主要な物資やエネルギーの輸出入のほとんどを海上輸送に依存する我が国にとって、海上輸送の安全確保は、安定した経済活動を支える上でも極めて重要です。
しかしながら、世界的にも重要な海上交通路であるマラッカ・シンガポール海峡やソマリア沖・アデン湾では海賊事案が発生するなど、航行の安全を脅かす事案が発生しています。
海上保安庁では、東南アジアをはじめとした周辺国に対し、海上保安庁が有する知識技能を伝え、各国の海上保安能力の向上を目指した支援を通じ、海上輸送の安全確保に貢献しています。
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7 海をつなぐ
CHAPTER II. 諸外国への海上保安能力向上支援等の推進
主要な物資やエネルギーの輸出入のほとんどを海上輸送に依存する我が国にとって、海上輸送の安全確保は、安定した経済活動を支える上でも極めて重要です。 しかしながら、世界的にも重要な海上交通路であるマラッカ・シンガポール海峡やソマリア沖・アデン湾では海賊事案が発生するなど、航行の安全を脅かす事案が発生しています。 海上保安庁では、東南アジアをはじめとした周辺国に対し、海上保安庁が有する知識技能を伝え、各国の海上保安能力の向上を目指した支援を通じ、海上輸送の安全確保に貢献しています。 1 インド太平洋沿岸国への支援
海上保安庁では、インド太平洋沿岸国の海上保安機関に対する海上保安能力向上支援のため、国際協力機構(JICA)や日本財団の枠組により、制圧、鑑識、捜索救難、潜水技術、油防除、海上交通安全、海図作製分野等に関する専門的な知識や高度な技術を有する海上保安官や能力向上支援の専従部門である海上保安庁モバイルコーポレーションチーム(MCT)を各国に派遣しているほか、各国の海上保安機関の職員を日本に招へいし、研修を実施しています。 海上保安庁の主な能力向上支援の実績(平成28年〜) フィリピンに対する支援
海上保安庁は、フィリピン沿岸警備隊(PCG)に対して、平成12年から、海上保安行政全般に関するアドバイザーとして、長期専門家を派遣しているほか、平成14年から平成24年までの10年間、長期専門家を追加派遣し、海難救助、海洋環境保全・油防除、航行安全、海上法執行、教育訓練の分野における人材育成支援のためのJICA技術協力プロジェクトを実施しました。平成25年からは、海上法執行実務の能力強化支援のためのJICA技術プロジェクトを開始し、長期専門家に加えてMCT等を派遣するなどして、法執行訓練、船艇の維持管理・運用の研修等を通じた支援を実施しています。令和3年6月には海上保安大学校教授による国際法に関する講義を、同年8月には船舶運用整備計画に関するワークショップをオンライン形式にて実施しました。また、令和4年1月には、我が国ODAの枠組みでPCGに供与予定の97m型巡視船乗組員が門司保安部所属巡視船を訪れ、大型巡視船の運用方法に関する意見交換等を実施しました。 インドネシアに対する支援
令和2年1月からインドネシア海上保安機構(BAKAMLA)を中心とする同国海上保安関係機関の新たな能力向上支援のためのJICA技術協力を開始しており、海上保安庁ではMCT等を定期的に派遣するなどして支援を実施しています。令和3年7月には、オンライン形式にてMCTによる海上法執行に関する研修及び海上保安大学校教授による国際法に関する講義を実施しました。また、令和4年1月には、オンラインによる国際法に関する講義に加えて、両機関の相互理解を深め、より効果的な能力向上支援を実施していくため、人材育成に関するワークショップを実施しました。 マレーシアに対する支援
海上保安庁は、マレーシア海上法令執行庁(MMEA)に対して、その設立準備段階であった平成17年から長期専門家を派遣し、組織体制作りや人材育成のためのJICA技術協力プロジェクトを実施しています。平成23年7月からは、海上法執行、海難救助、教育・訓練の分野での能力・体制の強化ために長期専門家を派遣し、組織犯罪等の情報収集・分析・捜査や特殊救難技術に関するセミナーや講義等を通じた支援を実施しました。令和3年3月からはJICA技術協力を開始し、MMEAに対する支援を継続しています。 令和3年10月には、オンライン形式にて鑑識研修を実施したほか、令和4年2月から3月にかけて、特殊救難隊員と海上保安大学校潜水教官を現地に派遣して、MMEA潜水士と潜水指導者に対して潜水能力や指導能力の強化に関する研修を実施しました。 ベトナムに対する支援
