海上保安レポート 2012

はじめに


TOPICS 海上保安の一年


特集 東日本大震災


海上保安庁の任務・体制


■本編

1 治安の確保

2 領海等を守る

3 生命を救う

4 青い海を守る

5 災害に備える

CHAPTER 1 事故災害対策
CHAPTER 2 自然災害対策

6 海を知る

7 交通の安全を守る

8 海をつなぐ


目指せ! 海上保安官


語句説明・索引


図表索引


資料編

5 災害に備える > CHAPTER 2 自然災害対策
5 災害に備える
CHAPTER 2 自然災害対策

海上保安庁では、地震、台風、豪雨等、自然災害が発生した際には、国民の生命及び財産を災害から保護するための災害応急活動を実施します。被災者の避難、人員・資機材の輸送等について迅速な対応を行うため、日頃から訓練等を実施し、被害を最小限に抑えることに努めています。

平成23年3月に発生した東日本大震災の際には、地震発生直後から、全国から多数の巡視船艇・航空機等を動員して、警察や自治体、ボランティアの方々等と協力し、人命救助や行方不明者の捜索、被災港湾における航路確保のための水路測量、被災した航路標識の復旧、支援物資の輸送等、様々な災害対応を行いました。

平成23年の現況
防災訓練

地方自治体等関係機関との連携強化を図るため、東海地震、東南海・南海地震及び首都直下型地震等の自然災害に備えた合同訓練を184回実施しました。また、東日本大震災の教訓を踏まえ、迅速な対応勢力の投入や非常時における円滑な通信体制の確保等を念頭に置いた防災訓練を、関係機関等と連携して実施しています。

防災訓練 関係機関と連携した合同防災訓練
▲関係機関と連携した合同防災訓練  

地震発生予測につながるデータ収集

東海地震、東南海・南海地震等に代表される海溝型地震は、その震源域の大部分が海域にあり、基盤となるデータ収集が重要です。海上保安庁では、将来の海溝型地震の発生が予想される日本海溝や南海トラフ等の太平洋側海域において、測量船から海底基準点の移動を計測する海底地殻変動観測を実施し、大地震の発生予測につながる海域の地殻変動データを整備し、その結果を地震調査研究推進本部等に報告しています。


海域火山の調査

南方諸島及び南西諸島の海域にある火山島や海底火山の構造等の調査及び火山の活動状況の監視を実施し、航行船舶等に対して注意喚起を行うとともに、火山噴火予知連絡会等に報告しました。

今後の取組み
1 防災・救助体制の強化
防災体制の強化

海上保安庁では、東日本大震災の教訓等を踏まえ、自然災害に限らず、地域と連携した災害対策等に取り組む地域防災対策官などの増強配置に努めるとともに、災害対応能力を強化した巡視船や防災資機材の整備を進め、大規模災害等が発生した場合であっても、確実に対応できるよう防災体制の強化に努めます。


救助体制の充実
ヘリコプターによる吊り上げ救助を実施する機動救難士
▲ヘリコプターによる吊り上げ救助を実施する機動救難士

海上保安庁では、事故や災害発生時にヘリコプターを使って迅速に救助等の対応をとるため、全国8か所の航空基地等に、機動救難士に加え、現場における高度な判断や機動救難士への指揮等業務の統括を行う上席機動救難士を配置し、災害発生時の救助体制の充実に努めています。

また、東日本大震災の際に、一般の加入電話や携帯電話が途絶・ふくそうし、情報収集・連絡に支障をきたした経験から、災害の影響を受けにくい無線機の整備や通信施設の耐震強化等災害時にも通信体制が確保できる体制を構築していきます。

東日本大震災の教訓を踏まえ、本部機能移転訓練を実施!

第八管区海上保安本部では、平成23年9月30日、原発事故や津波によって庁舎が使えなくなった事態を想定し、指揮・命令機能や通信機能といった本部の機能を緊急的に巡視船「だいせん」へ移す訓練を行いました。

第八管区海上保安本部は、福井県高浜原発から約18kmの京都府舞鶴市に所在しているため、原子力事故が発生した場合、警戒区域に指定される可能性があります。このような状況では、的確な指揮、調整が困難となることが想定されることから、巡視船への本部機能移転及び移転された巡視船からの指揮訓練を行うなど、大規模災害発生時の対応体制の維持に取り組んでいます。

海上保安庁では、今後も、東日本大震災のような大規模災害から得られた知見を踏まえた訓練を実施するなど、災害対応能力の向上に努めていきます。

指揮・命令に必要な資器材を巡視船「だいせん」へ搬送 本部機能を移転した巡視船「だいせん」内において指揮訓練を実施
▲指揮・命令に必要な資器材を巡視船「だいせん」へ搬送 ▲本部機能を移転した巡視船「だいせん」内において指揮訓練を実施
2 大規模地震の想定震源域における調査

海域で発生する大規模地震を予測するための調査研究においては、まだ十分なデータが蓄積されていないため、海底基準点の整備や測量船への最新型の観測器材の整備等海底地殻変動の観測体制を強化し、大規模地震発生メカニズムの解明に貢献していきます。


3 海域火山の監視

現在も活動している南方諸島や南西諸島方面の海域火山について、海底火山の地下構造を解明するため、測量船による海底地形・地質構造等の科学的調査及び航空機による火山活動監視・観測を実施し、これらの監視や調査で収集したデータを火山噴火予知連絡会等に報告するほか、航行船舶への情報提供、防災対策の基礎資料として活用していきます。


4 防災情報の整備・提供
津波防災情報図
▲津波防災情報図

離島や沿岸域において、火山噴火や地震、津波等の災害が発生した場合に、海上からの円滑な救助活動を支えるため、海底地形等の自然情報に加え、陸上の医療機関や避難場所等の防災に必要な情報を網羅した「沿岸防災情報図」の整備を行っていきます。また、東日本大震災の教訓を踏まえ、航空レーザー測量等により水深データを取得し、津波ハザードマップの作成に必要な水深データの充実・整備を図るとともに、津波被害が想定される海域における津波の波高、到達時間等を記載した「津波防災情報図」の整備・提供に努めていきます。

5 港内における津波対策

地震等が発生し、大規模な津波の来襲が想定される場合、港内の舶船への甚大な被害の発生が懸念されます。予想される津波の規模や船舶への影響等は港ごとに異なることから、主要な港にそれぞれ「船舶津波対策協議会」を設立し、海上保安庁が収集・整理した津波防災に関するデータを活用しながら必要な対策の充実を図ります。