第4章 新たな事案への対応

 1 インドネシア危機邦人救出への対応

 10年5月、インドネシア国内において不安定な政治情勢を背景に、学生、市民等による略奪暴行等が行われ、これを鎮圧するために投入された治安部隊との間で衝突が起きる等、その状況は予断を許さないものとなった。このため、政府一体となって在外邦人の退避が進められ、海上保安庁では、外務大臣から邦人等の輸送に係る協力要請を受けて、ヘリコプター搭載型巡視船2隻を同国方面へ派遣した。
 両船は、那覇港にて邦人輸送に必要となる毛布・食料等の物資の積み込みを行ったのち、特殊救難隊員等の海上保安庁職員、連絡要員としての外務省職員、厚生省国立国際医療センターの医師・看護婦からなる上乗り要員を乗せて出航し、シンガポール港で待機していたところ、現地情勢が安定を取り戻したことから、外務大臣からの撤収要請を受けて本邦に帰還した。

 2 北朝鮮の弾道ミサイル発射等への対応

  (1) 北朝鮮の弾道ミサイル発射への対応

 10年8月31日、北朝鮮が何ら通告・警報なしに日本の上空を飛び越える形で弾道ミサイルの発射を行った。ミサイルの一部は、主要な貿易ルートであり、かつ、主要な漁場である日本海の中部及び三陸沖の太平洋に落下したものと推定された。
 海上保安庁では、ミサイル発射の情報を受け、直ちに巡視船・航空機を落下予想海域に向かわせるとともに、航行船舶の被害の確認等関連情報の収集に当たった。
 その後、10年9月、国際海事機関(IMO)及び国際水路機関(IHO)に、北朝鮮に対しIMO総会決議(航行警報業務に関する勧告)の遵守について、適切な指導を行うよう書簡により要請を行い、同月、両機関から総会決議の遵守を促す書簡が発出された。
 さらに、10年12月、ロンドンで開催されたIMO第70回海上安全委員会において、「北朝鮮によるミサイル発射が、船舶航行の安全に重大な脅威を与えるおそれがあったことを指摘し、北朝鮮を含むIMO加盟各国に対し、航行の安全を最大限に重視し、国際海運に悪い影響を及ぼしうるいかなる行為も避けること、及び航行の安全を脅かすことのないように、IMO総会決議を厳格に遵守することを要請する」旨の我が国提案の回章案が審議・承認された。
 北朝鮮による弾道ミサイルの再発射につき、海上保安庁では、これらの情報を入手次第、事実を確認し、船舶交通の安全を図るため、迅速に、必要な航行警報を出す等の措置をとるよう体制を整えている。

  (2) 北朝鮮半潜水艇撃沈事件等への対応

 韓国領海内に侵入した北朝鮮半潜水艇を追跡していた韓国海軍が、10年12月18日、長崎県対馬南西の公海上において同半潜水艇を撃沈する事件が発生した。

 済州島東約70海里付近において電波標識の定点測定を行っていた航路標識測定船「つしま」は、韓国海軍が不審船を射撃する模様を目撃した。
「つしま」は、照明弾らしきものを視認したため、これを確認すべく接近したところ、北緯33度40分、東経128度14分を中心に半径1.4海里内に6隻の艦船がいることをレーダー映像から確認し、午前5時から6時30分までの間、対水艦砲射撃が艦隊中央に向け集中的に行われるのを目撃した。上空には対潜しょう戒機らしき航空機が1機しょう戒しており、照明弾は4時45分から日の出まで継続して打ち上げられていた。

 海上保安庁では、直ちに航行警報を発出するとともに、「つしま」と巡視船艇・航空機により現状を確認し、地元漁協、船会社等関係者に対して幅広く注意喚起及び安全指導を実施した。
 また、同月21日には、長崎県五島漁協所属の漁船が上記の撃沈事件付近海域において警戒中であった韓国艦船から停船命令を発令されたが応答しなかったため、北朝鮮の工作船と間違われ、韓国艦船から威嚇発砲を受けるという事件が発生した。このため、海上保安庁では、現場海域に巡視船艇を配備し、付近航行船舶に対する安全指導を一層強化した。
 同海域における安全指導は、韓国による同半潜水艇の引揚げ作業が終了した11年3月末まで継続して実施した。

次のページへ第2部第1章