海上保安レポート2004(概要)長官からのメッセージ(抜粋)私たちは、「海」の犯罪に対して、どのような活動を行い、今後どのような対策を講じていくのかについて紹介し、少しでも「海」に関係する犯罪への不安感を払拭していただきたいという思いから、海上保安庁が取り組んでいる治安対策を特集として取り上げました。 このレポートにより、海上保安官一人一人が国民の生活をより良いものにするため、努力を続けていることをご理解ください。 海上保安庁長官
トピックス「北朝鮮籍の貨客船「万景峰92」号入港への対応」、「尖閣諸島における領海警備」、「伊勢湾海上交通センター運用開始」、「福岡航空基地の機動救難士出動100件達成」、「国連への提出に向け、大陸棚調査が加速」など、平成15年4月から平成16年3月までの間に発生した事例13件をピックアップして紹介しています。数字で見る海上保安庁海上保安官が、日本国民の暮らしに直接関わる業務に日々従事していることを示す、平成15年の日本と海上保安庁に関わる「数字」を紹介しています。海上保安庁の体制・業務海上保安庁の定員は12,297人です(平成16年度)。日々変化する社会のニーズに応えていくため、海上保安官一人一人の能力を最大限に発揮できる体制と、海上保安庁に求められる業務の多様性を視覚的に表現しています。特集 海の犯罪・海保の対応1 「海」の安全・安心四囲を海に囲まれた我が国。「海」は平成13年に発生した「九州南西海域における工作船事件」など、我が国を震撼させる犯罪の舞台でもあるのです。海上保安庁は、「法令の海上における励行、海上における犯罪の予防及び鎮圧、海上における犯人の捜査及び逮捕」を任務とし、海上の治安の確保を担っています。 2 海上の犯罪と時代背景「犯罪」は発生した時代背景と大きく関わっています。犯罪が発生する要因、犯罪を犯す人々、犯罪の内容などその時代によって変化しています。ここでは、海上保安庁の創設期から現在までの時代背景と海上犯罪の概要、そしてこれに対して海上保安庁がとってきた対応について紹介しています。3 目前の犯罪への対応複雑化する現代社会における犯罪に対して、海上保安庁が推進している犯罪対策を紹介します。(1)テロ対策平成13年に発生した米国同時多発テロ事件以降、世界的にテロ情勢が緊迫しています。海上保安庁では、「海上保安庁国際テロ警備本部」を設置し、テロ対策の検討、テロ発生時の指示体制を確立しています。また平時から臨海部の米軍施設、原子力発電所等の重要施設の警戒を実施しています。 さらに、国際テロ対策を強化するため、新規施策として、@改正SOLAS条約への対応、A港湾における水際対策、BPSIへの対応に取り組んでいます。 (2)不審船・工作船対策平成13年12月の「九州南西海域における工作船事件」の発生は、我が国周辺海域に工作船が徘徊し、薬物の密輸など重大な犯罪を巻き起こしているという不安感を植えつけました。海上保安庁では、これらの不審船・工作船へ的確に対処するため、法制面、装備面、運用面での対策の強化を進めており、不審船・工作船の出現に対し、厳格に対処していきます。 (3)密輸・密航対策薬物や銃器の密輸及び密航事犯は、国際的な組織犯罪に変化しています。これらの犯罪は一旦国内に入ってしまえば、その摘発は極めて困難なものとなります。これらの犯罪に対しては、水際で阻止することが最も有効であり、国内関係機関と緊密に連携・協力し、適切な対策をとっています。 また、国際犯罪組織の摘発のためには、諸外国関係機関との連携強化が不可欠であり、情報交換などを積極的に実施しています 。 さらに、現場部署の体制強化のため、管区本部に国際刑事課などを設置し、情報収集・分析体制、広域的捜査体制の強化を図っています。 (4)海上環境対策海洋環境保全思想の高揚や、これに伴う各種規制・取締り活動の強化など、環境を保護するための活動は活発化している一方、廃棄物の不法投棄、汚水の不法排出は後を絶ちません。これらの手口も悪質、巧妙化が進んでいます。近年都市部で発生した廃棄物が海域に投棄される蓋然性が高まっていることから、関係機関との連携を強化し、情報を共有するとともに、監視体制の見直し・強化、情報収集体制・分析能力の強化、鑑識体制の整備を図り、海上環境事犯の未然防止とさらなる事犯の摘発に向け監視・取締りを強化していきます。 (5)密漁対策近年の国内密漁事犯は、組織化や供用船舶の高性能化により、悪質・巧妙化の様相を呈しています。また、我が国の排他的経済水域内、及び領海内で違法操業を行う外国漁船は後を絶ちません。 海上保安庁は日本各地で頻発する密漁事犯の取締りを積極的に実施していますが、密漁事犯は隠密裏に実施されることが多いため、犯行現場を現認することが難しく、犯罪の痕跡も残りにくいのが実情です。 海上保安庁では、悪質密漁事犯の摘発のための体制の整備等を実施していきます。 (6)領海警備尖閣諸島等我が国固有の領土に対して、周辺国の領有権主張活動が続いています。これらの周辺国の動きに対し、我が国としての姿勢を示していくことが求められます。海上保安庁では、このような海域に巡視船艇を配備し、また定期的に航空機によるしょう戒を実施しています。 (7)外国海洋調査船等への対応我が国では、通報のない外国海洋調査船については、その調査活動を認めないこととしています。外国の海洋調査船については、巡視船艇・航空機による監視を実施し、同意のあるものに対してはその同意の内容を確認するとともに、同意のないものに対しては、中止要求を行っています。 本編海上交通の安全のために1.船舶交通の安全を確保するための航行支援資源が乏しい我が国は、資源の多くを外国から輸入しており、その多くは船舶輸送に頼っています。海上保安庁は、船舶交通の安全の確保のため、@AISを活用した次世代型航行支援システムの構築、A船舶交通の効率化に向けた船舶交通体系の検討、B海上交通情報機構の拡充、C航路標識の高機能化・高規格化及び機能維持に取り組んでいきます。2.航海の安全のための情報提供海難の防止や、船や貨物などの財産及び自然環境を守るため、航海の安全に必要な情報を提供することで、海難船舶隻数の減少を目指します。そのため、@海図の刊行、A水路書誌の刊行、B水路通報・航行警報を実施しています。人の命を救うために1.海難救助海上保安庁では、海難及び船舶からの海中転落者による死亡・行方不明者を平成17年までに200人以下に減少させるという目標を設定しています。また海難情報を素早く入手するため、遭難警報を24時間聴守しています。また緊急通報用電話番号「118番」の周知、携帯電話等の適切な連絡手段の確保及びライフジャケットの着用を指導した自己救命策確保キャンペーンを推進しています。また、救助能力の強化として、福岡航空基地の機動救難士に加え、平成16年4月に函館、美保及び鹿児島の各航空基地に機動救難士を配置しています。 2.マリンレジャーの安全推進海上保安庁では、マリンレジャーに伴う事故防止のため、全国各地でボート天国を実施し、安全に関する意識、マナーの向上に努めています。また、(社)日本水難救済会や、会員制救助サービスBANなど、民間救助機関の活動を積極的に支援しています。 安心できる暮らしと環境を守るために1.海上災害対策海洋への油・有害液体物質排出事故、原子力災害等の人為的災害による被害を最小限に食い止めるため、船艇・資機材の迅速な動員と防除措置体制の確立、情報収集体制の強化、近隣諸国との協力体制の構築の強化に努めます。地震等の自然災害発生時における人命・財産等の被害を最小限に食い止めることに取り組んでいます。平成15年は「宮城県沖を震源とする地震」、「宮城県北部を震源とする地震」、「平成15年十勝沖地震」のような大規模地震が発生しました。海上保安庁はこれらの大規模地震に備え、関係機関との合同訓練の実施、海底地殻変動の観測の強化、津波防災情報図の整備などを実施しています。 また、地震発生の予測に向けた調査、海域火山活動の監視に努めています。 2.海洋環境保全対策海上保安庁では、「指導・啓発活動」、「海洋汚染調査」、「監視取締り」の3つの手法を組み合わせて海洋環境保全対策に取り組んでいます。また、関係省庁や自治体を連携した、大都市圏の「海の再生」の推進や、地球温暖化などの地球環境問題への取組みも進めています。国内外関係機関との連携・協力近年複雑化する国内外の様々な問題に対しては、我が国のみでは対応困難な問題が少なくありません。これらについては国内関係機関、近隣諸国と連携を密にし、協力関係を強化しています。1.大陸棚の限界画定のための調査海上保安庁では、「大陸棚限界画定に向けた今後の基本的考え方」に基づき、関係省庁との緊密な連携を図りつつ、海域の科学的データを得るために必要な調査を、引き続き着実に推進していきます。2.国際的な連携・協力の推進グローバリゼーション化の進展に伴い、犯罪の国際化、広域化が問題となっています。また、テロリズムが深刻な脅威となっていることを踏まえ、海上テロ防止のため、各国の海上保安機関との連携・協力を推進していきます。また、日本海及び黄海の海洋環境保護を目的としたNOWPAPに参画しています。その他、東南アジアにおける海上保安機関設立への支援や、国際緊急援助活動への協力などにも積極的に協力しています。 海上保安庁を支える装備等海上保安庁の業務が、社会のニーズに的確に対応するためには、装備を常に備えておき、その能力を常時発揮できるようにすることが重要です。海上保安庁では、現在514隻の船艇、75機の航空機でその業務を遂行しています。また、社会情勢の変化、業務遂行能力の向上のため、装備の調査、研究及び開発を行っています。さらに、海上保安庁の業務は情報を迅速・的確に収集し、伝達することが重要です。このため、遭難警報を常時聴守できる体制の確保、海上安全情報の提供を実施するとともに、現場画像をリアルタイムで伝送する体制を確保しています。 その他「海上保安官になるために」(海上保安大学校、海上保安学校の紹介)、「資料編」のほか、コラムとして「船艇紹介」(トピックスに登場した巡視船艇の紹介)や「地方探訪」、「海上保安庁Q&A」、「航空機の歴史」を掲載しています。付録
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