第7章 海洋調査と海洋情報の提供 T 管轄海域の確定 1 管轄海域の確定のための海洋調査 海上保安庁は、従来から、我が国の領海等の限界線の基準となる領海基線の確定に必要な低潮線等の基礎資料の収集・調査を行い、領海確定の根拠となる資料の作成を進めてきたところである。 2 大陸棚の限界設定等に係る海洋調査 国連海洋法条約では、沿岸国は領海基線から原則として200海里までの大陸棚を有し、同条約上の一定の要件を満たせば領海基線から200海里を超えて大陸棚の限界を設定することができるとされており、その意志を有する場合には、同条約に基づき設置された「大陸棚の限界に関する委員会」に対し、同条約の効力が生じた日から遅くとも10年以内(我が国の場合、18年7月まで)に、大陸棚の限界についての詳細を裏付ける科学的及び技術的データと共に、その旨を申し出ることが必要とされている。また、沿岸国は、大陸棚の探査及びその天然資源を開発するため、大陸棚に対して主権的権利を行使できると規定されている。 3 海洋測地の推進 我が国を含む各国の海図は、それぞれの国が天文観測等によって決定した測地系(注)によって作られており、近年、人工衛星による測位システムが発達するにつれ、測地系の相違による位置の食い違いが問題となっており、国際水路機関(IHO)は、海図に表示する経緯度は世界測地系に基づくべきことを勧告している。
U 航海の安全確保のための海洋調査及び情報提供 1 航海の安全確保のための海洋調査 海上保安庁は、航海の安全確保のための海洋調査を実施しており、その成果を取りまとめ、水路図誌を刊行するとともに、船舶交通安全通報等として提供している。 (1) 港湾・沿岸・補正測量 港湾の改修等による現況変化に対応し、沿岸域における航海の安全確保のため、海図の新刊、改版のための港湾、沿岸測量及び補正図刊行のための補正測量を実施している。 (2) 海洋測量 外洋域を航行する船舶に利用される航海図を整備することを目的として、測量船により海洋測量を実施している。 (3) 地磁気測量 磁気コンパスを利用する船舶や航空機の安全を確保するためには、海図、航空図に正確な磁針偏差及び年差を記載する必要がある。 (4) 港湾調査 水路誌に港湾の現況を記載するため、10年度は、博多港等81港の港湾調査を実施した。11年度は、京浜港等の港湾調査を実施することとしている。 (5) 潮汐観測 潮汐表の予報精度向上及び海図の基本水準面の決定のため、全国28か所の験潮所において定常的に潮汐観測を実施している。 (6) 潮流・海流観測 海峡や内湾域は、船舶交通がふくそうしていることに加え、強く複雑な潮流が発生するため、船の運航や工事の実施に当たっては、的確な潮流情報が不可欠である。また、外洋に面した沿岸域では、海流や外洋海況の影響を受けて複雑な流れが発生する。このため、これら潮流・沿岸流の観測・解析を行い、潮流図等で情報を提供する必要がある。 (7) 星食、接食観測(注) 電波による測位システムが普及した今日でも、天体を利用した位置決定手法は必要である。この位置決定には、天測暦、天測略暦等の航海用諸暦が用いられ、これらは、我が国で最も詳しい暦である天体位置表に基づき刊行している。このような航海用諸暦の精度の維持に必要となる月の軌道を精密に決定するため、本庁並びに白浜(静岡県)、下里(和歌山県)及び美星(岡山県)の各水路観測所で星食観測を定常的に実施している。10年度は、いわき(福島県)等で接食観測を行った。11年度は、盛岡(岩手県)等で接食観測を行うこととしている。
(8) 海氷・波浪観測 北海道オホーツク海沿岸全域及び道東海域では、冬期、流氷が押し寄せ、船舶の航行、漁業等にとって大きな障害となっている。これら流氷による海難防止を図るため、毎年、巡視船・航空機等により、流氷の分布、動向等の観測を実施しているほか、流氷が存在する期間は、第一管区海上保安本部に流氷情報センターを設置し、情報の提供を行っている。また、外洋における波浪の海域別・季節別特性を解析し、船舶航行の安全に資するため、本州南方等において波浪観測を実施している。 2 航海の安全確保のための情報提供 海上保安庁では航海の安全確保のために必要な水路図誌を刊行するとともに、水路図誌を最新のものに維持するための情報や船舶交通の安全に必要な情報等を提供するため、船舶交通安全通報及び海流通報を実施している。 (1) 水路図誌等の刊行 ア 海図 (ア) 航海用海図 航海の安全確保のために不可欠な航海用海図には、港泊図、海岸図、航海図、航洋図、電波航法用海図、総図及び航海用電子海図(注)があり、10年度末現在、882版を刊行している。
