海上保安レポート 2023

はじめに


TOPICS 海上保安の一年


特集 海上保安能力のさらなる強化


海上保安庁で働く「人」


海上保安庁の任務・体制


■本編

1 治安の確保

2 生命を救う

3 青い海を守る

4 災害に備える

5 海を知る

6 海上交通の安全を守る

7 海をつなぐ


語句説明・索引


図表索引


資料編

6 海上交通の安全を守る > CHAPTER IV. 航行の安全のための航路標識と航行安全情報の提供
6 海上交通の安全を守る
CHAPTER IV. 航行の安全のための航路標識と航行安全情報の提供

海上保安庁では、船舶交通の安全と運航能率の向上を図るため、灯台をはじめとする各種航路標識を整備し管理しているほか、さまざまな手段を用いて、航海の安全に必要な情報を迅速かつ確実に提供し、船舶事故の未然防止に努めています。

令和4年の現況
1 航路標識の運用

船舶が安全かつ効率的に運航するためには、常に自船の位置を確認し、航行上の危険となる障害物を把握し、安全な進路を導く必要があります。海上保安庁では、このための指標となる灯台等の航路標識を全国で5,134基運用しています。

航路標識は、灯台や灯浮標(ブイ)等さまざまな種類があり、光、形状、彩色等の手段により、我が国の沿岸水域を航行する船舶の指標となる重要な施設であり、国際的な基準に準拠して運用しています。

2 航路標識の活用

地方公共団体等による灯台の観光資源としての活用等を積極的に促すことにより、海上安全思想の普及を図り、これを通じて地域活性化にも一定の貢献を果たしていくこととしています。

加えて、地域のシンボルとなっている灯台を活用した地域連携や、全国に64基現存している明治期に建設された灯台の保全を行っています。

令和4年には、参観灯台(いわゆる「のぼれる灯台」)が所在する4つの自治体(志摩市、銚子市、御前崎市、出雲市)が発起人となり、歴史的な灯台を観光振興に活かす方策を議論する「灯台ワールドサミット」が、令和4年11月5日に静岡県御前崎市において3年ぶりに開催され、同サミットに合わせ御前埼灯台の特別公開など行いました。その他にも、航路標識協力団体と連携した活動やメディアを利用した活動など海上保安庁では、国民の皆様に灯台に親しんでいただくための取組を行っています。

御前埼灯台特別公開

御前埼灯台特別公開

航路標識協力団体との灯台清掃

航路標識協力団体との灯台清掃

灯台が結婚式場に!?

明治4年に初点灯した九州初の西洋式灯台である伊王島灯台(長崎県長崎市)を舞台に、令和4年11月5日人前結婚式が行われました。本件は灯台女子を自称する新婦が切望したことにより実現したもので、航路標識協力団体を希望する地元団体(令和5年航路標識協力団体として指定)の協力を得て、当日は、灯台内部の公開、記念品のプレゼント、リクエストによる制服での職員列席・写真撮影などを行いました。

挙式では、灯台扉付近まで敷かれた純白のバージンロードの両側で多くの列席者が待ち受ける中、新郎と新婦がそれぞれ登場し列席者の祝福を受けながら、灯台扉付近まで進み一礼のうえ、設置当時の伊王島灯台の基礎部が今も残る岬側へと向かい、長崎港を一望し、2人の未来を誓い合いました。

灯台が結婚式場に!?
バーチャルAIS航路標識の緊急表示制度の初運用

令和3年7月、海上保安庁は、台風等の異常気象時における船舶の事故防止対策の一環として、バーチャルAIS航路標識を一時的に表示する制度を創設しました。

本制度は、平成30年9月、関西国際空港の連絡橋にタンカーが衝突した事故をきっかけとして、台風、津波その他の異常気象によって視界の悪化が見込まれる場合に、海上空港やシーバース(注1)、石油備蓄基地などの海上施設の付近に当該施設の管理者又は当庁が管理者に代わってバーチャルAIS航路標識を一時的に表示することで、施設への船舶衝突事故の未然防止を図るものです。

令和4年9月、大型で猛烈な強さの台風第14号が近畿地方に接近することが予測されたため、阪神港堺泉北区に所在するシーバースの管理者からバーチャルAIS航路標識を当庁が管理者に代わって表示することの申出があり、船舶の避難勧告等の発令に合わせて、制度創設後初となるバーチャルAIS航路標識の緊急表示を実施しました。

緊急表示は、船舶の航海用レーダー画面上に施設の付近にあたかも航路標識が実在するかのようなシンボルマーク(バーチャルAIS航路標識)を表示させて施設の存在をみえる化し、「衝突の危険があるので施設から離れて航行してください」「錨泊する際は、施設の周辺を避けてください」との意図を伝えます。

