海上保安庁では、船舶交通の安全と運航能率の向上を図るため、灯台をはじめとする各種航路標識を整備し管理しているほか、さまざまな手段を用いて、航海の安全に必要な情報を迅速かつ確実に提供し、船舶事故の未然防止に努めています。
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6 海上交通の安全を守る
CHAPTER IV. 航行の安全のための航路標識と情報提供
海上保安庁では、船舶交通の安全と運航能率の向上を図るため、灯台をはじめとする各種航路標識を整備し管理しているほか、さまざまな手段を用いて、航海の安全に必要な情報を迅速かつ確実に提供し、船舶事故の未然防止に努めています。 1 航路標識の運用
船舶が安全かつ効率的に運航するためには、常に自船の位置を確認し、航行上の危険となる障害物を把握し、安全な進路を導く必要があります。海上保安庁では、このための指標となる灯台等の航路標識を全国で5,142基運用しています。 航路標識は、灯台や灯浮標(ブイ)等さまざまな種類があり、光、形状、彩色等の手段により、我が国の沿岸水域を航行する船舶の指標となる重要な施設であり、国際的な基準に準拠して運用しています。 2 航路標識の活用
第4次交通ビジョンでは、地域を活かす海上安全行政の推進として「灯台観光振興支援」を重点施策に掲げており、地方公共団体等による灯台の観光資源としての活用等を積極的に促すことにより、海上安全思想の普及を図り、これを通じて地域活性化にも一定の貢献を果たしていくこととしています。 加えて、地域のシンボルとなっている灯台を活用した地域連携や、全国に64基現存している明治期に建設された灯台の保全を行っています。 また、令和3年11月に航路標識法を一部改正し、「航路標識協力団体制度」を創設しました。当該制度の運用開始にあたり、学識経験者等による運用基準を検討するため「航路標識協力団体制度に関する検討会」を開催し、地域での活動実態をふまえ、多くのご意見をいただきました。 同制度では、航路標識の維持管理や航路標識に関する知識の普及及び啓発等を自発的に行う民間団体等を「航路標識協力団体」に指定し、海上保安庁と協力して活動を行う団体として法律上位置付けました。これにより、地域の実情に応じた航路標識管理体制の充実を図ります。 その他にも、地方自治体と連携した周知活動を展開するとともに、メディアを利用した活動、Instagram等の各種SNSを活用したフォトコンテストの開催等若年層にも灯台の役割や魅力が届く活動を行いました。 経ケ岬 大王埼 航路標識協力団体制度の創設
令和3年11月、航路標識法を一部改正し、航路標識協力団体制度を創設しました。航路標識協力団体とは、航路標識法に基づき海上保安庁が指定した団体であり、航路標識の維持管理等の活動を自発的に行う民間団体等をいいます。航路標識協力団体に指定された団体は、自らが行う工事等を海上保安庁に申請する手続の簡略化や海上保安庁から活動の実施に関し必要な情報の提供や支援を受けるメリットがあります。海上保安庁は航路標識協力団体と連携し、引き続き灯台の適切な維持管理に努めます。 航路標識協力団体制度HP 大間埼灯台点灯100周年
本州最北端に位置する大間埼灯台(青森県下北郡大間町)が大正10年11月1日の初点灯から令和3年で100年の節目を迎えることを記念し、大間町長等地元関係者を招き大間埼灯台点灯100周年記念式典を開催しました。式典に合わせて、10月31日と11月1日の日没から午後10時頃まで、同灯台をライトアップしました。多くの方が大間崎を訪れ、普段は見ることのできない幻想的な夜の大間埼灯台を楽しみました。他にも「灯台絵画コンテスト2021」青森特別賞の授与や大間埼灯台カードDigitalの提供開始等の関連事業を実施しました。 記念式典の様子 ライトアップされた大間埼灯台 灯台絵画コンテスト2021青森特別賞(中学生の部) 未来に残そう「燈台の歌」
