海上保安レポート 2019

はじめに


TOPICS 海上保安の一年


特集 増大する危機に立ち向かう


目指せ! 海上保安官


海上保安庁の任務・体制


■本編

1 治安の確保

2 生命を救う

3 青い海を守る

4 災害に備える

5 海を知る

6 交通の安全を守る

7 海をつなぐ


語句説明・索引


図表索引


資料編

7 海をつなぐ > CHAPTER I. 各国海上保安機関との連携・協力
7 海をつなぐ
CHAPTER I. 各国海上保安機関との連携・協力

犯罪は国際犯罪組織が関与するものも発生し、事故・災害は大規模化する傾向にある中、一つの国の管轄権が行使できる海域には制約があります。

海に関する問題は、一つの国で解決することが困難なものが多く、海でつながる諸外国と連携・協力して対処することが極めて重要です。海上保安庁では、諸外国との合同訓練や共同パトロール等を通じ、これら海上保安機関間の協力関係を実質的な活動に発展させるよう主導し、さまざまな分野で連携・協力を図っています。

多国間での連携・協力
1 世界海上保安機関長官級会合(CGGS)

世界各国の海上保安機関が、地球規模の環境変化とそれに起因する課題に対し、地域の枠組みを越え、力を結集して取り組むため「世界海上保安機関長官級会合」を日本財団と共催しています。

平成29年9月、世界で初めて東京で開催された会合には、アジア、オセアニア、北米、中南米、欧州、中東、アフリカから38の国及び国際機関等(34か国1地域、3国際機関等)から海上保安機関等の長官級が参加しました。その結果、世界が直面している課題を克服するため、海上保安機関等の間における既存の地域協力の枠組みを越えた連携の強化や対話を拡大することの重要性を確認するなどを盛込んだ議長総括が取りまとめられました。

平成30年11月、同会合の議長総括を受け、「第1回世界海上保安機関実務者会合」を東京で開催し、66の国及び国際機関等(58か国、8国際機関等)から海上保安機関等の実務者が参加しました。会合の冒頭、海上保安庁総務部長は「平成29年に初開催した世界海上保安機関長官級会合を経て培った世界規模の連携をより深め、本会合が世界の海上保安機関をつなぐ対話と協力のプラットフォームとして、さらに発展することを期待している」旨述べました。本会合では、「情報共有手法の検討」、「海上保安国際人材育成」、「会合運営ルールの策定」の3つのテーマについて議論を行い、世界をつなぐ新たな教育や研究の機会及び情報共有システムの構築について具体的な検討を始めることで、実務者レベルの理解が得られました。

また、この会合で得られた結果を高いレベルで確認し実現していくため、令和元年、「第2回世界海上保安機関長官級会合」を日本で開催することが決まりました。

開催挨拶を行う海上保安庁総務部長

開催挨拶を行う海上保安庁総務部長

会合の様子

会合の様子

2 北太平洋海上保安フォーラム(NPCGF)

北太平洋海上保安フォーラムは、北太平洋地域の6か国(日本、カナダ、中国、韓国、ロシア、米国)の海上保安機関の代表が一堂に会し、北太平洋の海上の安全・セキュリティの確保、海洋環境の保全等を目的とした各国間の連携・協力について協議する多国間の枠組みであり、海上保安庁の提唱により、平成12年から開催されています。

このフォーラムの枠組みの下、参加6か国の海上保安機関は、北太平洋の公海における違法操業の取締りを目的とした漁業監視共同パトロールや、現場レベルでの連携をより実践的なものとするための多国間多目的訓練(MMEX)等を行っています。また、今後の連携・協力の方向性やこれまでの活動の成果について議論するため、毎年、長官級会合(サミット)と実務者による専門家会合を開催しています。

平成30年6月には、巡視船「やしま」を韓国・釜山沖に派遣し、シージャックや船舶火災が発生したという想定で多国間多目的訓練を実施しました。9月には、長官級会合が中国・杭州で開催され、密輸・密航等の不法取引やセキュリティ対策に関する好事例、大規模な海難や災害発生時における対策等について、情報交換を行うとともに、漁業監視共同パトロールの実施状況についての報告と今後の実施計画について議論されました。議論の総括として共同宣言が採択され、北太平洋の治安の維持と安全の確保について、6か国間で連携・協力を推進することが確認されました。

北太平洋海上保安フォーラムサミットの様子

北太平洋海上保安フォーラムサミットの様子

多国間多目的訓練の様子

多国間多目的訓練の様子

3 アジア海上保安機関長官級会合(HACGAM)

アジア海上保安機関長官級会合は、海上保安機関の長官級が一堂に会して、アジアでの海上保安業務に関する地域的な連携強化を図ることを目的とした多国間の枠組みであり、海上保安庁の提唱により、平成16年から開催されています。

平成30年10月には、第14回会合がバングラデシュ・ダッカで開催され、「捜索救助」、「海洋環境保全」、「海上不法活動の予防・取締り」及び「人材育成」の4分野について、各国・機関から取組み状況が発表され、上記4分野についてのワーキンググループの設置及び同グループの活動方針について合意されたほか、各国の海上保安に関する連携が、地域の海上交通安全の確保と促進に有効であることを確認し、安全で、明るく、美しいアジアの海をいつまでも保つため、この連携を維持・発展させること等に合意する共同宣言を採択しました。

