海上保安レポート 2012

はじめに


TOPICS 海上保安の一年


特集 東日本大震災


海上保安庁の任務・体制


■本編

1 治安の確保

2 領海等を守る

3 生命を救う

4 青い海を守る

5 災害に備える

CHAPTER 1 事故災害対策
CHAPTER 2 自然災害対策

6 海を知る

7 交通の安全を守る

8 海をつなぐ


目指せ! 海上保安官


語句説明・索引


図表索引


資料編

5 災害に備える > CHAPTER 1 事故災害対策
5 災害に備える
CHAPTER 1 事故災害対策

船舶の火災、衝突、乗揚げや沈没等の事故は、人命を脅かすだけでなく、油や有害液体物質等の排出を伴った場合には、周囲の自然環境や付近住民の生活に甚大な悪影響を与えることがあります。

海上保安庁では、これらの事故災害に対して、消防能力を有する巡視船艇や油防除資機材等を活用し迅速に対応することにより、災害発生時の被害を最小限に抑えるよう努めています。

平成23年の現況
タンカーからの油排出事故
▲タンカーからの油排出事故
船舶の火災海難
▲船舶の火災海難

海上保安庁では、平成23年に127件の油排出事故に対応しました(前年比43件減少)。

また、船舶火災は87隻で発生しており(前年比10隻増加)、船種別では依然として漁船が55隻と多く、全体の約63%を占めています。

こうした油の排出や船舶火災へ対応するため、海上保安庁では、巡視船に搭載可能な油回収装置や航空機に搭載可能な油処理剤空中散布装置等の油防除資機材を整備するとともに、高い消防能力を有した巡視船艇を配備するなど事故発生時の対応能力の向上を図っています。また、関係省庁はもとより、独立行政法人海上災害防止センター等の防災関係機関や民間団体と連携し、排出油防除資機材の取扱いや火災消火等の合同訓練を行うなど、官民一体となった海上防災体制の充実及び関係機関との連携強化に努めました。

さらに、日本海及び近海において閉鎖性水域の海洋環境保全と資源管理を目的に沿岸国(中国、韓国、ロシア)と協働する「北西太平洋地域海行動計画(NOWPAP)」に参画し、各国関係機関との合同油防除訓練の実施や事故対策のためのフォーラムに参加するなど、近隣諸国との連携を強化するとともに、8月には、独立行政法人国際協力機構(JICA)による第1回「海上保安実務者のための救難・環境防災コース(研修)」を共同で開催し、アジア諸国の海上保安機関からの研修員に対して、阪神・淡路大震災や東日本大震災といった大災害を経験した我が国の災害対応や油防除等に関する知識・技術を伝えるなど国際貢献にも努めています。

このほか、油排出事故の発生に対する備えとして、あらかじめ沿岸域の情報を収集、整理しておく必要があることから、日本全国の沿岸域における地理・社会・自然・防災情報等を沿岸海域環境保全情報として整備・更新しています。

第1回海上保安実務者のための救難・環境防災コース(研修)の開催

平成23年8月16日から10月27日の間、独立行政法人国際協力機構(JICA)と共同で第1回「海上保安実務者のための救難・環境防災コース(研修)」を開催しました。海上保安庁では、阪神・淡路大震災や東日本大震災を経験し、これら大規模災害への対処について知見を得るとともに、対応体制の整備を図ってきました。本研修では、このような大震災等の経験により得られた大規模災害への対処に関する先進的なノウハウを始め、海上における災害対応や海洋環境保全に関する知識や技能等を、アジア諸国の海上保安機関の研修員と共有しました。

本研修には、インドネシア、マレーシア、フィリピン、ベトナム各国において海難救助・海上防災・環境保全業務に従事する研修員計9名が参加し、捜索救助や海上防災に関する講義だけでなく、巡視船艇・航空機や訓練施設等を活用した実習等を受けました。海上保安庁は今後も、長年培った知見を生かし、アジア諸国と知識・技能を共有するなど、海上保安分野における国際貢献にも努めていきます。

分析研修を受ける研修員 救難資器材の取り扱いについて説明を受ける研修員
▲分析研修を受ける研修員 ▲救難資器材の取り扱いについて説明を受ける研修員
今後の取組み
1 排出油及び有害液体物質の防除体制の強化
大規模油排出事故に係る防災体制の確立

海上保安庁が行う排出油対策としては以下の4つがあり、今後も引き続きこれらの取組みを進めていきます。

(1)排出油等防除体制の整備

排出の原因者等、防除措置を行う者に対し、適切な防除活動のための指導・助言を行うほか、原因者の対応が不十分な時は、海上保安庁自らが排出油等の防除を行い、被害を最小限に食い止めます。こうした対応を行うため、横浜機動防除基地に、油等の防除に関する専門家チームである「機動防除隊」を配置し、事故発生時に日本全国へ派遣できる体制を確立しています。

