海上保安レポート 2017

はじめに


TOPICS 海上保安の一年


特集 平和な海の継承〜海上保安庁の使命〜


海上保安官の仕事


海上保安庁の 任務・体制


■本編

1 治安の確保

2 生命を救う

3 青い海を守る

4 災害に備える

5 海を知る

6 交通の安全を守る

7 海をつなぐ


語句説明・索引


図表索引


資料編

特集 平和な海の継承〜海上保安庁の使命〜 > II 海上保安体制強化に関する方針 > 2 体制整備
平和な海の継承〜海上保安庁の使命〜
II 海上保安体制強化に関する方針
2 体制整備

「海上保安体制強化に関する方針」の決定を受け、今後、海上保安庁では尖閣領海警備体制の強化等については、緊急的に整備を進め、その他については、段階的に必要な体制整備を進めていくことになります。海上保安庁の平成29年度当初予算は2,100億円超に大幅に増額され、これにより、平成28年度補正予算と合わせて、大型巡視船5隻の増強、尖閣領海警備専従船全船への映像伝送装置の装備等による海洋監視体制の強化、大型測量船1隻の増強等による海洋調査体制の強化等、体制強化に緊急的に着手しました。

また、定員についても、平成28年度に緊急増員104人、平成29年度に338人(定員合理化等220人を含む)が増員されました。


海上保安体制強化に関する方針を受けた整備内容
海上保安体制強化に関する方針を受けた整備内容

ヘリコプター1機搭載型巡視船の整備
ヘリコプター1機搭載型巡視船の整備

海上保安庁では、こうした体制を整備することにより、国民の皆様が安全・安心して暮らすことができる平和で豊かな日本の海を次世代へ引き継いでいけるよう、守り抜いていきます。


海上保安体制強化に関する方針 (全文)

海上保安体制強化に関する方針について

(平成28年12月21日海上保安体制強化に関する関係閣僚会議決定)

海上保安体制強化に関する方針について別紙のとおり定める。

別紙

1. 海上保安庁の任務と我が国周辺海域を取り巻く情勢

(1)海上保安庁の任務

海上保安庁は、海上の安全及び治安の確保を図るという任務を果たすため、国内の関係機関のみならず、国外の海上保安機関等とも連携・協力体制の強化を図りつつ、領海警備、治安の確保、海難救助、海洋環境の保全、自然災害への対応、海洋調査、海洋情報の収集・管理・提供、船舶交通の安全確保等の業務を行っており、近年、その重要性は増している。(付紙参照)


(2)我が国周辺海域を取り巻く情勢

(ア)外国公船による尖閣諸島領海侵入等

尖閣諸島周辺海域では、平成24年9月以降、中国公船が我が国領海に侵入する事案が頻発するなど、緊迫した情勢にある。昨今では、中国公船の大型化・武装化・増強が確認され、特に、平成27年には、初めて武装中国公船が尖閣諸島周辺海域に出現し、領海内に侵入する事案が発生したが、それ以降も、武装中国公船が航行している状況にある。また、平成28年8月には、中国漁船に続いて多数の中国公船が領海侵入を繰り返すといった事象が発生し、尖閣諸島周辺の接続水域においては、過去最大の15隻の中国公船が同時に確認されるなど、中国側は我が国周辺海域における行動を増やしている。

なお、近隣各国においては、管轄海域に比べ、多くの海上法執行船を配備しているが、特に中国においては、平成25年に、海上法執行機関の統合再編に伴って、中国海警局が新設されるなど、その体制は急速に増強されている。

(イ)外国漁船による尖閣諸島領海侵入等

尖閣諸島周辺海域では、外国漁船による活動も続いており、特に、中国漁船の領海からの退去警告隻数は、平成23年には8隻であったが、平成26年には208隻に増加している。平成28年(11月末時点)においても、既に104隻に及んでいる。

(ウ)外国海洋調査船の活動の活発化

近年、我が国排他的経済水域内において中間線を越えた境界画定を主張している国がある中、我が国周辺海域において、外国海洋調査船による我が国の同意を得ない調査活動等が多数確認されている。こうした調査活動等は、平成24年には5隻であったが、平成27年には28隻に増加しており、その活動海域も東シナ海のみならず沖ノ鳥島・南鳥島周辺海域等の遠方離島海域に及ぶなど、広域化している。

(エ)その他の我が国周辺海域における重大な事案

小笠原諸島周辺海域等において、平成26年秋、200隻を超える中国サンゴ漁船等が確認されたが、その後も、九州西方の我が国の排他的経済水域において、中国サンゴ漁船が検挙されるなど、予断を許さない状況である。また、三陸沖や日本海においても、外国漁船の操業が急増している。