また、本会合では、新たにバーレーンの加入が合意され、参加国は21か国1地域となりました。

会合の写真

会合の写真

二国間での連携・協力
1 韓国

海上保安庁と韓国海洋警察庁は、海域を接する両国間における海上の秩序の維持を図り、幅広い分野での相互理解・業務協力を推進するため、平成11年からこれまでに合計17回、日韓海上保安当局間長官級協議を開催しています。

17回目となる協議は、平成30年12月韓国・仁川において、最近の両機関による連携・協力状況を評価するとともに、今後、二国間協力のみならず、多国間の枠組みにおいても連携・協力していくことで一致しました。また、海上保安庁と韓国国立海洋調査院との間では、海洋調査の分野での連携・協力を進めるため、平成元年から日韓水路技術会議を設置し、技術的な意見交換を行っています。

日韓海上保安当局間長官級協議

日韓海上保安当局間長官級協議

2 ロシア

海上保安庁とロシア連邦保安庁国境警備局は、海上での密輸・密航等の不法活動等の取締り等に関する相互協力のため、平成12年9月に締結した「日本国海上保安庁とロシア連邦国境警備庁(現ロシア連邦保安庁国境警備局)との間の協力の発展の基盤に関する覚書」に基づき、これまで原則年1回の長官級会合のほか、日露合同訓練等を実施し、協力関係の推進を図っています。

平成30年6月、サハリン州国境警備局長を団長とするロシア代表団及び同所属警備艦「コーラル」が小樽を訪問し、第一管区海上保安本部との間において、密輸容疑船追跡捕捉訓練を行いました。同12月には、ロシア連邦保安庁国境警備局長官が6年ぶりに訪日し、日露海上警備機関長官級会合を開催しました。同会合では、地方機関における合同訓練等を通じた二国間協力及び北太平洋海上保安フォーラム等を通じた多国間協力について評価するとともに、今後の連携・協力の方向性について意見交換を行いました。

日露海上警備機関長官級会合及び合同訓練

日露海上警備機関長官級会合及び合同訓練

3 インド

平成11年に発生した、「アロンドラ・レインボー号」(日本人船長・機関長が乗船)がマラッカ海峡で海賊に襲われた事件で、インド沿岸警備隊が海軍と連携して海賊を確保したことを契機に、海上保安庁とインド沿岸警備隊は、平成12年以降、定期的に、長官級会合や連携訓練を実施しています。

平成31年1月には、第18回長官級会合を東京で開催し、昨年度実施した人的交流を評価するとともに、自然災害対応や多国間の枠組みにおける両機関の連携・協力の強化について意見交換を行いました。また横浜において、連携訓練として、潜水訓練、油防除訓練、航空機を使用した被害者救助訓練を実施しました。連携訓練においては、インド沿岸警備隊から巡視船シャウナックが参加し、当庁の巡視船艇及び特殊救難隊機動防除隊等と訓練を行いました。

日印海上保安機関長官級会合及び日印連携訓練(潜水訓練)

日印海上保安機関長官級会合及び日印連携訓練(潜水訓練)

4 べトナム

平成27年9月、海上保安庁とベトナム海上警察は、海上法執行機関として、安全で開かれ安定した海を維持することが両国の繁栄に寄与するとの価値観を共有し、海上保安分野に係る人材育成、情報の共有と交換の維持などについて覚書を締結しました。平成30年12月、覚書に基づき開催された実務者会合においては、海上保安庁が策定したベトナム海上警察の教育訓練体制の整備や海上保安業務全般の能力向上に対する協力支援をまとめたマスタープランについて協議し、今後の支援の方向性に関して合意しました。

また同12月、ベトナムに航空機を派遣し、ベトナム海上警察に対し、法執行能力向上を目的とした海賊対策に関するワークショップを開催しました。

日越海上保安機関実務者会合

日越海上保安機関実務者会合

5 フィリピン

平成29年1月、海上保安庁とフィリピン沿岸警備隊は、海上保安に関する人材育成、情報交換など、協力を行う分野を明確化し、両機関の更なる協力・連携関係の強化を目的とした長官級の協力覚書を締結しました。同協力覚書に基づき、平成30年6月、11月にはフィリピンに巡視船を派遣し、日本政府がフィリピン沿岸警備隊に供与した巡視船等と連携訓練を実施しました。

連携訓練

連携訓練

6 オーストラリア

平成30年11月、海上保安庁とオーストラリア国境警備隊は、海上保安分野における人材育成、情報共有等に関し、両機関の連携強化を目的とした協力文書を締結しました。

協力文書交換式(出典:首相官邸HP)

協力文書交換式(出典:首相官邸HP)

国際緊急援助活動について

我が国は、海外の地域、特に開発途上にある海外の地域において、大規模な災害が発生した場合、被災国政府または国際機関の要請に応じ、救助や災害復旧等の活動を行う国際緊急援助隊を派遣しており、海上保安庁もこれに協力しています。

油防除専門家チーム

油防除専門家チーム
国際緊急援助隊の活動(平成29年9月メキシコ地震・倒壊した家屋での活動)JICA提供

国際緊急援助隊の活動(平成29年9月メキシコ地震・倒壊した家屋での活動)JICA提供

国際緊急援助隊の活動(平成29年9月メキシコ地震・救助手順を確認する隊員)JICA提供

国際緊急援助隊の活動(平成29年9月メキシコ地震・救助手順を確認する隊員)JICA提供

今後の取組み

海上保安庁は、法の支配に基づく自由で開かれた海洋秩序の維持・強化のため、二国間・多国間会合や合同訓練等を通じ、各国の海上保安機関との連携・協力を推進していきます。