第8章 航路標識業務への取組 T 航路標識の現状と整備
船舶が安全かつ能率的に航行するためには、常に自船の位置を確認し、危険な障害物を避け、安全な針路を把握する必要があり、航路標識は、このための指標として必要不可欠なものである。
海上保安庁は、港湾・航路の整備の進展、船舶の高速化等により変化する海上交通環境に対応するため、これに適応した航路標識の新設整備及び既設標識の光力増大等の機能向上を推進し、また、設置した標識の信頼性を高めるため、老朽化した航路標識施設、機器の代替更新及び標識監視システムの強化等の改良改修を計画的に実施している。
さらに、これら航路標識整備の実施に当たっては、政府全体における公共事業の見直しに対する取組を踏まえ、建設コストの縮減を図るための新技術の開発・活用に積極的に取り組むとともに、事業の新規採択時における費用対効果分析等の評価制度の導入により効率的な整備を推進することとしている。
航路標識は、光波標識(灯台、灯浮標等)、電波標識(ロランC局、ディファレンシャルGPS局、無線方位信号所等)、音波標識(霧信号所)及びその他の標識(船舶通航信号所、潮流信号所)に大別され(第2―8―1図参照)、10年度末現在、光波標識5,348基、電波標識130基、音波標識20基、その他の標識31基、合計5,529基を設置・管理している(第2―8―1表参照)。
1 光波標識
光波標識は、灯光、形象又は彩色によりその位置又は航路若しくは障害物の所在を示す標識であり、このうち、岬の突端等に位置する灯台は、沖合から陸岸に近づく船舶や陸岸に沿って航行する船舶に対して主要な目標・変針点を示し、港の入口又は防波堤の先端等に位置する灯台、灯浮標等は、入出港船舶に対して港、防波堤、水路等の所在を示し、また、主要な航路筋を始め岩礁、浅瀬等に位置する灯浮標、灯標等は、このような海域を航行する船舶に対して安全な水路又は危険な海域を示す役割を有している。
10年度は、57件の新設整備及び675件の改良改修を行った。
11年度は、22件の新設整備及び639件の改良改修を行うこととしている。
あなたが選ぶ日本の灯台50選
海上保安庁と社団法人燈光会では、第50回灯台記念日及び洋式灯台の第一号である観音埼灯台(神奈川県横須賀市)の建設に着手した明治元年から130年目を記念して、「あなたが選ぶ日本の灯台50選」と題して、一般の皆さんの心に残る灯台を選んでいただきました。
全国から応募総数40,465通、応募総票105,451票というたくさんの応募があり、明治初期に建設された灯台、参観できる灯台、地元に昔から親しまれている灯台などが選ばれました。応募されたハガキに添えられたメッセージを紹介します。
- 子供時代を灯台の近くの浜で過ごしました。波の音と灯台の明かりが心の奥底にしみついています。
- デートの時によく灯台までドライブしました。また、結婚記念日は11月1日の灯台記念日です。
- お正月に初日の出を見るために、毎年灯台まで家族で行っています。
- 夏休みを利用して、家族で訪れた灯台です。いい思い出になり子供たちも大変喜びました。
- 嫁いだ島で最初に迎えてくれたのが、船から見えた岬に建つ真っ白な灯台でした。
2 電波標識
電波標識は、電波により船舶の位置又は標識の方向を示す標識であり、広い海域にわたって利用することができ、また、天候に左右されないという特性を有している。このうち、ロランC等の広域電波航法システムは、外洋を航行する場合や視界不良のため陸岸や灯台の光が視認できない場合に、船舶の位置を容易に測定可能とする役割を有し、また、無線方位信号所は、沿岸を航行する際の主要目標点の方位又は障害物の存在を示す役割を有している。
10年度は、ディファレンシャルGPS(第2―8―3図参照)を、これまでに整備された海域に加え、北海道沿岸、日本海沿岸及び南西諸島海域に整備し、小笠原諸島等一部の遠方離島海域を除く我が国沿岸全域において利用可能なシステムとして整備を完了させたほか(第2―8―4図参照)、76件の改良改修を行った。
11年度は、レーダーによる主要目標点や障害物の確認を容易にするためのレーダービーコンの新設整備及び78件の改良改修を行うこととしている。
3 音波標識
音波標識は、音響により灯台等の所在を示す標識であり、霧、吹雪等の多い北海道、三陸等の沿岸に設置されている主要な灯台等に併設され、視界不良のため陸岸や灯台の光が視認できない航行船舶に対して、灯台等の所在を示す役割を有している。
4 その他の標識
(1) 船舶通航信号所