バーチャルAIS航路標識を緊急表示したことなどによって、船舶が施設に接近して航行したり、施設の近くに錨泊することが回避され、台風の強風にあおられて針路を保てなくなったり走錨(注2)したりして施設に衝突する事故を防ぐことができました。

今後も異常気象による船舶の事故を防止するため、本制度を適切に運用し、海上交通の安全性向上を実現します。

(注1)大型タンカーが横付けして石油や天然ガスを荷揚げする施設

(注2)錨泊した状態で風浪によって錨(いかり)を引きずりながら押し流されること

2022年台風第14号接近時のバーチャルAIS航路標識表示イメージ(実際のレーダー画面を基に作図)

2022年台風第14号接近時のバーチャルAIS航路標識
表示イメージ(実際のレーダー画面を基に作図)

第5次交通ビジョンの策定

海上保安庁交通部では、平成30年に策定された第4次交通ビジョンに基づき、海上交通の安全の更なる向上のための取組を精力的に推進してきました。

一方で、近年の海上の安全を取り巻く環境は、台風、地震等の自然災害の激甚化、頻発化や、新型コロナウイルス感染症の流行を背景としたマリンレジャーの活発化、地球温暖化対策として次世代エネルギーの活用や再生可能エネルギーの利用促進、自動運航船の実用化に向けた取組の着実な進展、海上の安全に資する技術の進展など、目覚ましく変化しています。

このように様々な環境が変化する中、新たな時代の要請に的確に応えていくため、令和4年5月に国土交通大臣が交通政策審議会長へ「新たな時代における船舶交通をはじめとする海上の安全のための取組」について諮問し、令和5年3月に交通政策審議会長より答申がなされました。

海上保安庁交通部では、答申に基づき策定された第5次交通ビジョンの施策を着実に推進し、環境の変化や新たな時代の要請に的確に対応しながら、国民生活にとって欠かせない海上の安全の確保に取り組んでいくこととしております。

船舶交通安全部会審議状況

船舶交通安全部会審議状況

【第5次交通ビジョンにおける主な取組】
自然災害の激甚化、頻発化への対応
  • ● 大阪湾海上交通センターの監視、情報提供体制の強化の継続
  • ● 灯台等の耐災害性の強化の推進など
次世代エネルギー船舶燃料の進展
  • ● 次世代燃料船への燃料供給に対する安全対策
洋上風力発電の増加
  • ● 洋上風力発電設備の設置海域における安全対策
自動運航船の実用化の進展
  • ● 自動運航船の実用化に向けた安全対策
マリンレジャーの活発化、多様化
  • ● プレジャーボートの機関故障対策など
新たな技術の進展
  • ● VDESによる新たな情報提供の検討
  • ● WEBによる通報手段の導入など
3 水路図誌、水路通報、航行警報
水路図誌

海上保安庁では、水深や浅瀬、航路の状況といった航海の安全に不可欠な情報を、海図等の水路図誌として提供しています。

水路通報

航路標識の変更、地形及び水深の変化等、水路図誌を最新に維持するための情報や、船舶交通の安全のために必要な情報を水路通報としてインターネット等で提供しています。令和4年は約19,400件を提供しました。

航行警報

航路障害物の存在等、船舶の安全な航海のために緊急に周知が必要な情報を航行警報として衛星通信、無線放送、インターネット等で提供しています。

また、利用者が視覚的に容易に情報を把握することができるよう、警報区域等を地図上に表示したビジュアル情報をインターネットで提供しています。

船舶交通安全情報(水路通報・航行警報)
QRコード
水路通報・航行警報位置図ビジュアルページ
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水路通報・航行警報位置図ビジュアルページ(スマートフォン向け)
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今後の取組
航路標識の老朽化、防災対策

海上交通の安全を守る重要なインフラである灯台等の老朽化が進行していることからライフサイクルコストを意識した点検診断及び修繕を的確に行い、灯台等の長寿命化を図ります。

また、激甚化、頻発化する自然災害に対し、灯台等の倒壊事故を未然防止するため、基礎部等に海水等が侵入し倒壊の蓋然性が高い灯台等に対し、海水浸入防止整備を推進します。

航路標識に関する技術開発

自然災害の激甚化、頻発化に対する耐災害性強化や保守の省力化のため、高輝度LEDの光力不足等の技術的課題を解消しつつ、大型灯台のほか照射灯や指向灯にも高輝度LEDの導入を推進します。

灯浮標の流出等の異常を早期に発見するため、灯浮標の流失や蓄電池電圧なども監視する新たな監視装置への更新を推進します。