海上保安レポート 2020

はじめに


TOPICS 海上保安庁、この1年


特集 海上保安庁新時代


海上保安庁の任務・体制


■本編

1 治安の確保

2 生命を救う

3 青い海を守る

CHAPTER I. 海洋汚染の現況
CHAPTER II. 海洋環境保全対策

4 災害に備える

5 海を知る

6 海上交通の安全を守る

7 海をつなぐ


語句説明・索引


図表索引


資料編

3 青い海を守る > CHAPTER II. 海洋環境保全対策
3 青い海を守る
CHAPTER II. 海洋環境保全対策

海上保安庁では、海上環境関係法令違反の監視・取締り、海洋環境の調査、国民の皆様への指導・啓発活動等、海洋環境を保全するための総合的な取組を実施しています。

海洋環境保全対策の現況
1 海上環境関係法令違反の監視・取締り

海上保安庁では、海洋汚染につながる油の不法排出、廃棄物の不法投棄等の海上環境関係法令違反に対し、巡視船艇・航空機による海・空からの監視・取締りに加え、沿岸部では陸上からの監視・取締りを実施しています。

平成31年/令和元年に海上保安庁が送致した海上環境関係法令違反は749件であり、前年と比較して90件増加しました。違反の種類別に見ると、船舶からの油の不法排出や、廃棄物、廃船の不法投棄が多くなっています。これらの違反は、適正な処理費用や設備整備への投資を惜しんでの行為であることが多く、その形態も、夜陰に紛れた不法排出や不法投棄、船名や船体番号を抹消した上での廃船の投棄等、悪質・巧妙なケースが見受けられます。

不法に投棄された廃船
不法に投棄された廃船
外国船舶による海洋汚染への対応

外国船舶による海洋汚染については、領海のみならず、EEZにおいても取締りを行っており、平成31年/令和元年は1隻を検挙しました。なお、国連海洋法条約に基づき、船舶の航行の利益を考慮し、担保金制度を適用しました。

また、我が国の法令を適用できない公海等において外国船舶の油等の排出を確認した場合には、当該船舶の旗国に排出事実を通報し、適切な措置を求めています(平成31年/令和元年旗国通報件数:2件)。

2 海洋環境調査
海洋汚染の調査

海上保安庁では、海洋汚染の状況を正確に把握するため、閉鎖性の高い港湾等において、測量船により定期的に海水や海底堆積物を採取し、油分、PCB(ポリ塩化ビフェニル)、重金属等の調査を継続的に行っています。


放射能調査

海洋環境モニタリングの一環として、核実験や放射性廃棄物の海洋投棄等による海洋環境への影響を把握するため、日本周辺海域において海水や海底堆積物を採取し、人工放射性物質の調査を継続的に行っています。

また、原子力規制庁が定める実施要領に基づき、原子力艦が寄港する横須賀港(神奈川県)、佐世保港(長崎県)、金武中城港(沖縄県)において、周辺住民の安全・安心を確保するため、定期的に海水や海底堆積物を採取し、放射能調査を行うとともに、原子力艦の入港前、寄港時、出港後の放射能調査を行っています。さらに、平成23年3月の東京電力福島第一原子力発電所事故に対応する政府の総合モニタリング計画に基づいた放射能調査も行っています。

表面採水作業
表面採水作業
分析作業
分析作業
3 海洋環境保全のための指導・啓発

海洋汚染の大半が故意や取扱不注意等による人為的な要因により発生していることから、海洋汚染を防止し、海洋環境を保全するためには、国民の皆様に意識を高めていただくことが重要です。そのため、海上保安庁では、ボランティアや地方公共団体と連携し、全国各地で海洋環境保全に関する指導・啓発活動を実施しています。

令和元年度は、5月30日から6月30日までの期間を「海洋環境保全推進月間」とし、「未来に残そう青い海」をスローガンに、海事・漁業関係者、マリンレジャー等を行う方々を対象とした海洋環境保全講習会や訪船指導、一般市民の方々を対象とした海洋環境保全教室の開催等様々なイベントを実施しました。

特に、環境省と「CHANGE FOR THE BLUE」を推進する日本財団の共同事業である「海ごみゼロウィーク」一斉清掃については、当庁も積極的に協力し、海上保安協会、自治体、学校等とも連携して全国の海岸等で多くの参加者と海浜清掃を行い、あわせて海洋環境保全啓発活動を実施することで、多数の方々に身近なごみが海洋汚染に結びつく現状を体感してもらうなど、海洋環境保全の意識高揚につなげるための活動を重点的に行いました。

海洋環境保全講習会
海洋環境保全講習会
環境紙芝居を活用した海洋環境保全教室
環境紙芝居を活用した海洋環境保全教室
タンカーに対する訪船指導
タンカーに対する訪船指導
海浜清掃活動
海浜清掃活動
4 海の再生プロジェクト

