海上保安レポート 2020

はじめに


TOPICS 海上保安庁、この1年


特集 海上保安庁新時代


海上保安庁の任務・体制


■本編

1 治安の確保

2 生命を救う

3 青い海を守る

4 災害に備える

5 海を知る

6 海上交通の安全を守る

7 海をつなぐ


語句説明・索引


図表索引


資料編

4 災害に備える > CHAPTER I. 事故災害対策
4 災害に備える
CHAPTER I. 事故災害対策

ひとたび船舶の火災、衝突や沈没等の事故が発生すると、人命、財産が脅かされるだけでなく、事故に伴って油や有害液体物質が海に排出されることにより、自然環境や付近住民の生活にも甚大な悪影響を及ぼします。

海上保安庁では、事故災害の予防に取り組むとともに、災害が発生した場合には関係機関とも連携して、迅速に対処し、被害が最小限になるよう取り組んでいます。

令和元年の現況
事故災害への対応
船舶火災

令和元年に発生した船舶火災隻数は59隻で、船舶火災隻数を船舶種類別で見ると、漁船の火災隻数が最も多い傾向が続いており、令和元年においても、漁船の火災隻数は33隻と、全体の約6割を占めています。

このような船舶火災に対して海上保安庁では、消防機能を有する巡視船艇からの放水等による消火活動を実施しています。

油排出事故

平成31年/令和元年に海上保安庁が確認した油による海洋汚染発生件数は275件で、前年と比べ8件減少しました。

海上における油排出事故等では原因者による防除が原則となっているため、海上保安庁では、原因者が適切な防除を行えるよう指導・助言を行っています。

一方、油等の排出が大規模である場合や、原因者の対応が不十分な場合には、関係機関と協力のうえ、海上防災のスペシャリストである機動防除隊等により海上保安庁自らが防除を行っています。

平成31年/令和元年は、海上保安庁において、143件の油排出事故に対応しました

火災船への放水状況
火災船への放水状況
機動防除隊による油防除措置の状況
機動防除隊による油防除措置の状況
乗揚げ船舶からの油流出状況
乗揚げ船舶からの油流出状況
事故災害対処のための体制強化
油排出事故等への備え

海上保安庁では、事故災害に対して、迅速かつ的確な対応を行うための体制の整備を進めており、現場で対応にあたる海上保安官に対して、海上火災や油排出事故への対応等に関する研修・訓練を実施しています。

また、「油等汚染事件への準備及び対応のための国家的な緊急時計画」に基づく関係省庁連絡会議において、油排出事故等に備え図上訓練を実施し、関係省庁間の対応体制を確認するなど、体制の強化を図っています。

海上に排出された油の防除等を的確に行うためには、排出された油等がどのように流れるかを予測することが重要です。

海上保安庁では、油排出事故等に備えるため、測量船等で観測した海象(海流、水温等)の情報を基に油等が漂流する方向、速度等を予測する漂流予測に取り組んでいます。

さらに、自律型海洋観測装置(AOV)、イリジウム漂流ブイ及び海洋短波レーダーにより日本周辺の海流の情報等をリアルタイムに収集することで、漂流予測の精度向上に努めています。

このほか、全国の沿岸域の地理・社会・自然・防災情報等を沿岸海域環境保全情報としてとりまとめ、「海洋状況表示システム(海しる)」のテーマ別マップ「油防除(CeisNet)」として、インターネット上で公開しています。

大規模流出油関連情報 https://www1.kaiho.mlit.go.jp/JODC/ceisnet/
海洋状況表示システム(海しる) https://www.msil.go.jp/
国内連携

事故災害による被害を防止するためには、事業者をはじめとする関係者に事故災害に対する意識を高めていただくことや地方公共団体等の関係機関との連携が重要です。

海上保安庁では、タンカー等の危険物積載船の乗組員や危険物荷役業者等を対象とした訪船指導、運航管理者等に対する事故対応訓練、タンカーバースの点検等を実施しています。

また、地方公共団体、漁業協同組合、港湾関係者等で構成する協議会等を全国各地に設置し、災害発生時に迅速かつ的確な対応ができるよう油防除訓練や講習等を実施しています。

国際連携

油や有害液体物質等による海洋環境汚染は、我が国だけでなく周辺の沿岸国にも影響を及ぼすことから、各国と連携した対応が重要です。

海上保安庁では、各国関係機関との合同訓練や国際海事機関(IMO)の関係委員会への参加等、国際的な取組に貢献しています。

また、海上保安庁では、研修等を通じてこれまで培ってきた海上災害への対応に関するノウハウを各国関係機関に伝えることで、海上防災体制の構築を支援しています。

令和元年においても、9月下旬から約2か月間、国際協力機構(JICA)の枠組のもと、10か国(ジブチ、東ティモール、モルディブ、パプアニューギニア、フィリピン、ソロモン諸島、スリランカ、ベトナム、マレーシア、インドネシア)の海上保安機関職員14名に対し、国際海事機関(IMO)のモデルコースに準拠した内容をさらに充実させた油防除対応者向けの研修を実施しました。

*IMOの各加盟国が国際条約やIMOの勧告等の技術的要件を満たすために必要な教育訓練を実施するに当たり、モデルとなるコースプラン、教材、詳細な計画書等の訓練カリキュラムを示したもの。

オイルフェンス取扱実習

オイルフェンス取扱実習

機動防除隊による機材説明

機動防除隊による機材説明

今後の取組

海上保安庁では、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会が開催されることを踏まえ、今後とも、巡視船艇・航空機や防災資機材の整備、現場職員の訓練・研修等を通じ、事故災害への対処能力強化を推進するとともに、関係者への適切な指導・助言、国内外の関係機関との連携強化を通じて、事故災害の未然防止や事故災害発生時の迅速かつ的確な対応に努めます。

神奈川県川崎市沖貨物船 「JIA DE」号 沈没事案

令和元年10月12日、東日本台風が接近する神奈川県川崎市沖においてパナマ船籍貨物船「JIA DE」号(総トン数1,925トン、積荷:スクラップ3,045トン、乗員12名)(以下、「J号」という。)が沈没する事故が発生しました。J号からは油が流出し、沈没した付近の海域だけではなく、神奈川県及び千葉県の一部沿岸にも流れ着きました。この油の流出に対して、地方自治体・漁協等関係機関と連携し、浮流油の調査や巡視船艇、九州地方整備局回収船、千葉港湾事務所回収船、原因者手配の作業船による油防除作業等が行われました。その結果、同年12月9日までに原因者手配の業者により、海上に流出した油と沈没した船体に残されていた油はほぼ回収されました。

第三管区海上保安本部は、発災直後から巡視船艇・航空機により行方不明者の捜索救助を行うとともに、機動防除隊等を直ちに現場に派遣し油防除作業を実施し、地方自治体・漁業協同組合等関係者連絡会議開催、原因者に対する油防除の指導等を的確に行いました。

なお、船体は原因者手配の業者により、令和2年2月14日に引き揚げられました。

油流出の状況

油流出の状況

巡視艇による放水拡散の状況

巡視艇による放水拡散の状況