(2)油防除資機材の整備

油防除活動を迅速に実施するため、タンカー等の所有者、油保管施設の設置者等に対する資機材等の備付けの指導を行うとともに、全国の主要な海上保安部署への油防除資機材の配備を実施しています。

(3)関係機関相互の連携強化

排出油による被害を最小限に食い止めるためには、地域における関係者との情報共有・連携が極めて重要です。そのため、地方自治体、漁業協同組合、港湾関係者、油関係企業といった関係者等で構成する排出油事故に対する協議会等を全国各地に設置し、関係者が迅速かつ的確に対応できるよう油防除訓練の実施等を促進しています。

排出油等防除体制の整備 油回収装置を使用した油防除訓練
▲油回収装置を使用した油防除訓練

(4)沿岸海域環境保全情報の整備等

「油等汚染事件への準備及び対応のための国家的な緊急時計画」に基づき、油排出事故発生時に沿岸海域環境保全情報を迅速かつ的確に情報提供するため、地理情報や防災情報を重ね合わせて表示するCeisNet (シーズネット)にて、インターネットによる情報提供を行っています。


有害液体物質排出事故に係る防災体制の確立
有害液体物質排出事故を想定した防除訓練
▲有害液体物質排出事故を想定した防除訓練

平成19年6月14日にOPRC−HNS議定書(2000年の危険物質及び有害物質による汚染事件に対する準備、対応及び協力に関する議定書)が発効したことを受け、有害液体物質による汚染事故に対して迅速かつ的確な対応がとれる体制を確保することになりました。有害液体物質は種類が多く、その性状に応じた防除措置等を迅速にとることが求められるため、対応資機材の充実や対応にあたる現場の海上保安官等への研修を実施するなど、有害液体物質の排出事故に対して引き続き迅速かつ効果的に対処し得る体制の確立を図っていきます。

2 国際協力体制の構築

排出油等による海洋環境汚染は、我が国だけの問題ではなく、各国と連携して対応することが重要です。海上保安庁では、海洋環境に関係する各種条約の採択、締結及び改正等に対応するため、国際海事機関(IMO)の関係委員会に出席するなど、国際的な取組みに対応していきます。

また、日本海及び黄海における海洋環境の保全を目的として近隣諸国と進める「NOWPAP」への参画、合同油防除訓練の実施を通じて、事故発生時に関係国が協力して対応できる体制の構築にも努め、国際的な連携を図っていきます。海洋環境汚染・海上防災に関する知識・能力が十分でない途上国に対しては、各国の担当者に対する研修等を通じ、海上防災体制の構築を支援していきます。


3 消防体制の確保
火災船の消火活動を実施する海上保安官
▲火災船の消火活動を実施する海上保安官

海上保安庁では、大規模な船舶火災等に対応するため、消防能力の高い巡視船艇の拡充を進め、海上における消防体制の確保に努めていきます。また、海上交通安全法に定める航路を航行する原油、LNG等の危険物を積載した大型タンカーに対しては、同法に基づき、消防設備を有した船舶の配備の指示等を実施します。さらに、大規模火災が発生した場合に備え、海上保安官等に対する消防研修を実施するなど、体制の確保に努めていきます。

4 原子力災害への対策

原子力災害が発生した場合、海上保安庁では、放射線量の測定等の放射線管理を行いつつ海上の救助・救急活動にあたるほか、モニタリングの支援等を行います。

平成23年3月に発生した福島第一原子力発電所の事故を受け、放射線測定器や防護服等の装備・資機材の充実を図るとともに、専門機関における海上原子力防災研修を職員に受講させるなど、職員の知識・技能の向上に努めていきます。また、全国各地の原子力発電所で行われる防災訓練に積極的に参加し、原子力災害発生時における海上での対応能力の向上を図ります。さらに、米国原子力艦の寄港地における放射能調査、関係機関との連携の強化等を引き続き図っていきます。

原子力災害への対策 関係機関と連携した原子力防災訓練
▲関係機関と連携した原子力防災訓練  
5 漂流予測

海上保安庁では、排出油等の挙動を適切に予測し、的確な防除体制をとるため、漂流予測を実施していますが、今後も測量船等で測定した気象や海象(海流、水温等)の情報や、相模湾や伊豆諸島に設置した海洋短波レーダーにより測定した海流の情報等をリアルタイムで収集し、漂流予測の精度向上に活用していきます。