、海洋環境保全・油防除、航行安全、海上法令執行、教育訓練の分野における人材育成支援を行っています。また、JICA短期専門家を派遣して、各種海上保安業務に関する研修の実施等の支援も行っており、平成23年度においては、JICA短期専門家として5名の海上保安官を派遣し、海上犯罪取締りに関する研修を実施しました。


(B)インドネシアに対する支援

インドネシアでは、平成18年に、海軍や海上警察、海運総局等、海上保安行政を所管する様々な機関の業務を調整する「海事保安調整会議」が設立されました。海上保安庁では、平成20年5月から平成23年5月まで、同会議にJICA長期専門家として職員を派遣し、体制強化のための海上治安政策にかかる助言、海上保安機関職員に対する業務研修などの支援を行ってきました。また、平成24年1月からは、海上交通に関する保安能力向上のため、インドネシア海運総局に、JICA長期専門家として職員1名を派遣しています。


(C)マレーシアに対する支援

マレーシアでは、我が国の海上保安庁をモデルとして、平成17年に「マレーシア海上法令執行庁」が創設されました。海上保安庁では、創設準備段階から、JICA長期専門家として職員を派遣し、海上法令執行、捜索救助、船艇・航空機運用、教育・訓練等の分野に関して支援を行っています。平成23年度においては、JICA短期専門家として、7名の海上保安官を派遣し、救難及び海上犯罪捜査に関する研修を実施しました。

2 外国海上保安機関の能力向上支援の新たな取組み

ソマリア周辺海域において、海賊海上武装強盗事案が頻発していることを踏まえ、海上保安庁では、東南アジア諸国での経験を活用しながら、ソマリア周辺海域沿岸国の海上保安機関に対しても様々な支援を行っています。平成23年11月には、ジブチ、オマーン、セーシェル等の沿岸国の海上保安機関の幹部職員を招へいし、海洋政策研究財団とともに、「中東・東アフリカ地域海上保安機関高級実務者会合」及び「ソマリア周辺海域海賊対策国際フォーラム」を開催し、その地域の海上法執行能力向上策や我が国の支援方策について討議しました。また、平成23年10月から11月にかけて、アジアのほか、ソマリア周辺海域沿岸国からも研修生を招へいし、JICAの枠組みを利用した協力により、「海上犯罪取締り研修」を実施しました。研修では、海賊対策をはじめとする海上犯罪の取締りに必要な知識・技術の移転を目的とした、講義・実務研修を行いました。

さらに、平成23年5月、日本財団及び海上保安協会と協力し、アジア海上保安初級幹部研修を開始しました。本研修は、海上保安庁職員を含むアジア各国の海上保安機関の初級幹部を参加させ、英語による授業により幅広い知見と国際的な視野を持った人材育成を行うとともに、研修員の相互理解を通じて、アジア各国海上保安機関の連携強化を図ることを目的としており、将来的には海上保安大学校がアジアの海上保安機関の人材育成の国際的な拠点となることを目指しています。

このほか、ミクロネシア諸国に関する各国の海上保安能力向上にかかる支援の状況を踏まえ、海上保安庁として可能な支援について検討を行っています。

アジア海上保安初級幹部研修 中東・東アフリカ地域海上保安機関高級実務者会合
▲アジア海上保安初級幹部研修 ▲中東・東アフリカ地域海上保安機関高級実務者会合
海上犯罪取締り研修  
▲海上犯罪取締り研修
アジア初級幹部研修 in鹿児島

平成23年7月27日から29日の3日間、アジア海上保安初級幹部研修生は鹿児島を訪れ、第十管区海上保安本部、喜入石油備蓄基地、川内原子力発電所等を訪問しました。

第十管区海上保安本部においては、本部長から、巡視船艇指揮官として必要なリーダーシップに関する講義を受けるとともに、担当官から、同管区が実施している離島対策等の業務の実態についての講義を受け、研修生からは「帰国後の業務実施に際し、非常に参考となった。」との感想がありました。

また、喜入石油備蓄基地及び川内原子力発電所では、各施設における安全・環境対策、海上保安庁との関係等についての説明を受け、研修生は積極的に質問をしていました。

見学途中、期せずして遥かに望む桜島が噴煙を上げ、研修生は災害が発生したのではないかと驚きの様子でした。

研修生の、「母国では見聞することができない多くの施設を見学することができて大変勉強になったが、最も強い印象に残ったのは、迎えてくれた海上保安官等の温かいホスピタリティーである。」とのコメントにも表れているように、今回の鹿児島訪問を通じ、現場海上保安官との間で相互理解を深めることができたことが何よりの成果だったようです。

アジア海上保安初級幹部研修 アジア海上保安初級幹部研修
▲アジア海上保安初級幹部研修