海上防災対策の充実・強化

海上保安庁では、防災に関しとるべき措置などを規定した「海上保安庁防災業務計画」等に基づき、自然災害や事故災害に対し、常に迅速かつ的確に対応できるよう努めています。

災害への対策は、平素からの準備と事案発生後の応急対策の実施の二つに大別でき、前者としては、災害発生時の被害状況調査や応急対策の実施に当たる巡視船艇・航空機の配備、海上保安部や航空基地等の陸上の事務所における24時間の当直体制、迅速かつ的確な対応のための関係機関等との情報伝達体制の確保、各種計画の策定などが、後者としては、各種計画等に基づき、保有する勢力等を用いて迅速かつ的確に被害の局限化に資する各種の措置を講ずることなどが挙げられます。

海上保安庁の事故災害対策と自然災害対策に係る取り組みは、以下のとおりです。


Ⅰ 事故災害対策


(1) 大規模油排出事故に係る防災体制の確立

①排出油防除体制の整備

油の排出による汚染事故に関しては、海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律(以下「海防法」という。)に基づき、油を排出した船舶の船舶所有者等の原因者に対し防除措置義務を課すとともに、一定のタンカーの船舶所有者等に油防除資機材の備付けを義務付けています。

海上保安庁は、原因者、海上災害防止センター等の防除措置実施者への指導・助言等を行うとともに、事故発生時に原因者の対応が不十分なときは、自ら排出油の防除を行うなど、被害を最小限に食い止めるための措置を講ずることとしています。

このため、横浜海上防災基地に、油等の防除に関する専門的な知識・技能を有する専門家集団である「機動防除隊」を配置し、油等排出事故発生時には、日本全国に派遣して対応できる体制を確立しています。

また、海防法に基づき、我が国の沿岸を16の海域に分け、各海域の地域特性等に応じて、排出油等防除計画を策定するとともに、必要に応じ見直しを実施しています。


②油防除資機材等の整備

我が国の排出油防除能力を確保するため、タンカーの船舶所有者、油保管施設の設置者等に対する資機材等の備付けの指導、全国の主要な海上保安部、海上保安署への油防除資機材の配備等を実施しています。

また、ナホトカ号海難・油流出事故等の大規模な油排出事故を踏まえ、外洋においても対応可能な大型油回収装置や高粘度の油にも対応できる油回収装置等の油防除資機材の配備を実施しています。


③関係機関相互の連携強化

排出された油による被害の局限化及び海洋環境の保全のためには、各地域における様々な関係者等が情報を共有しながら連携して対処することが極めて重要であることから、海防法に基づき、地域の関係者等で構成する排出油等の防除に関する協議会等を全国各地に設置し、万が一の際には、これら関係者等が迅速かつ的確に対応できるよう連携の強化、油防除訓練の実施等を促進しています。

さらに、ロシア連邦サハリン州で進められている石油・天然ガス開発プロジェクトについても、関係行政機関で油流出事故への具体的な準備及び対応に関する申し合わせを行うとともに、あらゆるルートを通じた情報伝達体制の確保に努めるなど対応体制の充実強化を図っています。


④沿岸海域環境保全情報の整備等

海上保安庁では、油排出事故等発生時に必要となる沿岸域の情報を迅速かつ的確に提供するため、平成9年度から防災情報、社会情報、自然情報や油が漂着した場合の自然浄化能力や除去作業の困難性により海岸線を分類した「環境脆弱性指標(ESI)情報」等をデータベース化した沿岸海域環境保全情報を整備し、シーズネット(Ceis Net)としてインターネットにより情報提供を行っています。

また、現場へ急行した巡視船から、気象・海象のデータをリアルタイムに取得できる「船舶観測データ集積・伝送システム」を巡視船に整備し、より的確な防除方針の策定に貢献できる体制整備に努めています。


(2) 危険物質及び有害物質に係る防災体制の確立

①海防法及び関係省令の改正

「2000年の危険物質及び有害物質による汚染事件に係る準備、対応及び協力に関する議定書」(OPRC-HNS※議定書)の実施に資するため、海上保安庁等は、関係分野の有識者等による委員会を設置し、これら委員会において、HNS事故に対する我が国の防災体制等について検討が行われ、国家的な体制の整備、海上保安庁の体制強化等についての提言が取りまとめられました。

