海上保安をめぐる主な出来事
(10年9月〜11年6月)

 

世界に先駆けて「電子水路通報」を発行 (10年9月)
大型油回収装置等の整備及び訓練を実施 (10年11月〜)
漁船「新生丸」衝突・転覆海難事故を受けて (11年1月〜3月)
新日韓漁業秩序への対応 (11年1月)
大量覚せい剤の密輸入を水際阻止 (11年1月、4月)
東京湾中ノ瀬西側海域に整流用灯浮標を設置 (11年2月)
能登半島沖不審船事案への対応 (11年3月)
ディファレンシャルGPSシステムの全国運用開始 (11年4月)
沿岸海域環境保全情報データベースの運用開始 (11年4月)
相次ぐ集団密航事犯への対応 (11年4月)
第22回国際航路標識協会(IALA)理事会の開催 (11年5月)
 
 

世界に先駆けて「電子水路通報」を発行(10年9月)

 10年9月25日、海上保安庁は、世界に先駆けて電子水路通報を発行した。
 海図は、航海に不可欠なものであり、また、船舶の安全確保のためには、常に最新の内容に維持する必要がある。電子水路通報は、航海用電子海図(ENC)の内容を電子海図表示システム(ECDIS)上で更新するための情報としてCD―ROMに収録したもので、毎月の最終金曜日に発行している。
 これまでのENCの更新では、印刷物の水路通報に掲載された更新情報を利用者自らが手作業でECDISに入力していたが、この電子水路通報の発行により、CD―ROMをECDISに挿入するだけで、ENCの表示内容を自動的に更新することが可能となった。

  [写真] 電子水路通報の例

 

大型油回収装置等の整備及び訓練を実施(10年11月〜)

 海上保安庁は、ナホトカ号海難・流出油災害等大規模油流出事故を踏まえ、外洋においても対応可能な大型油回収装置の整備を始め、高粘度の油にも対応できる油回収装置等、必要な防除資機材の整備を進めている。
 高粘度油対応油回収装置については、10年11月に第三、第八及び第九管区海上保安本部において整備した。
 また、大型油回収装置については、10年11月に福岡県門司に1基を整備し、11年1月、第七管区海上保安本部と海上災害防止センターは、合同で運用訓練を実施した。
 これらの装置により、大規模な油流出事故が発生した場合における防除能力の向上が期待できる。

  [写真] 運用訓練
  [写真] 大型油回収装置


漁船「新生丸」衝突・転覆海難事故を受けて(11年1月〜3月)

 11年1月20日、漁場から銚子港向け航行中の漁船「新生丸」(総トン数19トン、6名乗組)と船名等不詳の船舶が、八丈島東方の公海上で衝突し、「新生丸」がまもなく転覆、新生丸の衛星EPIRB(衛星非常用位置指示無線標識)から発射された遭難警報が衛星を介して1回のみ海上保安庁のMCC(業務管理センター)において受信された。海上保安庁では、巡視船及び航空機の発動を指示し捜索救助活動を開始したが、遭難警報は誤発射であり、新生丸と通話中である旨の情報がもたらされ、一旦発動を解除した。しかしながら、その後、依然として新生丸の安否が不明であることなどが判明したことから、本格的な捜索救助活動を再開したものの、結果的に海難への対応が遅れることとなった。
 このような結果から、運輸省において「漁船『新生丸』海難事故問題対策調査検討会」が開催され、海難に関する情報入手時から捜索救助活動の実施に至るまでの一連の救難活動を、より迅速かつ的確に実施するための方策が総合的に検討され、3月26日に同検討会報告書として取りまとめられた。海上保安庁では、同報告書に基づき、海上保安庁が船舶との直接連絡又は航空機等による直接確認により誤発射か否かの判断を行うこと等、救難活動の改善策を講じ、GMDSS(海上における遭難及び安全に関する世界的な制度)体制下における捜索救助体制を強化することとした。
 なお、本件では、当初「新生丸」の衝突相手船が不明であったが、「新生丸」から採取された塗膜等が類似していること等からパナマ船籍ケミカルタンカー「KAEDE(カエデ)」(総トン数13,539トン、20名乗組)を衝突相手船と特定した。

  [写真] 漁船「新生丸」の状況
  [写真] 漁船「新生丸」海難事故問題対策調査検討会


新日韓漁業秩序への対応(11年1月)

