海上保安レポート 2020

はじめに


TOPICS 海上保安庁、この1年


特集 海上保安庁新時代


海上保安庁の任務・体制


■本編

1 治安の確保

2 生命を救う

3 青い海を守る

4 災害に備える

5 海を知る

6 海上交通の安全を守る

7 海をつなぐ


語句説明・索引


図表索引


資料編

4 災害に備える > CHAPTER II. 自然災害対策
4 災害に備える
CHAPTER II. 自然災害対策

近い将来に発生が懸念されている南海トラフ巨大地震や首都直下地震に加え、激甚化する風水害等、自然災害への対策は重要性を増しています。

海上保安庁では、こうした自然災害が発生した場合には、人命・財産を保護するため、海陸を問わず、機動力を活かした災害応急活動を実施するとともに、自然災害に備えた灯台等の航路標識の災害対策や防災情報の整備・提供、医療関係者や関係機関との連携強化等に努めています。

令和元年の現況
自然災害への対応

令和元年も台風や大雨による自然災害が多く発生し、甚大な被害がもたらされました。海上保安庁では、巡視船艇、航空機による被害状況調査、特殊救難隊機動救難士等による人命救助、機動防除隊による流出油の回収、船舶交通のための情報提供や注意喚起等を実施しました。

また、被災地域のニーズを踏まえた給水・給電及び入浴支援並びに医療関係者や支援物資の搬送等を実施しました。

令和元年8月の前線に伴う大雨への対応

8月28日未明からの佐賀県を中心とした大雨では、本庁及び第七・十管区海上保安本部に対策本部等を設置するとともに、巡視船艇延べ119隻、航空機延べ31機で対応にあたりました。佐賀県武雄市では、機動救難士により孤立した5名の吊上げ救助を実施しました。また、鉄工所から大量の油が流出した佐賀県大町町では、機動防除隊を派遣し、これまでの海上流出油対応で培ったノウハウを活かし、地方自治体等による油の回収作業に対して助言を実施するなど、関係機関及び地方自治体と緊密に連携し対応にあたりました。

令和元年8月の前線に伴う大雨への対応
令和元年房総半島台風への対応

9月9日に非常に強い勢力を保ったまま関東地方に接近した房総半島台風では、不測の事態に備え、巡視船艇・航空機の即応体制を強化するとともに、羽田空港や東京湾アクアライン等の周辺海域において、錨泊を制限する措置等を講じました。

さらに生活支援として、自治体からの要請に基づき、富津公共岸壁にて巡視船による給水支援(21名276リットル)、入浴支援(205名)及び携帯電話への充電支援(51名)を行いました。

令和元年東日本台風への対応

10月12日に大型で強い勢力のまま上陸し、複数の河川が氾濫するなど広範囲で大きな被害をもたらした東日本台風では、本庁及び第二、三、九管区海上保安本部に対策本部等を設置し、宮城県、福島県、長野県など1都8県5市町に海上保安官延べ86名を派遣するなどして情報収集等にあたるとともに、巡視船艇延べ751隻、航空機延べ197機のほか特殊救難隊機動救難士及び機動防除隊を各地に派遣し、救助活動等にあたりました。

佐渡島真野湾沖では機関故障を起こした外国籍貨物船から乗組員10名、河川氾濫により大きな被害が発生した宮城県丸森町では孤立者14名、長野市千曲川周辺では孤立者16名の吊上げ救助を実施しました。

また、神奈川県川崎沖では、外国船籍貨物船が沈没したことから、巡視船艇及び特殊救難隊等により乗組員を救助するとともに、行方不明者の捜索、機動防除隊等による流出油の回収作業等を実施しました。

加えて、複数の灯台等が台風の影響により消灯するなどしたことから、復旧作業に当たるとともに、各航路標識の状況や多数の漂流物情報を、航行警報及び海の安全情報等により付近海域を航行する船舶や利用関係者に対し提供し、注意喚起を行いました。

そのほか、福島県相馬市等の断水地域においては、各自治体の要請に基づき給水支援(29,546リットル)や入浴支援(443名)を実施しました。

令和元年東日本台風への対応
東日本大震災からの復旧・復興に向けた取組

海上保安庁では、引き続き第二管区海上保安本部を中心に、東日本大震災からの復旧・復興に向けた取組を実施しています。

令和元年においても、地元自治体の要望に応じ、潜水士による潜水捜索や警察、消防と合同捜索を実施しています。

自然災害に備える体制の強化
海上交通の防災対策

海上保安庁では、台風や地震などの自然災害発生時においても、海上交通の安全の確保を図るため、航行船舶の動静を常に把握し、走錨等の危険回避のための注意喚起・指導や、防災情報の提供等を行っています。

