海上保安レポート 2019

はじめに


TOPICS 海上保安の一年


特集 増大する危機に立ち向かう


目指せ! 海上保安官


海上保安庁の任務・体制


■本編

1 治安の確保

2 生命を救う

3 青い海を守る

4 災害に備える

5 海を知る

6 交通の安全を守る

7 海をつなぐ


語句説明・索引


図表索引


資料編

7 海をつなぐ > CHAPTER II. 諸外国への海上保安能力向上支援等の推進
7 海をつなぐ
CHAPTER II. 諸外国への海上保安能力向上支援等の推進

主要な物資やエネルギーの輸出入のほとんどを海上輸送に依存する我が国にとって、海上輸送の安全確保は、安定した経済活動を支える上でも極めて重要です。

しかしながら、世界的にも重要な海上交通路であるマラッカ・シンガポール海峡やソマリア沖・アデン湾における海賊など、航行の安全を脅かす事案が発生しています。

海上保安庁では、東南アジアをはじめとした周辺国に対し、海上保安庁が有する知識技能を伝え、各国の海上保安能力の向上を目指した支援を通じ、海上輸送の安全確保に貢献しています。

平成30年の現況
1 インド太平洋沿岸国への支援

海上保安庁では、インド太平洋沿岸国の海上保安機関に対する海上保安能力向上支援のため、国際協力機構(JICA)や日本財団の枠組みにより、警備・救難、環境防災、海上交通安全、海図作製分野に関する専門的な知識を有する海上保安官を専門家として各国に派遣しているほか、各国の海上保安機関の職員を日本に招へいし、研修を実施しています。

フィリピンに対する支援

海上保安庁は、フィリピン沿岸警備隊に対して、平成12年から、海上保安行政全般に関するアドバイザーとして、同隊に専門家を派遣しているほか、平成14年から平成24年までの10年間、専門家を追加派遣し、海難救助、海洋環境保全・油防除、航行安全、海上法執行、教育訓練の分野における人材育成支援のためのJICA技術協力プロジェクトを実施しました。平成25年からは、海上法執行実務の能力強化支援のためのJICA技術プロジェクトを実施しており、平成30年9月に法執行訓練、同年12月及び平成31年2月には、高速小型艇の維持管理、運用に係る取扱い訓練を実施し、同訓練へ海上保安庁モバイルコーポレーションチームを派遣しました。

インドネシアに対する支援

平成26年、インドネシアでは、海上警察や海運総局等の海上保安行政を実施している様々な機関の業務を調整し、自らも法執行に当たる海上保安機構(BAKAMLA)が設立されました。海上保安庁は、同国海上保安機関強化のため、BAKAMLAを中心とするインドネシアの海上保安関係機関の能力向上支援を実施する予定です。

また、インドネシアにおける航行安全対策全般の整備計画の見直しを行うJICAプロジェクトにおいて平成30年度からインドネシア運輸省海運総局に短期専門家を派遣し、技術協力を行っています。

マレーシアに対する支援

マレーシアでは、マレーシア海上法令執行庁(MMEA)に対して、その設立準備段階であった平成17年から専門家を派遣し、組織体制作りや人材育成のための技術協力プロジェクトを実施しています。平成23年7月からは、海上法令執行、海難救助、教育・訓練の分野での能力・体制の強化ために専門家を派遣し、組織犯罪等の情報収集・分析・捜査や特殊救難技術に関するセミナーや講義等を通じた支援を実施しています。

平成30年8月には特殊救難隊等の専門家をMMEAへ派遣し、潜水活動における安全管理に関するワークショップを開催したほか、10月にはマレーシアにおける救助潜水体制構築の検討を行っているMMEA職員を日本に招へいし、海上保安庁の救助潜水体制に関する研修を実施しました。

また、平成30年11月にはMMEAの制圧指導者、鑑識業務担当職員をそれぞれ日本に招へいして、制圧、鑑識に関する研修を実施しました。

スリランカに対する支援

スリランカでは、平成26年度から、機動防除隊等の専門家をスリランカ沿岸警備庁(SLCG)に派遣して、油防除に関する技術協力を行っています。平成31年2月には、海上保安庁モバイルコーポレーションチーム、機動防除隊等をSLCGに派遣し、無償資金協力により我が国から供与された巡視艇及び油防除資機材を使用した沿岸域での油防除に関する訓練を実施しました。

複数国に対する支援

通航船舶の増大が見込まれ、海難が多発しているASEAN諸国における海上交通安全の確保を目的として、海上保安庁では平成26年から3年間、VTS管制官育成に関する日AESAN地域会合を開催しました。これら会合の結果を踏まえ、平成29年7月にVTS管制官育成のためのASEAN全体を対象とした地域訓練センターをマレーシアに設立しました。同センターにて国際基準に合致した訓練を実施し、ASEAN諸国のVTS管制官育成を支援しています。

また、マラッカ・シンガポール海峡における通航量の増大及び通航船舶の大型化に対応するため、最新技術による同海峡の精密水路測量と電子海図の高度化について、沿岸3か国(マレーシア、インドネシア、シンガポール)からの協力要請を受け、海上保安庁は、関係機関と協力しつつ、水路測量に係る技術的な協力を行っています。平成29年から令和2年までの4年計画において、平成28年までに実施した緊急を要する5海域以外のマラッカ・シンガポール海峡の分離通航帯全域を対象とした水路測量の実施及び電子海図の更新をサポートしています。平成30年3月からは実際に水路測量が開始されています。

ASEAN地域訓練センターにおける訓練状況

ASEAN地域訓練センターにおける訓練状況

海上保安庁モバイルコーポレーションチーム発足1周年!

