は じ め に
 昭和23年に創設され、昨年、創設50年の節目を迎えた海上保安庁の新しい半世紀が始まった。
 海上保安庁は、国土面積の約12倍にも及ぶ内水・領海・排他的経済水域からなる広大で豊かな日本の海、そして周辺の海において、人々がより安全により安心して活動ができるよう、海上における治安の維持、海難の救助、海上交通の安全確保、海洋環境の保全、海洋情報の提供等の諸分野において、着実に施策を展開してきている。
 さて、この1年間を振り返ってみると、様々な事件・犯罪が荒波のごとく押し寄せた。
 アジア諸国からの集団密航事件の頻発、薬物の大量密輸の多発、新しい日韓漁業協定の締結、そして本年1月には、八丈島東方海域で遭難信号を発して行方不明者1名を出した漁船「新生丸」の不幸な海難が発生した。さらに3月には、能登半島東方の領海内において不審船2隻が出現して巡視船艇・航空機により能登半島はるか沖まで追跡する事件が発生し、この対応が広く報道されて国民の注目を集めた。
 このように海上保安庁が対応する事件・犯罪は国際化・多様化し、かつ我が国だけでは完結が難しい事案も加わってきている。現場の最前線でこの様な事案に立ち向かう海上保安官には、より一層高度で、かつ国際的な対応が求められている。このため海上保安官は、常日ごろから訓練等によりこれらに対応する能力を培い、悪質な犯罪にも怯むことなく立ち向かい、一度判断を誤れば自らの身を危険に落としかねない海上という場面にあっても、海上における人命・財産の保護、法令の海上における励行という重要な使命を認識し、直面する事案に懸命に取り組んでいる。
 このような観点から、第1部においては、「海外から押し寄せる海上警備事案への対応」と題して、不審船事案や密航事犯等の国外から侵入する犯罪等秩序侵害への対応について記述することとし、第2部においては、10年を中心に実施した業務と現況について記述することとした。

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