 11年1月22日、日韓間における新しい漁業秩序を構築することを内容とした「漁業に関する日本国と大韓民国との協定」が発効した。同時に「排他的経済水域における漁業等に関する主権的権利の行使等に関する法律(EZ漁業法)」関連の国内法令が改正され、従来は我が国排他的経済水域で自由に操業できた韓国漁船は、我が国の許可を受けなければ排他的経済水域で操業できないこととなった。
 海上保安庁では、この新協定発効後、韓国漁船が多数操業することが予想される日本海、九州周辺、東シナ海等の主要な漁場に重点を置いて、巡視船艇・航空機を配備し、監視取締りに当たっている。
 協定発効翌日の1月23日、長崎県対馬沖の我が国排他的経済水域において、4隻の韓国漁船を無許可操業等で検挙した。その後、6月末までにさらに5隻の韓国漁船を検挙している。
 なお、韓国の排他的経済水域においては、6月末までに韓国の許可を受けないで操業していたとして、我が国漁船が1隻検挙されている。

  [写真] 韓国漁船の無許可操業事件の捜査


大量覚せい剤の密輸入を水際阻止(11年1月、4月)

 11年1月、浜田海上保安部は、警察及び税関と合同で、浜田港に入港したホンデュラス船籍貨物船「MILLION FAIR(ミリオン・フェア)」の捜索を実施、機関室内に設置された消火器の中から1kgずつに小分けされた覚せい剤合計約101kgを発見、差し押さえるとともに、同船船長以下乗組員9名を覚せい剤取締法違反で現行犯逮捕した。
 また、11年4月、境海上保安部は、境港に入港着岸中の中国船籍貨物船「林洋冷2(リンヤンレン2)」の監視を実施し、同船から下船してきた乗組員が、岸壁上に停車中の保冷車乗員に覚せい剤約1kgを渡したところを覚せい剤取締法違反で現行犯逮捕した。その後、警察及び税関と合同で、船内及び積荷の捜索差押を実施したところ、北朝鮮からの積荷(しじみの袋)の中から覚せい剤合計約99kgを発見、押収し、同船船長以下乗組員9名、保冷車乗員等を逮捕した。
 これらの事件は、いずれも継続捜査により、組織的な大量覚せい剤密輸事件であることが判明した。

  [写真] 密輸船
  [写真] 押収した覚せい剤


東京湾中ノ瀬西側海域に整流用灯浮標を設置(11年2月)

 9年7月2日に東京湾中ノ瀬西側海域で発生した大型タンカー「ダイヤモンドグレース号」の底触・油流出事故を契機として、運輸省内に設置された「東京湾等輻輳海域における大型タンカー輸送の安全対策に関する検討委員会」等で、各種安全対策が検討された。
 海上保安庁では、これらを踏まえ、中ノ瀬西側海域における南航船及び北航船の航行経路の指導の徹底、東京湾における航路標識の機能向上等の安全対策を順次講じてきた。
 さらに、11年2月28日、中ノ瀬西側海域におけるより一層の船舶交通の安全を図るため、同海域に整流を目的とした灯浮標3基を設置した。
 なお、これら整流用灯浮標の設置日から3月31日までの間、巡視船艇による集中指導を実施し、新しい航行経路等の周知徹底を図った。

  [写真] 東京湾中ノ瀬西方第三号灯浮標
  [写真] 設置個所


能登半島沖不審船事案への対応(11年3月)

 11年3月23日午前11時頃及び午後1時頃、海上自衛隊から能登半島沖の不審な漁船に関する情報を入手した。海上保安庁では、情報のあった漁船の確認作業に当たったところ、第二大和丸については、兵庫県沖で操業中であることを、また、第一大西丸については、漁船原簿から抹消されていることを確認したため、情報のあったこれら船名の漁船2隻は、いずれも不審船であると判断した。
 これらの確認作業と並行して、巡視船艇・航空機を発動し、現場海域に巡視船艇15隻、航空機12機を出動させ追跡したところ、不審船は巡視船艇・航空機による度重なる停船命令を無視し逃走を続けたため、巡視船艇により威嚇射撃を実施した。しかし、不審船がこの威嚇射撃をも無視して高速で逃走を続けたため、海上保安庁の巡視船艇では速力及び航続距離の問題から追跡困難な状況となり、このような状況を受けて政府としての対策が検討された結果、24日午前0時50分、自衛隊法第82条に基づく海上警備行動が発令されるに至った。
 その後も、海上自衛隊の護衛艦等とともに巡視船により不審船の追跡を継続したが、防衛庁から2隻の不審船は24日早朝までに我が国の防空識別圏を出域したとの情報を入手したことから、巡視船による追跡を断念した。以後、巡視船による周辺海域の警戒を実施したが、不審船の発見には至らなかった。

