海上保安レポート 2022

はじめに


TOPICS 海上保安の一年


特集 守り抜く、日本の海。


海上保安庁の任務・体制


■本編

1 治安の確保

2 生命を救う

3 青い海を守る

4 災害に備える

5 海を知る

6 海上交通の安全を守る

7 海をつなぐ


語句説明・索引


図表索引


資料編

3 青い海を守る > CHAPTER II. 海洋環境保全対策
3 青い海を守る
CHAPTER II. 海洋環境保全対策

海上保安庁では、海上環境関係法令違反の監視・取締り、海洋環境の調査、国民の皆様への指導・啓発活動等、海洋環境を保全するための総合的な取組を実施しています。

海洋環境保全対策の現況
1 海上環境関係法令違反の監視・取締り

海上保安庁では、海洋汚染につながる油の不法排出、廃棄物の不法投棄等の海上環境関係法令違反に対し、巡視船艇・航空機による海・空からの監視・取締りに加え、沿岸部では陸上からの監視・取締りを実施しています。

令和3年に海上保安庁が送致した海上環境関係法令違反は661件であり、前年と比較して97件減少しました。違反を種類別に見ると、船舶からの油の不法排出や、廃棄物、廃船の不法投棄が多くなっています。これらの違反は、適正な処理費用や設備整備への投資を惜しんでの行為であることが多く、その形態も、夜陰に紛れた不法排出や不法投棄、船名や船体番号を抹消した上での廃船の投棄等、悪質・巧妙なケースが見受けられます。

不法に投棄された廃船
不法に投棄された廃船
外国船舶による海洋汚染への対応

外国船舶による海洋汚染については、領海のみならず、EEZにおいても取締りを行っております。令和3年は1隻を検挙しました。なお、国連海洋法条約に基づき、船舶の航行の利益を考慮し、担保金制度を適用しました。

また、我が国の法令を適用できない公海等において外国船舶の油等の排出を確認した場合には、当該船舶の旗国に排出事実を通報し、適切な措置を求めています。

外国人ら3名を家庭ごみの不法投棄で摘発

坂出海上保安署は、令和3年8月、香川県観音寺市の海岸に投棄された空き缶などの家庭ごみを見つけ、ごみ袋から指紋を採取するなどの鑑識活動等の捜査により、ミャンマー人2名及び日本人1名の計3名が不法に投棄した疑いが強まり、同人らを廃棄物の処理及び清掃に関する法律違反の容疑で通常逮捕しました。捜査の結果、分別が面倒で、空き缶等約74kgの家庭ごみを不法に投棄していた事実が明らかになりました。

廃棄物の投棄状況
廃棄物の投棄状況
投棄されていた廃棄物
投棄されていた廃棄物

2 海洋環境調査
海洋汚染の調査

海上保安庁では、海洋汚染の状況を正確に把握するため、閉鎖性の高い港湾等において、測量船により定期的に海水や海底堆積物を採取し、油分、PCB(ポリ塩化ビフェニル)、重金属等の調査を継続的に行っています。

放射能調査

海洋環境モニタリングの一環として、核実験等による海洋環境への影響を把握するため、日本周辺海域において海水や海底堆積物を採取し、人工放射性物質の調査を継続的に行っています。

また、原子力規制庁が定める実施要領に基づき、原子力艦が寄港する横須賀港(神奈川県)、佐世保港(長崎県)、金武中城港(沖縄県)において、周辺住民の安全・安心を確保するため、定期的に海水や海底堆積物を採取・分析するとともに、原子力艦の入港前、寄港時、出港後の放射能調査を行っています。

海底堆積物の採取作業
海底堆積物の採取作業
海水の分析作業
海水の分析作業
3 海洋環境保全に関する指導・啓発

海洋汚染を防止し、海洋環境を保全するためには、国民の皆様に意識を高めていただくことが重要です。海上保安庁では、毎年5月30日から6月30日までの期間を「海洋環境保全推進月間」とし、「未来に残そう青い海」をスローガンに、海洋環境保全に関する指導・啓発活動を重点的に実施するため、海事・漁業関係者、マリンレジャー等を行う方々を対象とした海洋環境保全講習会、若年層を含む一般市民の方々を対象とした海洋環境保全教室、地域の方々とも連携した海浜清掃などのイベントを開催しています。全国各地の海上保安庁職員が新型コロナウイルス感染症に対する基本的な感染防止策を徹底しつつ、それぞれの地域の状況をふまえた活動を行っています。

