第6章 自然災害への対応

 我が国はいくつものプレートが複雑に接する世界でも希な地域に位置していることから、地震や火山活動が活発であり、過去に幾度となく、これらによる被害が発生している。
 また、気象的にも梅雨前線や秋雨前線の停滞、あるいは夏季から秋季にかけて襲来する台風の進路上に位置するなど、自然災害の発生する危険性の極めて高い地理的条件を有している。
 海上保安庁では、防災業務計画等を作成し、災害発生時には迅速・的確な救助活動等の災害応急対策がとれるように体制を整備しているが、これらの災害の発生は、予測が困難な場合が少なくなく、今後とも、巡視船艇・航空機の充実等により、情報伝達や救助活動の応急対策を迅速・的確に講じることができる体制を整備していく必要がある。

 1 自然災害対策

  (1) 応急体制の整備

 海上保安庁では、災害の発生等に備えて、24時間の当直体制をとるとともに、巡視船艇・航空機を配備している。
 災害が発生した場合には、直ちに配備中の巡視船艇・航空機による被害状況の調査や救助活動、対策本部の設置等の災害応急対策に係る体制を確保することとしている。
 また、中央及び地方の防災会議への参加等を通じて、防災計画の策定等に積極的に取り組むとともに、災害発生時の情報連絡体制や災害応急活動を実施する際の関係機関との連携体制の確保を図っている。

  (2) 防災拠点の整備

 58年の中央防災会議の決定に基づき、南関東地域に広域的な災害が発生した場合における災害応急対策の拠点として、防災関係機関が立川広域防災基地の整備を実施し、海上保安庁では、6年7月から運用を開始している。また、同決定に基づき、東京湾及び関東一円で大規模な海上災害が発生した場合の海上防災活動の拠点として、横浜海上防災基地の整備を実施し、8年4月から本格的な運用を開始している。

  (3) 沿岸防災情報図の整備

 海上保安庁では、地震、津波等の自然災害が発生した場合における海上からの救難・救助活動を迅速かつ適切に実施するために必要な情報を、一枚の図に網羅した「沿岸防災情報図」を整備し、防災関係機関に配付している。
 11年度は、関東、関西、九州南部及び北海道地方について調査することとしている。
 今後も、自然災害発生の蓋然性の高い地域について、引き続き同図の整備を進めていくこととしている。

  (4) 防災訓練の実施

 海上保安庁では、災害が発生したときの職員の呼集、情報の伝達、海難救助、消防、排出油の防除等に関する訓練を地方公共団体や関係機関と合同で、地域の特性に応じて実施している。 
 特に9月1日の「防災の日」を中心に、国が実施する総合防災訓練の一環として対策本部設置運営、情報伝達、巡視船艇・航空機動員手続等の訓練を実施するとともに、東京湾、相模湾、駿河湾、伊勢湾等において、地方公共団体や関係機関等と連携して、情報伝達、人命救助、排出油の防除、船舶火災の消火等船艇・航空機を用いた実働の防災訓練を行い、相互の連携を深めている。

 2 防災のための調査

  (1) 地震に関する調査研究

 文部省測地学審議会において、昭和39年に地震予知研究計画が建議され、現在は10年になされた建議に基づき、「地震予知のための新たな観測研究計画(11〜15年度)」が進められている。また、地震防災対策特別措置法に基づき総理府に設置された地震調査研究推進本部において、11年4月に「地震調査研究の推進について」が決定され、これらにより、関係機関は地震予知に関する調査、研究を行っている。
 海上保安庁では、当初の地震予知研究計画から参加し、水路業務で培った高度な海底測量技術等を活用して、次のような地震予知に関する調査研究を行っている。

  • 活断層の分布や性質を明らかにするため、特定観測地域の周辺海域やプレート境界域において、海底地形・活断層調査等を実施(第2―6―1図参照)。
  • 地盤の上下変動をとらえるため、全国28か所の験潮所において、 験潮データを常時監視できる、テレメータによる潮位の集中監視を実施。
  • 地磁気の変化から地殻の歪みの変化を把握するため、伊豆諸島において、地磁気・地電流観測を実施。
  • 海域の地殻変動を明らかにするため、ディファレンシャルGPS等を利用した地殻変動監視観測並びに伊豆諸島の一部における重力計による重力測定を実施。
  • 地震発生に関する長期的予測に資するため、比較的人口密集度の高い、又は活動度の高い断層が存在すると想定される沿岸海域において、活断層の分布や活動履歴の調査を実施。
  • 地殻の歪みを発生させる原動力であるプレート運動を把握するため、石垣島ほか3か所において年1か所ずつ、人工衛星レーザー測距観測を実施。

 これらの成果は、地震調査研究推進本部地震調査委員会等に報告され、海域における断層の分布、性質、地殻の歪量等といった地震発生のメカニズム解明のための基礎資料にされているほか、「海底地形図」、「海底地質構造図」、「地磁気全磁力図」、「重力異常図」として刊行している。

伊豆諸島の岩礁などでGPSによる地殻変動監視観測を開始

 伊豆諸島などの南関東地域は、地震調査研究の観測強化地域に指定され、地震予知のための新たな観測研究計画に基づき、各関係機関により地殻変動観測が精力的に行われている。
 しかし、伊豆諸島の多くは火山島であるため、火山活動に伴う島内部の地殻変動が大きく、GPS等によって地殻変動が検出されても、それが地域全体の動きを反映したものなのか、火山島の局所的な変動なのか判然としない場合があった。
 海上保安庁では、火山活動による地殻変動の影響の少ない岩礁等(神子元島、鵜渡根島、祇苗島、恩馳島、地内島、銭洲、大野原島)で定期的に観測を行い、この地域の地殻変動をより詳細に明らかにするため、11年度からGPSによる地殻変動監視観測を開始した。
 さらに、南関東の験潮所において、潮汐観測に併せて、新たにGPSの常時観測を開始した。潮汐観測により、地殻の隆起や沈降をとらえることができるが、このような潮汐観測とGPSによる地殻変動観測の結果を組み合わせることにより、より詳しく地殻の上下変動を把握することが可能となった。

  (2) 火山噴火予知計画への参加

 測地学審議会において、昭和48年に火山噴火予知計画が建議され、現在は10年になされた建議に基づき、第6次計画(11〜15年度)が進められている。
 海上保安庁では、火山噴火予知計画に当初より参加しており、航空機による南方諸島及び南西諸島海域の火山活動観測、海底火山の地下構造解明のための航空磁気測量を行っているほか、無人調査が可能な「マンボウU」等による海底の地形調査等により、海底火山に関する基礎資料を整備することとしている。
 さらに、航空機及び人工衛星から取得したデータの解析を行っている。

海底火山「明神礁」周辺の精密な海底地形が明らかに

 海上保安庁が進めている海域火山基礎情報図の整備のため、9年度末に就役した測量船「昭洋」及び無人で海底地形や水温などの調査が可能な同船の特殊搭載艇(愛称「マンボウU」)により、南方諸島の海底火山「明神礁」周辺の海底地形、海底地質構造、重力、地磁気、地震等の調査を行い精密な海底地形を明らかにした。
 明神礁は、これまでにしばしば噴火を繰り返しており、昭和27年9月には同礁を調査中の海上保安庁測量船「第五海洋丸」が海底火山の爆発に巻き込まれ、乗組員及び調査班31名全員が遭難殉職するという悲劇を起こしている。

 

【 図表等 】

第2―6―1図 新潟・能登沖海域鳥瞰図
第2―6―2図 GPSによる地殻変動監視観測点
第2―6―3図 明神礁付近の海底地形3次元表示

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