近年、アジア諸国では海上保安機関が相次いで設立され、技術指導等の支援要請が質的・量的に増加してきたことから、海上保安庁では平成29年10月、海上保安国際協力推進官を責任者とする7名体制の能力向上支援の専従部門(海上保安庁モバイルコーポレーションチーム:MCT)を発足させました。

MCT発足からの1年でMCT職員を7か国へ、のべ12回派遣し、各国海上保安機関職員の能力向上支援業務等に従事したほか、各国海上保安機関から職員を受け入れ、庁内関係部署と協力し研修を実施しました。

フィリピン沿岸警備隊に対する高速小型艇等を用いた海上法執行訓練

フィリピン沿岸警備隊に対する高速小型艇等を用いた海上法執行訓練

スリランカ沿岸警備庁に対する油防除訓練

スリランカ沿岸警備庁に対する油防除訓練

2 各国水路機関への支援

海上保安庁では、昭和46年から、独立行政法人国際協力機構(JICA)と協力し、アジアやアフリカなどの開発途上国において水路測量業務に従事する水路技術者を対象とした課題別研修を毎年実施し、途上国の海図作成能力を向上させることで、世界における航海の安全に貢献しています。これまでに、44か国から約440名の水路技術者が本研修に参加し、各国の水路業務分野で活躍する人材を輩出してきました。

第48回目となる平成30年は、6月から12月までの約6ヶ月間、JICAと協力し、開発途上国で水路測量に従事する技術者6名(インドネシア、ミャンマー、パプアニューギニア、フィリピン)を対象とした、海図作製能力向上のための研修を開催しました。

本研修は、JICAが実施する本邦研修のうち、国際資格が取得できる唯一の研修です。本研修を修了した研修員には、水路測量国際B級資格が付与され、修了者の多くが各国水路当局の幹部として活躍しています。

*水路測量国際B級資格:各国の教育機関が実施する水路測量技術者養成コースに対し、水路測量等の国際基準を定める国際委員会(IBSC)により認定される資格で、国際A級、B級の2つに分かれる。

測量船「明洋」による乗船実習

測量船「明洋」による乗船実習

3 ソマリア沖・アデン湾沿岸国に対する支援

海上保安庁では、ソマリア沖・アデン湾の沿岸国に対しても、東南アジア諸国への支援の経験を活かした様々な支援を行っています。

平成30年6月から7月にかけて、国際協力機構(JICA)の協力のもと、「海上犯罪取締り」研修を開催し、アジア・アフリカ等の海上保安機関の現場指揮官クラスを招へいし、海賊対策をはじめとする海上犯罪取締り能力を強化することを目的とした国際犯罪の取締り等に関する講義、捜査活動に関する実技等の研修を行いました。この研修は、「海賊対策国際会議」(平成12年4月・東京)の中で合意された「アジア海賊対策チャレンジ2000」に基づき行われているもので、平成13年度の開始から今年で18回目となり、これまでに計26か国1地域、310名を受け入れています。平成20年度以降は、ソマリア周辺海域における海賊対策強化の必要性が高まったことを受け、アジア諸国のほか、中東、東アフリカ諸国の海上保安機関職員を招へいしています。

また、JICAの協力のもと、ジブチ沿岸警備隊能力拡充プロジェクトの短期専門家として、海上保安官を同沿岸警備隊に派遣し、技術協力を実施しています。

平成30年9月には、短期専門家5名を派遣し、ジブチ沿岸警備隊職員に対して、国際法についての研修、犯人逮捕に必要な制圧術の技術指導及び日本から供与した巡視艇の安全かつ効率的な運航等の技術指導を実施しました。

研修等の様子

研修等の様子

4 海上保安政策プログラム

アジア諸国の海上保安機関の相互理解の醸成と交流の促進により、海洋の安全確保に向けた各国の連携協力、認識共有を図るため、平成27年10月、海上保安政策に関する修士レベルの教育を行う「海上保安政策プログラム」(Maritime Safety and Security Policy Program)を開講し、アジア諸国の海上保安機関職員を受け入れて能力向上支援を行っています。本プログラムでは、その教育を通じ、①高度の実務的・応用的知識、②国際法・国際関係についての知識・事例研究、③分析・提案能力、④国際コミュニケーション能力を有する人材を育成することを目指しています。

本プログラム卒業生には、海上保安分野の国際ネットワーク確立のための主導的役割を発揮することが期待され、現在、第4期生(インド、日本、マレーシア、フィリピン、スリランカ、ベトナム)が、高い知識の習得と共通認識の形成に向け日々研鑽を続けています。なお、本プログラムは、海上保安大学校、政策研究大学院大学、独立行政法人国際協力機構(JICA)及び日本財団が連携・協働して実施しています。

今後の取組み

海上保安庁は、各国の海上保安機関設立時の支援や、長官級による会合を主導するなど、地域の海上保安能力向上にも貢献するとともに、これまで東南アジアの海上保安機関を中心に、81か国3地域から延べ1900名以上の研修員を本邦へ招へいし、24か国へ約750名の職員を派遣しております。今後も、海上保安政策プログラムをはじめ、各種枠組みを通じた協力・連携を推進し、能力向上支援に関する更なる支援を実施していきます。