  [写真] 機銃による威嚇射撃


ディファレンシャルGPSシステムの全国運用開始(11年4月)

 海上保安庁では、港湾や港湾進入域、狭水道などを中心に、我が国沿岸海域における船舶交通のより一層の安全確保と運航能率の増進を図るため、7年度からディファレンシャルGPSシステムの整備を進め、そのサービスエリアを順次拡大し、11年4月1日から小笠原諸島等の一部の遠方離島海域を除く我が国沿岸全域における全国運用を開始した。
 ディファレンシャルGPSシステムは、通航船舶が昼夜を問わず、誤差10m以内の精度で位置測定が可能となるシステムであり、今後、電子海図表示システム(ECDIS)、自動船舶識別システム(AIS)等と組み合わせて使用する際の位置情報としても幅広い活用が期待されている。

  [写真] 全国運用開始セレモニー

 

沿岸海域環境保全情報データベースの運用開始(11年4月)

 海上保安庁では、油流出事故などの海難・事故災害発生時に必要となる沿岸域の情報を迅速かつ的確に提供するため、9年度から油防除資機材の配備状況等の防災情報や社会情報、自然情報などをデータベース化する沿岸海域環境保全情報の整備を行っている。
 11年4月1日からは、本庁と管区海上保安本部間の通信回線網を利用してオンラインとし、沿岸海域環境保全情報のデータを油の拡散状況・漂流予測結果とともに電子画面上に表示できるシステム(沿岸域情報管理システム)の運用を本庁及び管区海上保安本部で開始した。
 このシステムの情報は、今後、国及び地方公共団体等が油防除措置等を行う場合に活用されることが期待できる。

  [写真] 沿岸域情報管理システムの表示画面例


相次ぐ集団密航事犯への対応(11年4月)

 海上保安庁が検挙した不法入国者は、9年に605名、10年に331名、11年は6月末現在、374名となっており、不法入国事犯は依然として跡を絶たない状況にある。
 最近の密航の傾向は、従来の中国漁船等を仕立てたものが減少し、韓国沖合海域において、中国船から韓国漁船に乗り換えてくる集団密航及び貨物船の船内に隠し部屋を設けて潜伏してくる集団密航が増加しており、ますます悪質・巧妙化している。
 11年4月12日には、金沢港においてカンボディア船籍貨物船「ZHEN YANG(ゼン・ヤン)」(総トン数980トン、中国人9名乗組)を立入検査したところ、同船船底部を改造して設けた区画に潜伏していた中国人密航者115名を発見、不法入国容疑で逮捕するとともに、中国人乗組員9名全員を集団密航者を本邦に入らせた容疑で逮捕している。
 海上保安庁では、密航を水際で阻止するため、関係機関との連携を保ちながら、民間団体への協力要請を行うなど情報収集体制を強化するとともに、巡視船艇・航空機による本邦周辺海域における監視取締りを強化し、中国や韓国から我が国に来航する船舶に対する立入検査の徹底に努めている。
 なお、11年3月に中国(公安部辺防局)及び韓国(海洋警察庁)との間で、各々、第2回目の密航取締りに関する協議を開催し、密航防止について、情報交換を行うなど連携強化に努めている。

  [写真] 密航船「ZHENYANG(ゼン・ヤン)」
  [写真] Z号 船内の密航者の状況


第22回国際航路標識協会(IALA)理事会の開催 (11年5月)

 11年5月25日から27日までの間、東京において第22回国際航路標識協会理事会が開催された。我が国での開催は、昭和59年以来15年ぶりである。
 IALAは、航路標識・海上交通管理業務の向上、調和等により船舶交通の安全の確保と経済的かつ迅速な運航を促進することを目的とする国際的な機関であり、昭和32年7月に発足し、11年6月末現在、77か国216機関が加盟している。海上保安庁は昭和34年に加盟し、昭和50年からは理事を務めており、協会の運営に参画している。
 理事会には、17か国(独、濠、日、米、加、英、仏ほか)の各理事が出席し、「ディファレンシャル世界衛星航法システム(DGNSS)業務の性能及び監視に関するガイドライン」、「欧州における中波局の周波数再編成計画」、「船舶通航業務(VTS)の運用目的と役割」について採択されたほか、IALAの将来計画、歴史的灯台保存等の各分野について討議が行われた。

  [写真] 第22回国際航路標識協会(IALA)理事会

 

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