海上保安庁では、全国を11の管区に分け、それぞれに地方支分部局である管区海上保安本部を設置しています。また、管区海上保安本部には、海上保安部、海上保安署、航空基地等の事務所を配置し、巡視船艇や航空機等を配備しています。全国各地に配備したこれらの勢力により、いかなる事態が発生した際にも、迅速に現場に駆け付ける体制を常に整えています。
海上保安庁では、全国各地にあらゆる船艇・航空機を配備し、日本の海を守っています。巡視船艇は、全国の海上保安部署等に配備され、海洋秩序の維持、海難救助、海上災害の防止、海洋汚染の監視取締り、海上交通の安全確保に従事しています。測量船は、海底地形の測量、海流や潮流の観測、海洋汚染の調査等を行っています。灯台見回り船は、灯台、灯浮標、電波標識等の航路標識の維持管理等を行っています。
PLH型(ヘリコプター搭載型)巡視船「あさづき」
PLH型(ヘリコプター搭載型)巡視船「しゅんこう」
PL型(3,500トン型)巡視船「みやこ」
PL型(2,000トン型)巡視船「ひだ」
PL型(1,000トン型)巡視船「わかさ」
PM型(500トン型)巡視船「ちとせ」
PM型(350トン型)巡視船「おおみ」
PS型(180トン型)巡視船「さろま」
PC型(35メートル型)巡視艇「あおたき」
PC型(30メートル型)巡視艇「たかつき」
PC型(23メートル型)巡視艇「しまぎり」
CL型(20メートル型)巡視艇「ささかぜ」
CL型(18メートル型)巡視艇「はやかぜ」
放射能調査艇「さいかい」
FL型(消防船)巡視船「ひりゆう」
HL型(大型測量船)「光洋」
LS型(灯台見回り船)「あきひかり」
航空機は、全国の海上保安航空基地・航空基地等に配備され、その優れた機動力と監視能力によって、海洋秩序の維持、海難救助、海上災害の防止、海洋汚染の監視取締り、海上交通の安全確保等に従事するほか、火山監視や沿岸域の測量等に活躍しています。
ガルフV「うみわし」
ファルコン2000「わかたか」
ボンバル300「しまたか」
サーブ340「はやぶさ」
ビーチ350「うみかもめ」
セスナ172「あまつばめ」
シーガーディアン
スーパーピューマ225「いぬわし」
スーパーピューマ332「うみたか」
アグスタ139「おきたか」
シコルスキー76C「しまふくろう」
シコルスキー76D「しまわし」
ベル412「いせたか」
ベル505「おおるり」
我が国周辺海域において、海上保安庁が直面する重大な事態は年々多様化しており、全国各地であらゆる事案が発生しています。海上保安庁では、全国に配備した巡視船艇、航空機等の勢力により、国民の皆様の安全・安心をこれからも守り抜くという断固たる決意を胸に、24時間365日、今この瞬間も日本の海を守っています。
尖閣諸島周辺海域では、中国海警局に所属する船舶がほぼ毎日確認され、領海侵入も繰り返されており、中国海警局に所属する船舶の大型化、武装化、増強も進んでいます。日本海に目を移すと、大和堆周辺海域では、外国漁船による違法操業が確認され、沿岸部では北朝鮮からのものと思料される漂流・漂着木造船等も確認されています。加えて、覚醒剤等の密輸事犯や我が国の同意を得ない外国海洋調査船による調査活動など、我が国周辺海域を取り巻く情勢は依然として大変厳しい状況にあります。
尖閣諸島周辺海域の緊迫化
尖閣諸島(沖縄県石垣市)は、南西諸島西端に位置する魚釣島(うおつりしま)、北小島(きたこじま)、南小島(みなみこじま)、久場島(くばしま)、大正島(たいしょうとう)、沖ノ北岩(おきのきたいわ)、沖ノ南岩(おきのみなみいわ)、飛瀬(とびせ)等から成る島々の総称です。
尖閣諸島及び周辺海域の安定的な維持・管理を図るため、海上保安庁にて、平成24年9月11日、尖閣諸島の魚釣島、北小島、南小島の三島を取得し、保有しています。