海上保安庁は、平成27年9月に締結したベトナム海上警察(VCG)との協力覚書に基づき、MCT等を派遣し、能力向上支援を実施しています。 さらに、令和2年9月からVCGの能力強化のためのJICA技術協力が開始され、海上保安庁では、MCT等を定期的に派遣して支援を実施することとしています。 令和3年6月にはオンライン形式にてMCTによる海上法執行、海難救助に関する研修を、同年12月にはオンライン形式にてMCT等による制圧実技、海上犯罪取締り等に関する研修を実施したほか、この機会を捉え、海上保安大学校教授による国際法に関する講義を実施しました。 ジブチに対する支援
海上保安庁は、JICAによる「ジブチ沿岸警備隊能力拡充プロジェクト」の一環として、平成25年から定期的に短期専門家を派遣するなどして、海上法執行の分野における能力向上を支援しています。 令和4年1月には、現地にMCTを派遣し、海上法執行等に関する研修を実施しました。 ジブチ沿岸警備隊職員に対する制圧訓練 スリランカに対する支援
海上保安庁では、平成26年度から、機動防除隊等をスリランカ沿岸警備庁(SLCG)に派遣して、油防除に関する技術協力を行っています。令和3年10月には、オンライン形式にて、機動防除隊等とSLCGが油防除対応事例の共有や今後の支援に関する意見交換を実施し、令和4年2月には現地にMCTを派遣しました。 油防除資機材を使用した流出油(模擬)回収の状況 パラオに対する支援
海上保安庁は、平成30年からパラオ海上警備・魚類野生生物保護部(DMLE)※に対して、海上保安アドバイザーを派遣するとともに、平成31年からは、MCTを定期的に派遣するなどして、日本財団から同国に供与されたパトロール艇を活用した研修等を実施し、海難救助や海上法執行の分野における能力向上を支援しています。 令和3年7月には、DMLE巡視船の修理に合わせ、日本国内(鹿児島)にてMCT等による新型コロナウイルス感染症患者搬送研修を実施しました。 ※令和3年9月30日から「海上法令執行部(DMLE)」から「海上警備・魚類野生生物保護部(DMSFWP)」に名称変更 DMLE巡視船乗組員に対する感染防護衣の着装訓練 1 アジア・大洋州沿岸国への支援
開発途上国の海上交通安全を図るため、主にアジア・大洋州を対象に、平成15年からシンガポールにおいてJICA第三国研修を実施しています。この研修は日本とシンガポールとの政府間協定に基づき、海上交通に関する世界的な基準や日本とシンガポールでの取組などを対象国の政府機関等の職員に共有するものです。海上保安庁は、毎年同研修に講師を派遣しており(※)、令和3年度までに、延べ30か国の376名に対し研修を実施しました。(※令和3年度はオンライン研修) 2 ASEAN諸国への支援
ASEAN周辺海域は、マラッカ・シンガポール海峡など多数の貨物船が行き交う国際的な海上交通路を有しており、日本に向かう原油タンカーの9割近くが通過するなど日本の生命線となっています。 近年、ASEAN諸国の経済成長に伴う港湾の発展、船舶の大型化・高速化・通航隻数の増加、急激な気候変動による自然災害の増加など、ASEAN周辺海域をとりまく環境が大きく変化しており、海上保安庁は同海域における船舶の安全を守るため、関係機関と連携しさまざまな支援を実施しています。 ●VTS(Vessel Traffic Service)センターの人材育成 ASEAN諸国ではレーダーや無線などを活用して船舶の管制や情報提供を実施するVTSセンターの整備が進んでいますが、一方で同センターを運用する人材不足が課題となっています。このため日本は、日ASEAN交通連携の枠組のもと、ASEAN共同の研修施設として平成29年7月にマレーシアにASEAN地域訓練センターを設立し、ASEAN 10ヵ国のVTS管制官等を育成する研修を実施しています。 ASEAN地域訓練センターにおける訓練状況 海上保安庁は、関係機関と連携してASEAN地域訓練センターの設立に主導的な役割を果たすとともに、機材の維持管理、研修内容の調整など運営全般において支援を継続しています。 ●マラッカ・シンガポール海峡共同測量への技術的協力 マラッカ・シンガポール海峡における通航量の増大及び通航船舶の大型化に対応するため、最新技術による同海峡の精密水路測量と電子海図の高度化について、沿岸3か国(マレーシア、インドネシア、シンガポール)からの協力要請を受け、海上保安庁は、関係機関と協力しつつ、水路測量に係る技術的な協力を行っています。本プロジェクトでは、マラッカ・シンガポール海峡の分離通航帯全域を対象とした水路測量の実施及び電子海図の更新を目指しています。 3 ソマリア沖・アデン湾沿岸国に対する支援