船舶通航信号所は、港内、特定の航路及びその付近水域又は船舶交通のふくそうする海域において、船舶の安全かつ能率的な運航を確保するため、航行船舶の動静等について情報を収集し、船舶の位置、他船の動静等を無線電話若しくは一般電話で通報又は電光表示板で表示する役割を有している。
10年度は、苫小牧船舶通航信号所(北海道)の新設整備及び13件の改良改修を行った。
11年度は、13件の改良改修を行うこととしている。
(2) 潮流信号所
潮流信号所は、潮流の強い海峡において、船舶に対して潮流の流向及び流速の現状と予測に関する情報を、無線電話、無線電信若しくはテレホンサービスで通報又は形象、灯光、若しくは電光表示板で表示する役割を有している。
10年度は、火ノ山下潮流信号所(山口県)の改良改修を行い、11年度は、大浜潮流信号所(愛媛県)の改良改修を行うこととしている。
U 航路標識の保守・運用
職員を常時配置する必要があるロランC局、デッカ局等を除き、航路標識は、そのほとんどが自動化され無人で運用されている。これらの標識の機能を維持するため、船舶、車両又はヘリコプターで定期的に巡回し保守を行っている。
また、無線回線及び電話回線を利用した監視システム等により、航路標識の運用状態の監視を行っており、灯台が消灯する等の事故が発生した場合は、緊急出動し、速やかに復旧している。
航路標識の事故のうち、特に多く、跡を絶たないのが、船舶の衝突による灯浮標等の沈没、位置移動及び破損事故である(第2―8―2表参照)。このため、海上保安庁としては、後続する通航船舶の安全確保のため、船舶運航者等に対して事故防止を呼び掛けるとともに、万が一事故を起こした場合は、直ちに通報するよう指導している。
V 船舶気象通報
沿岸海域を航行する船舶や操業漁船、また、プレジャーボート活動やいそ釣り等の海洋レジャーの安全を図るため、全国各地の主要な岬の灯台等58か所において、局地的な風向、風速、波、うねり等の気象・海象の観測を行い、その現況を無線電話(288kHz〜316kHz又は1670.5kHzが受信できるラジオで聴取可能)、テレホンサービス又はFAXにより提供している(2―8―5図参照)。
テレホンサービスについては、容易に何時でも情報を入手できることから、年々利用者が増えており、10年は、全国33か所で約503万件の利用があった。
10年度においては、「北海道南部・西部海域」、「津軽海峡海域」及び「沖縄本島海域」における整備を実施した。
11年度においては、「鹿島灘・房総周辺海域」、「伊勢湾沖海域」及び「新潟・佐渡周辺海域」における整備に着手するほか、9年度に着手した「山陰西部海域」及び10年度に着手した「北海道南部・西部海域」について引き続き整備を実施することとしている。
W 自然エネルギーの利用及び歴史的・文化財的施設の保全
海上、離島、岬、岩礁、浅瀬等に設置される航路標識は、その立地条件の特殊性から商用電源の利用が困難な状況にあり、商用電源に代わる電源の確保が必要不可欠である。
海上保安庁においては、従来から代替電源を選定する際に、自然環境にやさしく、かつ、省エネルギーを考慮した、風力、太陽光、波力といった自然エネルギーの利用拡大を図っている。
さらに、灯台等の中には、明治時代に建設され、今なお、現役で機能しているものが66基あり、これらの多くが、歴史的・文化財的価値を有している。その中でも特に価値の高いものについて、その価値の保全を図りつつ、現役のまま運用することとしている。
10年度においては、美保関灯台(島根県)の保全工事を実施したほか、尻屋埼灯台(青森県)及び鞍埼灯台(宮崎県)の保全方法について検討を行い、11年度においては、男木島灯台(香川県)及び安芸白石灯標(広島県)の保全方法についての検討を行うこととしている。
自然エネルギーの利用
近年、オゾン層の破壊、地球温暖化等の地球環境問題が世界的にクローズアップされてきているが、その一方で、灯台、灯標、灯浮標といった光波標識の多くは、離島、海上等に設置され、その立地条件から商用電源の利用が非常に困難な状況にあり、これに代わる電源の確保が課題となっていた。
このため海上保安庁では、自然環境にやさしく、かつ省エネルギー化を図りながら、航路標識の電源確保の問題を解決するため、早くから自然エネルギーの利用に着目し、他の分野に先駆けてその実用化を図ってきた。その結果、10年度末までに約5,300基ある光波標識の約30%に当たる1,583基に自然エネルギーを利用しているが、今後とも、更に航路標識分野において、自然エネルギーの積極的な利用促進に努めることとしている。
|
|