尖閣諸島周辺の領海の面積は約4,740km2で東京都と神奈川県の面積を足した面積(約4,605km2)とほぼ同じ広さです。また、尖閣諸島周辺の領海・接続水域は、四国と重ね合わせるとその広大さが見て取れます。海上保安庁では、この広大な海域で、昼夜を分かたず、巡視船艇・航空機により領海警備を実施しています。
尖閣諸島周辺の接続水域においては、ほぼ毎日、中国海警局に所属する船舶による活動が確認されており、令和4年における1年間の確認日数は336日で、過去最多となりました。また、接続水域における連続確認日数にあっては138日であり、過去2番目に長い日数となりました。さらに、令和4年は尖閣諸島周辺の我が国領海において、中国海警局に所属する船舶による日本漁船等へ近づこうとする事案も繰り返し発生しており、これに伴う領海侵入時間は72時間45分と過去最長となりました。海上保安庁では、24時間365日、常に尖閣諸島周辺海域に巡視船を配備して領海警備にあたっており、国際法・国内法に則り、冷静に、かつ、毅然として対応しています。
中国海警局に所属する船舶を監視する巡視船
大型化・武装化
中国海警局に所属する大型の船舶
機関砲を搭載した中国海警局に所属する船舶
令和2年以降、尖閣諸島周辺の我が国領海において、中国海警局に所属する船舶が、操業等を行う日本漁船に近づこうとする事案が多数発生しており、令和4年は11件となっております。さらに令和4年1月には、中国海警局に所属する船舶が、同海域を航行等していた漁船以外の日本船舶に近づこうとする事案が1件発生しております。海上保安庁では、中国海警局に所属する船舶に対し、領海からの退去要求を実施するとともに、日本漁船等の周囲に巡視船を配備し安全を確保しています。いずれの事案でも、日本漁船等の乗組員に怪我はなく、船体等にも損傷は発生していません。
尖閣諸島周辺海域の領海警備に従事する巡視船「りゅうきゅう」
尖閣諸島周辺海域では、外国漁船による活動も続いています。令和4年の領海からの退去警告隻数は、中国漁船については58隻、台湾漁船については32隻となりました。
外国漁船に退去警告を行う巡視船
予断を許さない日本海大和堆周辺海域
日本海中央部の「大和堆(やまとたい)」は、周囲に比べ水深が浅く、イカやカニなどの日本海有数の好漁場となっています。近年、大和堆周辺の我が国排他的経済水域(EEZ)では、外国漁船による違法操業が確認されておりますが、大和堆周辺で操業する日本漁船の安全確保を最優先として、巡視船が違法操業外国漁船に対応しています。
背景図:海上保安庁、ⒸEsri Japan
北朝鮮漁船に放水をする巡視船
水産庁との合同訓練の状況
北朝鮮漁船に退去警告を行う巡視船
中国漁船に退去警告を行う巡視船
夜間に巡視船から放水を受ける北朝鮮漁船
北朝鮮漁船に放水する巡視船
日本漁船付近を警戒中の巡視船
令和4年にあっても、違法操業外国漁船が大和堆周辺海域に近づくことを未然に防止し、日本漁船の安全を確保するため、我が国イカ釣り漁業の漁期前の5月下旬から大型巡視船を含む複数の巡視船を大和堆周辺海域に配備するとともに、航空機によるしょう戒を実施しました。
なお、令和4年にあっては、同海域において3隻の中国漁船に対して退去警告を行いました。
また、5月27日には、水産庁とのより緊密な連携を図ることを目的に、巡視船等と漁業取締船が合同で、違法操業外国漁船への対応を想定した退去警告、放水措置訓練等を実施しました。
今後とも、水産庁をはじめとする関係省庁と緊密に連携の上、日本漁船の安全確保を最優先に対応していきます。
外国海洋調査船等の活発化等
我が国の排他的経済水域等において、外国船舶が調査活動等を行う場合は、国連海洋法条約に基づき、我が国の同意を得る必要があります。
