海上保安レポート 2022

はじめに


TOPICS 海上保安の一年


特集 守り抜く、日本の海。


海上保安庁の任務・体制


■本編

1 治安の確保

2 生命を救う

3 青い海を守る

4 災害に備える

5 海を知る

6 海上交通の安全を守る

7 海をつなぐ


語句説明・索引


図表索引


資料編

1 治安の確保 > CHAPTER VII. 海賊対策
1 治安の確保
CHAPTER VII. 海賊対策

全世界の海賊及び船舶に対する海上武装強盗(以下「海賊等」)事案は、世界各国の政府機関や海事関係者の懸命な取組により近年減少傾向にあるものの、依然として脅威は存続しています。

主要な貿易のほとんどを海上輸送に依存する我が国にとって、航行船舶の安全を確保することは、社会経済や国民生活の安定にとって必要不可欠であり、極めて重要な課題です。

海上保安庁では、東南アジア海域等へ巡視船を派遣し、海賊対策のためのしょう戒や沿岸国海上保安機関に対する法執行能力向上支援等を行うとともに、海賊対処のため、ソマリア沖・アデン湾に派遣されている海上自衛隊の護衛艦へ海上保安官を同乗させるなど、海賊対策を実施しています。

令和3年の現況
東南アジア海域の海賊等について

令和3年の東南アジア海域における海賊等発生件数は56件であり、前年より減少しました。しかしながら海域別に焦点を当てると、特にマラッカ・シンガポール海峡における海賊等発生件数が増加している状況で、現金、乗組員の所持品、船舶予備品等の窃盗が多数を占めていますが、引き続き銃火器を使用した武装強盗事案も発生しております。

これらの海賊対策のため、海上保安庁では、平成12年から東南アジア海域等に巡視船・航空機を派遣し、公海上でのしょう戒のほか、寄港国海上保安機関と海賊対処連携訓練や意見・情報交換を行うなど連携・協力関係の推進に取り組んでいます。新型コロナウイルス感染症の拡大下においても、令和3年11月及び令和4年2月には、無寄港で巡視船をフィリピン周辺海域やシンガポール海峡等に派遣し、沿岸国海上保安機関と連携訓練を実施しました。

令和3年11月 フィリピン沿岸警備隊との連携訓練

令和3年11月 フィリピン沿岸警備隊との連携訓練

令和4年2月 インドネシア海上保安機構との連携訓練

令和4年2月 インドネシア海上保安機構との連携訓練

ソマリア沖・アデン湾の海賊等について

ソマリア沖・アデン湾における海賊等発生件数は、国際海事局(IMB:International Maritime Bureau)の年次報告書によると、令和3年は1件であり、近年は比較的低い水準で推移しています。これは、アデン湾における自衛隊を含む各国部隊による海賊対処活動、船舶の自衛措置、民間武装警備員による乗船警備等、国際社会による海賊対策の成果の現れといえます。

しかしながら、ソマリア国内の不安定な治安や貧困といった海賊を生み出す根本的な要因が未だ解決していない状況にかんがみれば、海賊等の脅威は存続しているといえます。海上保安庁では、海賊対処のために派遣された海上自衛隊の護衛艦に、海上保安官を同乗させ、海賊の逮捕、取調べ、証拠収集等の司法警察活動に備えつつ、自衛官とともに海賊行為の監視、情報収集等を行っており、平成21年に第1次隊を派遣して以降、令和4年3月末までに合計41隊328名を派遣しています。

令和3年8月には、関係機関と連携して海賊護送訓練を実施するなど更なる連携強化に取り組みました。

今後の取組

海上保安庁では、今後とも、海賊対処のために派遣される海上自衛隊の護衛艦に海上保安官を同乗させるほか、ソマリア沖・アデン湾や東南アジア海域等の沿岸国海上保安機関に対する法執行能力向上支援にも引き続き取り組み、関係国、関係機関と連携しながら、海賊対策を的確に実施していきます。

ソマリア沖・アデン湾における海上保安官の活動

三谷 聡史 隊長
現場の声

第39次ソマリア周辺海域派遣捜査隊
三谷 聡史 隊長


集合写真
集合写真
射撃訓練
射撃訓練

派遣捜査隊が乗艦する護衛艦「ゆうぎり」は、令和3年6月12日に神奈川県横須賀市横須賀港を出港し、191日間の派遣を完遂しました。派遣中は、海賊行為に対して迅速かつ的確な司法警察活動が行えるよう、逮捕手続や護送等について海上自衛官とともに連携訓練を重ねながら、海賊事案の発生に備えました。

酷暑での長期派遣に加え、新型コロナウイルス感染症の影響により各寄港地における上陸が制限されるなど、厳しい環境下での任務となり、これまで経験したことのない苦労もありましたが、国際社会にとって極めて重要な海上交通路の安全確保のため日本国を代表して任務に従事できたことを大変光栄に思っています。

派遣捜査隊は今後もソマリア沖・アデン湾を航行する船舶の安全・安心を確保するために海上自衛官と連携し、任務を遂行してまいります。