海上保安庁では、この提言を踏まえ、海防法及び関係政省令を改正し、これにより、HNSである有害液体物質等についても、油の場合と同様の枠組みで対応することが可能となったところです。

具体的には、有害液体物質等を排出した船舶の船舶所有者等の原因者に対し、防除措置義務を課すなどのほか、平成20年4月からは、一定の船舶の船舶所有者に防除資機材や要員の確保を義務付けることとしています。

※HNS:危険物質及び有害物質(Hazardous and Noxious Substances)


②国家的な緊急時計画の策定

海上保安庁及び関係行政機関は、油、有害液体物質等による汚染事件に対する迅速かつ効果的な措置の実施のため、従来の油による汚染事件に係る計画の全体的な見直しを行い、「油、有害液体物質、危険物その他の物質」による汚染事件発生時の即応体制、関係機関の緊密な連携、物質の特性に応じた具体的な措置等を規定した「油等汚染事件への準備及び対応のための国家的な緊急時計画」(閣議決定)を策定し、汚染事件に備えています。

また、海上保安庁及び関係行政機関は、同計画に基づき、国内の各種分野の専門家に関する情報のリストを保有しており、油等汚染事件への準備及び対応に関する活動に活用しようとする関係行政機関、地方公共団体等の要請に応じて提供することとしています。


③防災体制の整備

海上保安庁では、「機動防除隊」の増強等を図るとともに、有害液体物質排出事故対応時に必要となる化学防護衣などの保護具の整備を進めるほか、諸外国のHNS汚染事故に関わる担当者との会合における情報の交換等、危険物質及び有害物質に係る防災体制の整備を推進しています。


(3) 船舶の沈没・乗揚げへの対応

海上保安庁では、船舶の沈没又は乗揚げが発生した場合には、当該船舶の船舶所有者等に対し、油等の排出防止措置、当該船舶の撤去等について指導を行うとともに、原因者の対応が不十分なときなどには、必要に応じ自ら油等の防除を行うなどの措置を講ずることとしています。

また、当該船舶の沈没又は乗揚げに起因して海洋が汚染され、又は汚染されるおそれがあり、当該汚染が海洋環境の保全に著しい障害を及ぼし、又は及ぼすおそれがあると認める場合には、当該船舶の船舶所有者に対し船体撤去命令を発出するなど適切な対応を実施することとしています。


(4) 原子力災害に係る防災体制の確立

原子力災害発生時には、海上保安庁は海上における救助・救急活動、モニタリングの支援等を行いますが、これらの業務を的確に実施するため、専門機関における研修の実施、放射線測定器等の整備、関係機関との連携訓練等を実施しています。


Ⅱ 自然災害対策

①関係機関との連携強化

各地域にて実施される防災訓練を通じて、地方公共団体、地方行政機関等の関係機関との連携を強化するとともに、沿岸部等における風水害、地震災害等の自然災害発生時においても、要請等に応じて災害応急対策を実施することとしています。

また、地方公共団体の防災会議に委員等として参加し、防災計画の策定、見直し等に積極的に取り組むとともに、災害発生時の情報連絡体制や災害応急活動を実施する際の関係機関との連携体制の確保を図っています。


②災害応急対策拠点の整備等

南関東地域に広域的な災害が発生した場合の災害応急対策の拠点として、防災関係機関とともに立川広域防災基地を整備・運用しています。また、東京湾及び関東一円で大規模な海上災害が発生した場合の海上防災活動の拠点として、横浜海上防災基地を整備・運用しています。


③地震予知体制等の強化

特定観測地域等における海底地形・地質構造調査、人口密集度の高い沿岸地域における海底活断層調査及び海底基準点を用いた海底地殻変動観測やGPS等を利用した地殻変動監視観測並びに海底火山活動海域における温度分布等の調査を実施しています。

また、地震・津波等の自然災害が発生した場合に海上からの救難・救助活動を迅速かつ適切に実施するため、沿岸防災情報図の整備を推進しています。


④津波対策等

津波発生時の迅速・的確な対応のため、「海上保安庁防災業務計画」において、「港内における船舶津波対策協議会」の設置(港則法の特定港(86港)を中心に設置済み)及び「港内における船舶津波対策」の策定、海上保安庁の体制整備、災害に関する情報の伝達、災害応急対策等を定めています。

また、大きな被害が予想される港や沿岸域の津波の挙動を明らかにし、津波対策の策定等に資するため、「津波防災情報図」としてまとめ、一般にも公表しています。