しかし、近年、我が国周辺海域では、外国海洋調査船による我が国の同意を得ない調査活動や同意内容と異なる調査活動(特異行動)が多数確認されています。
海上保安庁では、巡視船・航空機による監視警戒等を行い、特異行動を認めた外国船舶に対しては、活動状況や行動目的の確認を行うとともに、中止要求を実施するなど、関係省庁と連携して、適切に対応しています。
外国海洋調査船に中止要求を行う巡視船
沿岸国は、国連海洋法条約の関連規定に基づき、領海基線から200海里までの排他的経済水域及び大陸棚の権原を有していますが、向かい合う国の距離が400海里未満の水域においては、排他的経済水域及び大陸棚が重なる海域があるため、それぞれの国の合意によって境界を画定する必要があります。
国連海洋法条約の関連規定及び国際判例に照らせば、このような海域において境界を画定するに当たっては、中間線をもとに境界を画定することが衡平な解決であるとされていますが、中国・韓国は、自国の大陸棚が沖縄トラフまで自然延長している旨の独自の主張を行っています。
海上保安庁では、他国による日本とは異なる主張に対し、我が国の海洋権益を確保するため、海洋調査の実施などにより、我が国周辺海域における基礎的な海洋情報を整備しています。
我が国周辺海域における大規模・重大事案等の懸念
我が国の周辺海域において、衝突や転覆、乗揚げ、火災等、様々な海難が発生しています。
海上保安庁では、巡視船艇や航空機を出動させるほか、「特殊救難隊」、「機動救難士」、「機動防除隊」等、高度な専門技術を有するスペシャリストを派遣するなどして、人命の救助や火災の消火、流出した油の防除等、様々な活動を全力で行っています。
令和4年においては、4月の福岡県三池沖における航空機消息不明事案及び北海道知床半島沖における遊覧船沈没事案、5月の千葉県野島埼沖における貨物船座礁事案、10月の鹿児島県奄美大島沖における作業船座礁事案など、1,882隻の船舶事故が発生し、海上保安庁では、令和4年、計470隻、1,521人を救助しました。
近年、集中豪雨や台風等による深刻な被害をもたらす自然災害が頻発しています。令和4年度も地震や台風、大雨等による自然災害が発生し、各地に被害がもたらされました。
海上保安庁では、自然災害が発生した場合には、組織力・機動力を活かして、海・陸の隔てなく、巡視船艇や航空機、特殊救難隊、機動救難士、機動防除隊等を出動させ、被害状況調査を行うとともに、被災者の救出や行方不明者の捜索を実施しています。
また、地域の被害状況やニーズに応じて、SNS等での情報発信を行いつつ、電気、通信等のライフライン確保のため協定に基づき電力会社等の人員及び資機材を搬送するとともに、自治体からの要請に基づく給水や入浴支援に加え、支援物資の輸送等の被災者支援を実施しています。
我が国周辺海域においては、違法薬物の密輸や外国人の不法上陸、密漁等、様々な犯罪行為が発生しています。
薬物密輸入事犯については、海上保安庁において過去最大量となる大麻約300kgを関係機関と合同で押収するなど、一度に大量の薬物を密輸する事犯が相次いで発生しており、その手口は、海上コンテナ貨物への隠匿を中心として、大口化・巧妙化の傾向が続いています。
密航事犯については、貨物船等からの不法上陸等小口化の傾向が続いてるほか、国際クルーズの再開により、訪日クルーズ船を利用した不正上陸の発生が懸念されます。
また、海上で資格のない外国人を就労させる不法就労助長等の犯罪インフラ事犯も摘発しています。
さらに、「しらすうなぎ」や「なまこ」の密漁事件、停泊中の内航船舶に対する広域連続窃盗事件、廃養殖用金網不法投棄事件などについて捜査しており、様々な海上犯罪取締りを実施しています。
