ひとたび船舶の火災、衝突、乗揚げや沈没等の事故が発生すると、人命・財産が脅かされるだけでなく、事故に伴って油や有害液体物質が海に流出することにより、自然環境や付近住民の生活にも甚大な悪影響を及ぼします。
海上保安庁では事故災害の予防に取り組むとともに、災害が発生した際には関係機関とも連携して、被害を最小限にするよう取り組んでいます。
排出油防除体制の整備
油及び有害液体物質(以下「油等」という。)の排出による汚染事故に関しては、海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律(以下「海防法」という。)に基づき、油等を排出した船舶の船舶所有者等の原因者に対し防除措置義務を課すとともに、国土交通省令で定める船舶の船舶所有者等に油防除資機材の備付けを義務付けています。
海上保安庁は、原因者、一般財団法人海上災害防止センター(指定海上防災機関)等の防除措置実施者への指導・助言等を行うとともに、事故発生時に原因者の対応が不十分なときは、自ら排出油の防除を行うなど、被害を最小限に食い止めるための措置を講ずることとしています。
このため、横浜海上防災基地に、油等の防除に関する専門的な知識・技能を有する専門家集団である「機動防除隊」を配置し、油等排出事故発生時には、日本全国に派遣して対応できる体制を確立しています。
また、海防法に基づき、我が国の沿岸を16の海域に分け、各海域の地域特性等に応じて、排出油等防除計画を策定するとともに、必要に応じ見直しを実施しています。
油防除資機材等の整備
我が国の排出油防除能力を確保するため、タンカーの船舶所有者、油保管施設の設置者等に対する資機材等の備付けの指導、全国の主要な海上保安部、海上保安署への油防除資機材の配備等を実施しています。
また、ナホトカ号海難・油流出事故等の大規模な油排出事故を踏まえ、外洋においても対応可能な大型油回収装置や高粘度の油にも対応できる油回収装置等の油防除資機材の配備を実施しています。
さらに、有害液体物質排出事故時に備え、有害液体物質排出事故対応時に必要となる化学防護衣などの保護具の整備を進めるほか、危険物質及び有害物質に係る防災体制の整備を推進しています。
関係機関相互の連携強化
排出された油等による被害の局限化及び海洋環境の保全のためには、各地域における様々な関係者等が情報を共有しながら連携して対処することが極めて重要であることから、海防法に基づき、地域の関係者等で構成する排出油等の防除に関する協議会等を全国各地に設置し、万が一の際には、これら関係者等が迅速かつ的確に対応できるよう連携の強化、油防除訓練の実施等を促進しています。
さらに、ロシア連邦サハリン州で進められている石油・天然ガス開発プロジェクトについても、関係行政機関で油流出事故への具体的な準備及び対応に関する申し合わせを行うとともに、あらゆるルートを通じた情報伝達体制の確保に努めるなど対応体制の充実強化を図っています。
国家的な緊急時計画の策定
海上保安庁及び関係行政機関は、油、有害液体物質等による汚染事件に対する迅速かつ効果的な措置の実施のため、「油、有害液体物質、危険物その他の物質」による汚染事件発生時の即応体制、関係機関の緊密な連携、物質の特性に応じた具体的な措置等を規定した「油等汚染事件への準備及び対応のための国家的な緊急時計画」(閣議決定)を策定し、汚染事件に備えています。
また、海上保安庁及び関係行政機関は、同計画に基づき、国内の各種分野の専門家に関する情報のリストを保有しており、油等汚染事件への準備及び対応に関する活動に活用しようとする関係行政機関、地方公共団体等の要請に応じて提供することとしています。
原子力災害に係る防災体制の確立
原子力災害発生時には、海上保安庁は海上における救助・救急活動、モニタリングの支援等を行いますが、これらの業務を的確に実施するため、専門機関における研修の実施、放射線測定器等の整備、関係機関との連携訓練等を実施しています。