海上保安レポート 2022

はじめに


TOPICS 海上保安の一年


特集 守り抜く、日本の海。


海上保安庁の任務・体制


■本編

1 治安の確保

2 生命を救う

3 青い海を守る

4 災害に備える

5 海を知る

6 海上交通の安全を守る

7 海をつなぐ


語句説明・索引


図表索引


資料編

4 災害に備える > CHAPTER I. 事故災害対策
4 災害に備える
CHAPTER I. 事故災害対策

ひとたび船舶の火災、衝突、沈没等の事故が発生すると、人命、財産が脅かされるだけでなく、事故に伴って油や有害液体物質が海に排出されることにより、自然環境や付近住民の生活にも甚大な悪影響を及ぼします。

海上保安庁では、事故災害の未然防止に取り組むとともに、災害が発生した場合には関係機関とも連携して、迅速に対処し、被害が最小限になるよう取り組んでいます。

令和3年の現況
事故災害への対応
船舶火災

令和3年に発生した船舶火災隻数は72隻で、船舶火災隻数を船舶種類別で見ると、漁船の火災隻数が最も多い傾向が続いており、令和3年においても、漁船の火災隻数は48隻と、全体の約7割を占めています。

このような船舶火災に対して海上保安庁では、消防機能を有する巡視船艇からの放水等による消火活動を実施しています。

油排出事故

令和3年に海上保安庁が確認した油による海洋汚染発生件数は332件で、前年と比べ46件増加しました。

海上における油排出事故等では原因者による防除が原則となっているため、海上保安庁では、原因者が適切な防除を行えるよう指導・助言を行っています。

一方、油等の排出が大規模である場合や、原因者の対応が不十分な場合には、関係機関と協力のうえ、海上防災のスペシャリストである機動防除隊等により海上保安庁自らが防除を行っています。

令和3年は、海上保安庁において、126件の油排出事故に対応しました。

火災船への放水状況
火災船への放水状況
機動防除隊による指導状況
機動防除隊による指導状況
船舶からの油流出状況
船舶からの油流出状況
事故災害対処のための体制強化
油排出事故等への備え

海上保安庁では、事故災害に対して、迅速かつ的確な対応を行うための体制の整備を進めており、現場で対応にあたる海上保安官に対して、海上火災や油排出事故への対応等に関する研修・訓練を実施しています。

また、「油等汚染事件への準備及び対応のための国家的な緊急時計画」に基づく関係省庁連絡会議において、油排出事故等に備え図上訓練を実施し、関係省庁間の対応体制を確認するなど、体制の強化を図っています。

令和3年度は、この計画に「災害対策基本法」の改正を反映する改正を行い、さらなる体制の強化に取り組みました。

また、海上に排出された油等の防除等を的確に行うためには、排出された油等がどのように流れるかを予測することが重要です。

海上保安庁では、油排出事故等に備えるため、測量船等で観測した海象(海流、水温等)の情報を基に油等が漂流する方向、速度等を予測する漂流予測に取り組んでいます。

さらに、自律型海洋観測装置(AOV)、イリジウム漂流ブイ及び海洋短波レーダーにより日本周辺の海流の情報等をリアルタイムに収集することで、漂流予測の精度向上に努めています。

このほか、全国の沿岸域の地理・社会・自然・防災情報等を沿岸海域環境保全情報としてとりまとめ、「海洋状況表示システム(海しる)」のテーマ別マップ「油防除(CeisNet)」として、インターネット上で公開しています。

大規模流出油関連情報 https://www1.kaiho.mlit.go.jp/JODC/ceisnet/
QRコード
海洋状況表示システム(海しる) https://www.msil.go.jp/
QRコード
国内連携

事故災害による被害を防止するためには、事業者をはじめとする関係者に事故災害に対する意識を高めていただくことや地方公共団体等の関係機関との連携が重要です。

海上保安庁では、タンカー等の危険物積載船の乗組員や危険物荷役業者等を対象とした訪船指導、運航管理者等に対する事故対応訓練、タンカーバースの点検等を実施しています。

また、地方公共団体、漁業協同組合、港湾関係者等で構成する協議会等を全国各地に設置し、災害発生時に迅速かつ的確な対応ができるよう油防除訓練や講習等を実施しています。

国際連携

油や有害液体物質等による海洋環境汚染は、我が国だけでなく周辺の沿岸国にも影響を及ぼすことから、各国と連携した対応が重要です。

機動防除隊によるオンライン研修

機動防除隊によるオンライン研修

オンライン講義状況

オンライン講義状況

海上保安庁では、各国関係機関との合同訓練や国際海事機関(IMO)の関係委員会への参加等、国際的な取組に貢献しています。

また、海上保安庁では、研修等を通じてこれまで培ってきた海上災害への対応に関するノウハウを各国関係機関に伝えることで、海上防災体制の構築を支援しています。

令和3年10月25日から約1か月間、独立行政法人国際協力機構(JICA)の枠組のもと、11か国(インド、ベトナム、フィリピン、マレーシア、インドネシア、スリランカ、モルディブ、ケニア、モーリシャス、ジャマイカ、サモア)の海上保安機関職員21名に対し、国際海事機関(IMO)のモデルコースに準拠した内容をさらに充実させた油防除対応者向けの研修をオンラインにより実施しました。

*IMOの各加盟国が国際条約やIMOの勧告等の技術的要件を満たすために必要な教育訓練を実施するにあたり、モデルとなるコースプラン、教材、詳細な計画書等の訓練カリキュラムを示したもの。

今後の取組

海上保安庁では、今後とも、巡視船艇・航空機や防災資機材の整備、現場職員の訓練・研修等を通じ、事故災害への対処能力強化を推進するとともに、関係者への適切な指導・助言、国内外の関係機関との連携強化を通じて、事故災害の未然防止や事故災害発生時の迅速かつ的確な対応に努めます。