(イ) 特殊図 航海計画の作成に必要な海流、潮流、漁具定置箇所、風向、風速、地磁気偏差等の情報を、海流図、潮流図、漁具定置箇所一覧図、パイロット・チャート、日本近海磁針偏差図等として刊行しているほか、航海中の船舶の位置記入等に供するため、大圏航法図、位置記入用図 イ 水路書誌 航海の安全のために必要な港湾、航路、海象及び気象の概要、航路標識の状況、潮汐・潮流の予報、天体の位置等の情報を水路誌、航路誌、灯台表、潮汐表、天測暦等として取りまとめ、10年度末現在、合計358版刊行している。10年度は、瀬戸内海水路誌、灯台表第3巻等水路書誌17版を新改版した。11年度は、外国船舶の安全対策の一環として、英語版瀬戸内海水路誌を新たに刊行する等水路書誌17版を新改版することとしている。 ウ 航空図 航空機の飛行計画の作成、飛行中の針路及び位置の決定等に使用できるように航空保安無線施設、航空目標及び航法上必要な諸事項を記載した航空図は、10年度末現在、国際民間航空機関の基準による国際航空図12図を始め、これに準じた図式で我が国を北部、中部、南西部の3地域に分けた航空路図3図及び国内航空図10図を刊行している。 (2) 船舶交通安全通報の提供 船舶交通の安全のために必要な情報は、印刷物等により、水路通報、管区水路通報として、また、無線通信等により日本航行警報、管区航行警報、部署航行警報、海上交通情報及び世界航行警報システムによる航行警報(NAVAREA XI航行警報及びNAVTEX航行警報)として提供している。 ア 水路通報 (ア) 水路通報とは、水路図誌を最新のものに維持するための情報並びに船舶交通の安全に必要な航路標識の変更、海上における工事・作業、自衛隊あるいは米軍等が実施する射爆撃訓練等に関する情報を、冊子として週1回発行するとともに、インターネットでも提供しているものである。 (イ) 管区水路通報とは、管区海上保安本部の担任水域及びその付近の地域に密着した船舶交通の安全に必要な情報を、冊子として週1回発行するとともに、インターネットでも提供しているものである。 イ 航行警報 (ア) 日本航行警報とは、太平洋、インド洋及び周辺諸海域を航行する日本船舶に対し、航海の安全のために緊急に通報を必要とする漂流物等の情報を、日本語によりインターネットで定時(海底火山噴火等、特に緊急を要するものについては随時)に提供しているものである。 (イ) 管区航行警報及び部署航行警報とは、日本の沿岸海域を航行している船舶に対し、航行の安全のために緊急に通報を必要とする港則法適用港及びその付近の情報を、その海域を管轄する管区及び部署ごとに無線電話で随時提供しているものである。 (ウ) 海上交通情報とは、船舶交通のふくそうする海域を航行する船舶に対し、航行の安全のために通報を必要とする情報を無線電話、電光表示板等で定時又は随時に提供しているものである。 (エ) NAVAREA航行警報とは、世界航行警報システムに基づき大洋を航行する船舶の通航海域に係る情報を提供しているものである。 (オ) NAVTEX航行警報とは、世界的に統一された航行警報であり、各国が沿岸海域において、航行の安全のため緊急に通報を必要とする漂流物等の情報をNAVTEXシステムにより提供するものである。 (3) 海流通報の提供 船舶交通の安全及び能率的な運航に必要な情報として、日本周辺海域における海流、海氷等の海況を取りまとめ、インターネット等により海流通報として提供している。 V 海洋情報の管理・提供 地球表面の約7割を占める海洋は、その構造や膨大な資源等の多くが未知のものであり、この海洋を解明することは人間生活の向上に重要なことである。 1 日本海洋データセンターの運営及び情報提供 海上保安庁は、政府間海洋学委員会(IOC)の決議及び海洋科学技術審議会(海洋開発審議会の前身)の答申を受けて、昭和40年に日本海洋データセンター(JODC)の前身である海洋資料センターを設立した。 2 国内における情報提供 海上保安庁では、海運、水産、海洋レジャー、海洋の利用・開発など海洋データ・情報の利用者のための提供窓口として「海の相談室」を開設して、潮流・潮汐等の海洋データ・情報や海に関する質問・相談に応じている。 |
||||||||||||||||||||||||
【 図表等 】
|