加えて、沖ノ鳥島の周辺海域では、我が国の権益を脅かすような外国の漁船による違法操業とともに、当該漁船の保護を目的とした当局の船舶が沖ノ鳥島周辺海域に進出する事態も生じている。

さらに、北朝鮮は核実験や弾道ミサイル発射を繰り返しているが、弾道ミサイルが、日本漁船の操業や日本船舶の往来がある我が国の排他的経済水域を含む日本海に着水している。


2.海上保安庁の体制

海上保安庁は、日本全国に十一の管区海上保安本部や海上保安部等を設置し、一元的な組織運用がなされている。

主要な装備については、昨今進めてきた尖閣領海警備専従体制や尖閣漁船対応体制の整備等により、平成24年度末と比較して、1000トン以上の大型巡視船は10隻増、規制能力強化型巡視船は3隻増(今後、さらに6隻増予定)となるなど、平成28年度末時点においては、455隻の船艇と74機の航空機を保有し、そのうち、遠洋海域進出が可能となる1000トン級以上の大型巡視船は、ヘリ搭載型を含めて62隻となる。

また、定員については、平成28年度末時点においては、13,522人、平成28年度予算額は、1,877億円となっている。


3.海上保安体制強化に関する方針

上記1.(2)に示すような尖閣諸島周辺海域をはじめ、我が国周辺海域を取り巻く情勢を念頭に、国家安全保障戦略(平成25年12月17日国家安全保障会議及び閣議決定)等を踏まえつつ、下記に示すとおり、海上保安体制強化を図る。その際、喫緊の課題である尖閣領海警備体制の強化等については、緊急的に整備を進め、その他については、所要の検討を行った上で、段階的に必要な体制整備を進める。


(1)尖閣領海警備体制の強化と大規模事案の同時発生に対応できる体制の整備

尖閣諸島周辺海域における領海侵入事案に対して、これまで尖閣領海警備専従体制の整備を進めてきたが、中国公船の大型化・武装化等を踏まえ、それに対応できる巡視船等の整備を進め、尖閣領海警備体制を更に強化する。その際、必要な基地整備にも併せて取り組む。

また、中国公船等が、大量に尖閣周辺海域に集結する場合には、上記の尖閣領海警備体制に加え、各管区で必要な業務を支障なく遂行し、大規模事案が同時に発生した場合であっても対応できる体制を確保しつつ、全国からの緊急応援派遣で対応を行う。

上記の体制整備に当たっては、尖閣諸島周辺海域等の変化する情勢に機動的に対応できるよう、既存の巡視船等の配置・運用の見直しを含めて体制の強化を図る。


(2)海洋監視体制の強化

全国の広大な海域において重点的に外国公船、外国漁船、外国海洋調査船やテロ等の脅威に対する監視体制を強化するため、航空機による監視体制に加え、監視拠点の整備等による監視能力の強化のほか、監視情報の集約・分析等に必要な情報通信体制の強化を図る。なお、広域海洋監視のあり方についても研究を進める。

その際、自衛隊との役割分担を踏まえた情報共有・連携強化等も進めながら、海域毎に優先順位をつけつつ、費用対効果も勘案した上で、段階的に必要な体制を強化する。


(3)原発等テロ対処・重要事案対応体制の強化

現下の厳しいテロ情勢や北朝鮮による挑発的行動を踏まえ、原子力発電所等へのテロの脅威への対処や、離島・遠方海域における領海警備等の重要事案への対応について、想定される事態と必要な措置等を踏まえ、警察や自衛隊との情報共有・連携強化等を進めつつ、テロ対処等に万全を期すために必要な巡視船による対応体制の強化を段階的に進める。


(4)海洋調査体制の強化

他国による大陸棚延長申請や中間線を越えた海洋境界の主張に対し、我が国の立場を適切な形で主張していくためにも、外交当局等の国内関係機関との協力・連携を進めつつ、必要な海洋調査等を計画的に実施する必要がある。そのため、他国による海洋調査の動向や必要な調査対象海域の範囲等も踏まえ、必要な海洋調査体制を強化する。


(5)基盤整備

上記の体制整備を着実に進めるため、海上保安業務対応能力の向上を図るための人材の育成と併せて、必要となる定員の増員、教育訓練施設の拡充等を進める。

また、上記の体制整備を行うにあたっては、既存の巡視船等の配置・運用の見直しのほか、計画的な長寿命化や海上保安庁の組織・業務の見直し、調達価格の見直し等を行うことと併せて、必要な体制の確保を図る。