同期間中、環境省と「CHANGE FOR THE BLUE」を推進する日本財団の共同事業である「海ごみゼロウィーク」一斉清掃に、海上保安庁も積極的に協力し、地方自治体、学校機関、公益財団法人海上保安協会等とも連携しつつ、地域の方々のご理解とご協力を得たうえで、全国の海岸等において、海浜清掃を行っています。あわせて海洋環境保全に関する啓発活動を実施することで、多くの方々に身近なごみが海洋汚染に結びついている現状を体感してもらうなど、海洋環境保全の意識高揚につなげるための活動を重点的に行っています。

また、海に関心を持ってもらうとともに、海洋環境保全思想の普及を図ることを目的として、全国の小中学生を対象に、海上保安協会との共催で「未来に残そう青い海・海上保安庁図画コンクール」を開催しています。

訪船指導
訪船指導
若年層に対する海洋環境保全教室
若年層に対する海洋環境保全教室
漂着ごみ分類調査
漂着ごみ分類調査
一般市民との海浜清掃活動
一般市民との海浜清掃活動
4 海の再生プロジェクト

海洋環境の保全・再生のために東京湾、伊勢湾、大阪湾及び広島湾では「海の再生プロジェクト」が進められています。これらのプロジェクトでは、国や自治体、教育・研究機関、民間企業、市民団体等の関係機関が連携し、陸域からの汚濁負荷削減対策、海域の環境改善対策及び環境モニタリングを推進しています。

海上保安庁は、「海の再生プロジェクト」の各種施策のうち、環境モニタリングに取り組んでおり、測量船によって海水の透明度や溶存酸素等の水質観測を定期的に行っています。夏季には上記の各湾において環境に関する一斉調査が開催されており、海上保安庁も関係機関と連携して湾内や周辺の環境の把握に努めています。特に東京湾における一斉調査では事務局の一員として、水質調査・生物調査・環境啓発活動といった各種取組の取りまとめを実施しています。令和3年度の東京湾環境一斉調査では、民間企業や市民団体を含む148の機関が水質調査に参加しました。

海の再生プロジェクトの概念図

海の再生プロジェクトの概念図
令和3年度の東京湾環境一斉調査の結果(底層の溶存酸素量(DO)分布)
一部に、溶存酸素量が3.0mg/Lを下回った貧酸素水塊の分布が見られた。
今後の取組

海上保安庁では、海洋環境調査により海洋汚染の現況を的確に把握するとともに、海上環境関係法令違反の厳正な監視・取締りを実施します。また、広く指導・啓発活動を推進するとともに、関係機関と情報共有体制を構築し、各機関と連携・協力して海洋環境保全につながる取組を推進していきます。

未来に残そう青い海・海上保安庁図画コンクールの開催

海上保安庁では、将来を担う小中学生の子どもたちに海洋環境について考える機会を提供することで海への関心を高め、海洋環境保全思想の普及とともに、海上保安業務への理解の促進を図ることを目的として、公益財団法人海上保安協会との共催で「未来に残そう青い海・海上保安庁図画コンクール」を開催しています。

第22回を迎えた図画コンクールは、応募者が手軽に描いてポストに投函できる「はがきサイズ」で図画作品を募集し、全国の小中学生から15,489点の応募がありました。審査及び選考の結果、特別賞(国土交通大臣賞)、海上保安庁長官賞等の受賞作品が決定しました。

全国で開催される海洋環境保全思想の普及に関するイベントや広報などで、受賞作品をはじめ、応募された図画作品を活用しています。

国土交通大臣による表彰
国土交通大臣による表彰
特別賞(国土交通大臣賞)
特別賞
広島県 広島市立皆実小学校 4年生
堀池 柚羽(ほりいけゆずは)さん
海上保安庁長官賞
海上保安庁長官賞-1
徳島県 徳島市国府小学校 3年生
青木勇麻(あおきゆうま)さん
海上保安庁長官賞-2
福岡県 福岡市立香椎小学校 5年生
古田 侑勢(ふるたゆうせい)さん
海上保安庁長官賞-3
茨城県 常陸太田市立金砂郷中学校 2年生
後藤 羽菜(ごとうはな)さん

※ 受賞者の学年は、応募当時