また、自然災害発生後も、船舶交通の安全確保のため、航路標識の被災状況の迅速な調査及び復旧を行っています。

令和元年度においては、自然災害に伴う航路標識の倒壊や消灯を未然に防止し、災害時でも海上輸送ルートの安全確保を図るため、航路標識の耐震補強及び耐波浪補強による防災対策に係る整備を推進しました。

また、平成30年の台風第21号及び北海道胆振東部地震等による航路標識の倒壊等を踏まえ、全国の航路標識等の重要インフラの緊急点検を行い、必要な措置を講じていくこととしました。

さらに、平成30年9月の台風21号の影響で走錨した船舶が、関西国際空港連絡橋に衝突した事故をふまえ、船舶交通の安全確保の観点から、全国41か所の重要施設において、事故の再発防止対策を講じています。

防災情報の整備・提供

海上保安庁では、災害発生時の船舶の安全や避難計画の策定等の防災対策に活用していただくため、防災に関する情報の整備・提供も行っています。西之島をはじめとする南方諸島や南西諸島等の火山島や海底火山について、海底地形、地下構造等の調査、火山の活動状況の監視を実施し、付近を航行する船舶の安全に支障を及ぼすような状況がある場合には、航行警報等により航行船舶への注意喚起等を行っています。

そのほかにも、船舶の津波避難計画の策定等に役立つように、大規模地震による津波被害が想定される港湾及び沿岸海域を対象に、予測される津波の到達時間や波高、流向・流速等を記載した「津波防災情報図」を整備・提供しているほか、津波浸水想定の設定に活用してもらうため、海底地形のデータを自治体に提供しています。なお、津波防災については、「海しる」のテーマ別マップ「津波防災」にて津波シミュレーションや津波防災情報図等をインターネットにて公開しています。

また、「海の安全情報」において、気象・海象の現況のほか、自然災害時における避難勧告、航行の制限等の緊急情報を提供しています。

海底地殻変動の観測

日本列島周辺では、複数のプレートが複雑に接しており、海溝付近で海側のプレートが、陸側のプレートの下に沈み込むことで蓄積されたプレートのひずみが限界を超えることにより、巨大地震が発生すると考えられています。

海上保安庁では、GNSS測位と海中での音響測距技術を組み合わせた海底地殻変動観測を平成12年度から行っています。この観測では、将来の海溝型地震の発生が予想される南海トラフや東日本大震災後の挙動が注目される日本海溝において、陸側のプレート上に海底局を設置して、陸側のプレートの動きを調べています。

この調査は、地震に伴う地殻変動の観測による地震メカニズムの解明や、プレート間の固着具合やひずみの蓄積具合の推定による海溝型地震の予測に貢献しています。

令和元年度においては、南海トラフにおいて観測網を充実させるとともにプレートの固着状態を継続的に観測し、また日本海溝においては東北地方太平洋沖地震後の地殻変動の観測を行い、データの蓄積と提供を行いました。

*GPS等の人工衛星から発射される信号を用いて地球上の位置等を測定する衛星測位システムの総称

関係機関との連携・訓練

災害応急対応にあたっては地域や関係機関との連携が重要であることから、海上保安庁では、関係機関との合同訓練に参画するなど、地域や関係機関との連携強化を図っています。

令和元年度は、迅速な対応勢力の投入や非常時における円滑な通信体制の確保等を念頭に置いた防災訓練等、関係機関と連携した合同防災訓練を373回実施しました。

また、主要な港では、関係機関による「船舶津波対策協議会」を設置し、海上保安庁が収集・整理した津波防災に関するデータを活用しながら、港内の船舶津波対策を検討しています。

今後の取組

海上保安庁では、被災地の復旧・復興に向けた政府の取組に引き続き的確に対応していくとともに、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会を控え、期間中における自然災害に備えるため、巡視船艇・航空機等の必要な体制の整備や訓練の実施、関係機関との連携強化、防災に関する情報の的確な提供、航路標識の防災対策等を引き続き推進していきます。

また、平成30年度に実施した重要インフラの緊急点検の結果を踏まえ、海域監視体制の強化及び灯台の海水浸入防止対策等の防災・減災、国土強靱化のための対策を推進していきます。

さらに、「荒天時における走錨等に起因する事故の再発防止に係る有識者検討会」から令和元年の台風シーズンにおける走錨事故対策は概ね有効かつ妥当との評価を受けるとともに、更なる安全対策としてソフト・ハード両面の対策の一体的な推進が重要との提言を受けたことから、関係機関・団体と連携し、官民一体となった対策を引き続き推進していきます。