(6)留意事項

○本方針の内容は、定期的に体系的な評価を行い、適時適切にこれを見直していくこととし、我が国周辺海域を取り巻く情勢に重要な変化が見込まれる場合には、その時点における情勢を十分に勘案した上で検討を行い、必要な修正を行う。

○格段に厳しさを増す財政事情を勘案し、我が国の他の諸施策との連携を図りつつ、「経済・財政再生計画」(「骨太2015」(平成27年6月30日閣議決定))等の財政健全化に向けた枠組みの下、効率化・合理化を徹底した整備に努めるほか、関係予算の重点化・効率化等により財源を確保する中で、必要な整備を進める。


航空機写真
船舶写真

付紙

海上保安庁の任務の重要性

(ア)領土・領海の堅守

海上保安庁は、尖閣諸島周辺海域における中国公船による領海侵入や、我が国EEZ等における外国海洋調査船による我が国の同意を得ない海洋調査活動が活発化していることに対し、領土・領海を断固として守り抜くという方針の下、法執行機関として、国際法や国内法に基づき、冷静に、かつ毅然とした対処をしている。


(イ)治安の確保

海上保安庁は、海上におけるテロや密輸・密航等の我が国の治安や安全を脅かす様々な犯罪行為の未然防止や取締り、夜陰に乗じ我が国の領海・領土に接近しようとする不審船の発見・追跡・対処等に努め、安全で安心な日本の海の実現を目指している。


(ウ)海難救助

海上保安庁は、海の危険性や自己救命策確保の必要性について周知・啓発活動を行い、海難の未然防止に努めるとともに、海難が発生した場合には、強い使命感の下、迅速な救助活動を行い、尊い人命を救っている。このため海上保安庁では、巡視船艇・航空機を配備するとともに、救助・救急体制の充実のため、 潜水士機動救難士特殊救難隊といった海難救助のプロフェッショナルを全国各地に配置している。


(エ)海洋環境の保全と海洋汚染行為取り締まり

海上保安庁は、海を美しく保つため、海洋汚染の状況調査、海上環境法令違反の取締り、海洋環境保全に関する指導・啓発等の取組みを行っている。


(オ)災害対策

海上での災害には、船舶の火災、衝突、乗揚げ、沈没等の海難に伴う油や有害液体物質の排出といった事故災害と、地震、津波、台風、火山噴火等により被害が発生する自然災害があり、海上保安庁は、このような災害が発生した場合に、迅速かつ的確な対応ができるように、資機材の整備や訓練等を通じて万全の準備を整えているほか、事故災害の未然防止のための取組みや自然災害に関する情報の整備・提供等も実施している。

また、海上における災害対応に留まらず、平成27年9月に発生した、「関東・東北豪雨災害」や平成28年4月に発生した、「熊本地震」等の陸上災害においても、機動力を活かし、被害状況調査、人命救助、支援活動を実施している。


(カ)海洋調査等

海上保安庁は、海上の安全確保、海洋権益の確保、防災情報の整備・提供といった様々な目的のために海洋調査を実施しており、その成果は、資源小国である我が国にとって、将来の資源供給源として期待される海洋の開発・利用の基礎資料ともなっている。このような海洋における活動の基盤情報となる調査成果を集約し、それぞれの目的に合わせ、ユーザーの利用しやすい形での情報提供に努めている。


(キ)海上交通安全確保

海上保安庁は、交通の輻輳する海域において、的確な情報提供や管制に努めるとともに、灯台をはじめとする各種航路標識を整備・管理し、また、種々の手段を用いて、航海の安全に必要な情報を迅速、確実に提供することにより、船舶事故の未然防止に努めている。


(ク)外国法執行機関との国際協力

近年、ベトナムを始めアジア各国では海上保安機関が相次いで設立され、領海警備等法執行業務等を行っている。海上保安庁は、これらの海上保安機関に対し、技術支援を行っており、世界79か国3地域から研修員を受け入れ、あるいは職員を派遣して多年にわたる能力向上支援を行うとともに、アジア各国海上保安機関の初級幹部を日本へ招へいし、世界初となる海上保安分野の修士課程を開講した。また、最近では、アジア各国フィリピンへの巡視船供与やマレーシアへの中古巡視船供与の方針を決定するなど、能力向上支援を促進している。

また、アジア海上保安機関長官級会合の枠組みを通じて、アジア地域の海上保安業務に関する、国家安全保障戦略に即した連携強化を図っている。

*図表等の記載を省略した箇所があります。