海上保安庁では、ソマリア沖・アデン湾の沿岸国に対しても、東南アジア諸国への支援の経験をふまえたさまざまな支援を行っています。 令和3年1月から2月にかけて、国際協力機構(JICA)の協力のもと、「海上犯罪取締り」研修を開催し、アジア・アフリカ等の海上保安機関の現場指揮官クラスを招へいし、海賊対策をはじめとする海上犯罪取締り能力を強化することを目的とした国際犯罪の取締り等に関する講義等の研修をオンライン形式で行いました。この研修は、「海賊対策国際会議」(平成12年4月・東京)の中で合意された「アジア海賊対策チャレンジ2000」に基づき行われているもので、平成13年度の開始から今年で21回目となり、これまでに計35か国1地域、362名を受け入れています。平成20年度以降は、ソマリア周辺海域における海賊対策強化の必要性が高まったことを受け、アジア諸国のほか、中東、東アフリカ諸国の海上保安機関職員を招へいしています。 4 各国水路機関への支援
海上保安庁では、昭和46年から、独立行政法人国際協力機構(JICA)と協力し、アジアやアフリカなどの開発途上国において水路測量業務に従事する水路技術者を対象とした課題別研修を毎年実施し、途上国の海図作製能力を向上させることで、世界における航海の安全に貢献しています。これまでに、40か国から約440名の水路技術者が本研修に参加し、各国の水路業務分野で活躍する人材を輩出してきました。 令和3年は、新型コロナウイルス感染症の世界的流行により本研修は中止となりましたが、その代替活動として短期間のオンライン水路測量技術研修を開催し、参加国の現況報告を行ったほか、水路測量技術の最新動向に関する情報共有が行われました。 本研修は、JICAが実施する本邦研修のうち、国際資格が取得できる唯一の研修です。本研修を修了した研修員には、水路測量国際B級資格※が付与され、修了者の多くが各国水路当局の幹部として活躍しています。 ※各国の教育機関が実施する水路測量技術者養成コースに対し、水路測量等の国際基準を定める国際委員会(IBSC)により認定される資格で、国際A級、B級の2つに分かれる。 JICAオンライン水路測量技術研修の様子 5 海上保安政策プログラム
アジア諸国の海上保安機関の相互理解の醸成と交流の促進により、海洋の安全確保に向けた各国の連携協力、認識共有を図るため、平成27年10月、海上保安政策に関する修士レベルの教育を行う「海上保安政策プログラム」(Maritime Safety and Security Policy Program)を開講し、アジア諸国の海上保安機関職員を受け入れて能力向上支援を行っています。本プログラムでは、その教育を通じ、①高度の実務的・応用的知識、②国際法・国際関係についての知識・事例研究、③分析・提案能力、④国際コミュニケーション能力を有する人材を育成することを目指しています。 本プログラム卒業生には、海上保安分野の国際ネットワーク確立のための主導的役割を発揮することが期待され、現在、第7期生(バングラデシュ、スリランカ、日本)が、高い知識の習得と共有認識の形成に向け日々研鑽を続けています。なお、本プログラムは、海上保安大学校、政策研究大学院大学、独立行政法人国際協力機構(JICA)及び日本財団が連携・協働して実施しています。 海上保安庁は、各国の海上保安機関設立時の支援や、長官級による会合を主導するとともに、これまで東南アジアの海上保安機関を中心に、81か国3地域から延べ約1900名の研修員を本邦へ招へいするなどし、また30か国へ延べ約900名の職員を派遣して、地域の海上保安能力向上に貢献しています。今後も、海上保安政策プログラムをはじめ、各種枠組を通じた協力・連携を推進し、能力向上に関する更なる支援を実施していきます。 |