海洋環境の保全・再生のためには、関係機関が連携して取組むことが重要です。このような連携の一つとして、東京湾、伊勢湾、大阪湾及び広島湾では「海の再生プロジェクト」が進められています。これらのプロジェクトでは、海上保安庁を含む国や自治体、教育・研究機関、民間企業、市民団体等の関係機関が連携し、陸域からの汚濁負荷削減対策、海域の環境改善対策及び環境モニタリングを推進しています。

海上保安庁は、「海の再生プロジェクト」の各種施策のうち、環境モニタリングに取り組んでおり、測量船によって海水の透明度や溶存酸素などの水質観測を定期的に行っています。夏季には上記の各湾において環境に関する一斉調査が開催されており、海上保安庁も関係機関と連携して湾内や周辺の環境の把握に努めています。特に東京湾における一斉調査では事務局の一員として、水質調査・生物調査・環境啓発活動といった各種取組の取りまとめを実施しています。令和元年度の東京湾環境一斉調査では、民間企業や市民団体を含む172の機関が水質調査に参加しました。

令和元年度の東京湾環境一斉調査の結果(底層の溶存酸素量(DO)分布)一部に、溶存酸素量が3.0mg/Lを下回った貧酸素水塊の分布が見られた

令和元年度の東京湾環境一斉調査の
結果(底層の溶存酸素量(DO)分布)
一部に、溶存酸素量が3.0mg/Lを下回った
貧酸素水塊の分布が見られた

今後の取組

海上保安庁では、海洋環境調査により海洋汚染の現況を的確に把握するとともに、海上環境関係法令違反の厳正な監視・取締りを実施します。また、広く指導・啓発活動を推進するとともに、関係機関と情報共有体制を構築し、各機関と連携・協力して海洋環境保全につながる取組を推進していきます。

厳原港沖にてウミガメ救出!

猛暑が続く令和元年8月7日、長崎県対馬市沿岸を巡視警戒中の対馬海上保安部(長崎県)所属の巡視艇「やえぐも」は、長崎県対馬市厳原港から約2海里(約4km)沖合に漂流している漁網を発見しました。

海上に漂流する漁網は船舶交通の妨げとなることから、揚収を行うため、漁網に接近したところ、漁網に2匹のウミガメが絡まっていました。

この状況を見た「やえぐも」の乗組員は、「やえぐも」に搭載する小型の救助艇を使用し、ウミガメの救助に向かいました。

漁網に接近後、ウミガメを傷つけないようにナイフを駆使して網を切ること約30分、次第に身体が自由になり暴れ始めるウミガメとの格闘もありましたが、無事に2匹のウミガメを大海原へ帰すことができました。

海上保安庁では、このような海の生物への被害がなくなるよう、日々海洋環境保全に係る指導・啓発活動を実施しています。


漁網の絡まったウミガメ
漁網の絡まったウミガメ
海に帰す様子
海に帰す様子
未来に残そう青い海・海上保安庁図画コンクールの開催
図画展示による海洋環境保全思想の普及活動
図画展示による海洋環境保全思想の普及活動

海上保安庁では、海洋環境保全啓発活動の一環として、「未来に残そう青い海・海上保安庁図画コンクール」を開催しており、第20回目を迎えた令和元年のコンクールには、全国の小中学生から31,145点の応募があり、審査及び選考の結果、特別賞(国土交通大臣賞)、海上保安庁長官賞等を決定しました。

受賞作品をはじめ、全国から集まった作品は、各地でのさまざまなイベント及び広報に活用され、海洋環境保全思想の普及に貢献しています。

また、海上保安官が平成12年に作成した環境紙芝居「うみがめマリンの大冒険」が、海洋プラスチックごみ問題の世界的な関心の高まりを受け、マイクロプラスチックが生態系に与える影響について分かりやすく描写した一幕を追加するなどのリニューアルを行ったことから、第20回記念の特別賞として「うみがめマリン賞」を設けるとともに、作品展示にあわせて同紙芝居の原画展及び朗読会を行いました。


特別賞(国土交通大臣賞)
特別賞
徳島県
徳島市立国府小学校1年生
青木 勇麻さん
赤羽国土交通大臣による選考
赤羽国土交通大臣による選考
海上保安庁長官賞
海上保安庁長官賞-1
中学生の部
鹿児島県 南さつま市立万世中学校3年生
武田 一美 さん
海上保安庁長官賞-2
小学生高学年の部
沖縄県 石垣市立平真小学校5年生
加原 駿輝 さん
海上保安庁長官賞-3
小学生低学年の部
宮城県 美里町立不動堂小学校2年生
新田 結以 さん
作品展示の様子
作品展示の様子-1
リニューアルした環境紙芝居
「うみがめマリンの大冒険」
作品展示の様子-2
紙芝居原画展及び朗読会
うみがめマリン賞
うみがめマリン賞
中学生の部
大分県 別府市立青山中学校1年生
平野 深愛 さん