海上保安庁では、悪質・巧妙な犯罪に対し、巡視船や航空機等によるしょう戒、海上保安官による旅客船やターミナルの見回り等により犯罪の未然防止を行うとともに、犯罪発生時には、法と証拠に基づき、犯人の検挙に努めています。
日本海沿岸では北朝鮮からのものと思料される木造船等の漂流・漂着が確認されており、その件数は平成30年をピークに減少し、令和4年は49件確認されました。
海上保安庁では、引き続き、巡視船艇・航空機による巡視警戒の強化を図るとともに地元自治体や関係機関との情報共有及び迅速な連絡体制の確保を徹底することとしています。
漂着木造船の状況
背景図:海上保安庁、©Esri Japan
海上保安官による漂着木造船の調査状況
海上保安庁が直面する多岐にわたる課題に対応するため、平成28年12月21日、「海上保安体制強化に関する関係閣僚会議」が開催され、「海上保安体制強化に関する方針」が決定されました。海上保安庁では、当該方針に基づき、尖閣領海警備のための大型巡視船等の整備など、海洋秩序の維持強化のための取組を推進してまいりました。
令和4年12月に策定された新たな国家安全保障戦略においては、「我が国の安全保障において、海上法執行機関である海上保安庁が担う役割は不可欠である」と明記され、「海上保安能力を大幅に強化し、体制を拡充する。」という政府としての大きな方向性が示されました。
厳しさを増す我が国周辺海域の情勢を踏まえ、令和4年12月に、海上保安能力強化に関する関係閣僚会議が開催され、「海上保安能力強化に関する方針」が決定されました。これにより、巡視船・航空機等の大幅な増強整備などのハード面の取組に加え、新技術の積極的活用や、警察、防衛省・自衛隊、外国海上保安機関等の国内外の関係機関との連携・協力の強化、サイバー対策の強化などのソフト面の取組もあわせて推進することにより、海上保安業務の遂行に必要な6つの能力(海上保安能力)を一層強化していくこととなります。
令和4年12月の関係閣僚会議
「海上保安能力強化に関する方針」に基づき整備されている巡視船、測量船、航空機の建造から就役までの期間のイメージは、以下のとおりです。
中国海警船の大型化・武装化や増強への対応に加え、中国海警船や大型中国漁船の大量来航など、あらゆる事態への対処を念頭に、これらに対応するための巡視船等の整備を進める。
無操縦者航空機と飛行機・ヘリコプターを効率的に活用した監視体制の構築や、次世代の衛星と人工知能(AI)等の新技術を活用した情報分析等による情報収集分析能力の強化を進める。
原発等へのテロの脅威、多数の外国漁船による違法操業、住民避難を含む大規模災害等への対応等の重大事案への対応体制を強化するため、巡視船の機能強化や調査・研究を進める。
警察、防衛省・自衛隊等の関係機関との情報共有・連携体制を一層強化する。また、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて、法とルールの支配に基づく海洋秩序維持の重要性を各国海上保安機関との間で共有するとともに、外国海上保安機関等との連携・協力や諸外国への海上保安能力向上支援を一層推進する。
他国による海洋境界等の主張に対し、我が国の立場を適切な形で主張するべく、測量船や測量機器等の整備や高機能化を進め、海洋調査や調査データの解析等を進める。
海上保安能力強化を着実に強化していくため、教育訓練施設の拡充等を進めるとともに、サイバーセキュリティ上の新たな脅威にも対応した情報通信システムの強靱化を進める。また、巡視船艇・航空機等の整備に伴って必要となる基地整備や、巡視船艇・航空機等の活動に必要な運航費の確保、老朽化した巡視船艇・航空機等の計画的な代替整備を進めるとともに、巡視船の長寿命化を推進する。