昭和26年、生地鼻灯台(富山県黒部市)の初点灯に合わせて、地元小学校教諭により「燈台の歌」が作られました。当時の小学生等地元の方々は「燈台の歌」を歌って灯台の完成を祝い、今なお地域で歌い継がれています。初点灯から70年の記念式典行事の一つとして、この「燈台の歌」を永く後世に残すべく、海上保安官の伴奏に合わせて地元幼稚園児が元気よく歌う「燈台の歌」を収録し、CD化しました。記念式典では他にも灯台の新たな門出を祝うテープカット、60周年記念式典で行ったタイムカプセルの開封等が行われました。 作成されたCD 「燈台の歌」の収録 『燈台の歌』 AIを活用した船舶事故防止のための技術開発
海上交通管制における船舶の衝突リスク予測技術の検証
海上交通センターでは、レーダー及びAIS等により船舶の動静を把握し、航行の安全に必要な情報の提供や、大型船舶の航路入航間隔の調整等を行っています。しかし、これら業務を行う運用管制官が、多数の船舶の動きを認知・予測し、衝突事故の危険性を判断することは容易ではなく、危険回避のための情報提供等を、どの船舶に対し、どのタイミングで行うかといった判断は、運用管制官の経験や技量によるものとなっています。 このような背景をふまえ、当庁が保有するAISの情報や管制業務の記録等をもとに、船舶の位置、速力、針路等を学習したAIを用いて船舶の衝突リスクを予測し、運用管制官の船舶動静の認知・予測、危険性の判断を支援する技術の検証を行いました。 同技術の有用性を検証するため、東京湾海上交通センターにおいて、実際に運用管制官が船舶に対して情報提供等を行った記録及び運用管制官へのヒアリング内容と、本技術によって検出したアラートを突き合わせて分析を行いました。その結果、運用管制官が船舶に対して行った情報提供等のうち、警告や勧告を行った危険度が高い事象について、約95%を正しく高リスクと判定し、本技術による船舶の衝突リスク予測が運用管制官の判断に近く、業務の支援に有用な技術であることが確認できました。 今後、引き続き技術的な検討を行い、更なる安全性の向上を目指していきます。 走錨早期警戒システムの開発
海上交通センター等では、走錨の恐れがある船舶に対して情報提供等を実施することにより、走錨に起因する事故の防止を図っています。走錨の早期認知のため、運用管制官を支援するシステム(走錨早期警戒システム)の開発を進めています。 従来の走錨監視手法では、レーダー画面上の錨泊船に「警報円」を設定し、「警報円」を逸脱した時点で走錨を検知することにより、当該船舶に警告等の情報提供を行っていますが、船舶は「警報円」を逸脱した時点で既に走錨状態にあり、事故回避の対応が困難な場合があります。この課題を解決するため、AIを用いて過去のAIS情報から錨泊船が走錨に至る船体の特徴的な動きを解析した結果を活用し、走錨の予兆を検知する手法を開発しました。 令和3年度から、三大湾(東京湾、伊勢湾、大阪湾)の海上交通センターにおいて、開発した新たな監視手法を実装したプロトタイプ機と既存の運用装置を並行して運用する試験を行い、実運用下における走錨検知機能の正確性、検知タイミング等を検証しています。 3 水路図誌、水路通報、航行警報
水路図誌
海上保安庁では、水深や浅瀬、航路の状況といった航海の安全に不可欠な情報を、海図等の水路図誌として提供しています。 水路通報
航路標識の変更、地形及び水深の変化等、水路図誌を最新に維持するための情報や、船舶交通の安全のために必要な情報を水路通報としてインターネット等で提供しています。令和3年は約2万3,400件を提供しました。 航行警報
航路障害物の存在等、船舶の安全な航海のために緊急に周知が必要な情報を航行警報として衛星通信、無線放送、インターネット等で提供しています。 また、利用者が視覚的に容易に情報を把握することができるよう、警報区域等を地図上に表示したビジュアル情報をインターネットで提供しています。 船舶交通安全情報(水路通報・航行警報)
水路通報・航行警報位置図ビジュアルページ
水路通報・航行警報位置図ビジュアルページ(スマートフォン向け)
航路標識の老朽化、防災対策
耐用年数が超過し、劣化の進んだ灯台も多いことから、老朽化対策を推進します。また、台風などの自然災害時における灯台の倒壊・損壊を防止するため、海水浸入防止対策を推進します。 航路標識に関する技術開発
灯台の光源や灯火監視に関する新技術の導入のほか、ドローンやAIを活用した新たな灯台の保守管理のための取組を推進していきます。 |