海上保安レポート2003の概要

長官からのメッセージ

平成14年9月11日は、米国同時多発テロ発生から1年を迎えた日であるとともに、奇しくも「工作船」を引き揚げた日です。九州南西海域における工作船事件は、我が国周辺をこのような武装した犯罪共用船舶が徘徊しているという事実を、多くの方に理解していただく契機になったと思います。

今回のレポートでは、海上保安庁が国境を守るという我が国の基本を支える業務と、国民生活の基盤とも言うべき船舶交通に関する業務を特集として取り上げました。

このレポートにより、海上保安官一人一人が国民の生活をより良いものにするため努力を続けていることを、ご理解下さい。

トピックス

 「九州南西海域における工作船事件の捜査」、「サロマ湖沖のプレジャーボート海難」、「AISの実証試験」、「日本海呼称問題」など、平成14年5月から平成15年4月までに起きた事柄から17件をピックアップして紹介しています。

数字で見る海上保安庁

 海上保安官が、日本国民の暮らしに直接関わる業務に日々従事していることを示す、平成14年の日本と海上保安庁に係わる「数字」を紹介しています。

特集1 国境を守る海上保安庁

 四面を海に囲まれた我が国にとって「海」は「国境」です。国内への犯罪の流入を阻止し、治安を確保することにより、我が国の主権を確保する、さらには排他的経済水域において我が国の権益を確保するという業務は、海上の警察機関である海上保安庁が担っています。

1.不審船・工作船への対応

 海上保安庁がこれまで確認した不審船・工作船は21隻です。不審船・工作船は重大犯罪に関与している疑いが濃く、その行動目的や行動実態を解明するため、海上の警察機関である海上保安庁が第一義的に対処することとなっています。また、そのために必要な装備や運用体制の整備を進めています。

コラムでは九州南西海域における工作船事件について、事件への対応、潜水調査と引揚げ作業及び捜査結果をまとめています。

2.領海内における不法行為・特異行動船舶への対応

 平成14年に我が国の領海内で不法行為又は特異な行動を行った外国船舶を442隻確認しました。このような船舶に対して、中止要求、警告退去、検挙などの厳正な対応を行いました。

3.国境の最前線における対応

 尖閣諸島、竹島、北方四島周辺海域については、巡視船の配備などを行い政府の方針に従って的確に対応します。

4.外国人漁業の取締り

 平成14年の外国船舶の無許可操業等の検挙件数は14隻でした。海上保安庁は悪質な事犯の多い外国人の不法操業を取り締まるため、水産庁等の関係機関との連携、新たな捕捉用資機材の開発・整備などを実施します。

5.外国海洋調査船への対応

 平成14年には我が国の排他的経済水域において15隻の海洋の科学的調査を行っている外国海洋調査船を確認しました。このうち4隻の中国海洋調査船は我が国への事前通報がない、又は事前通報の内容と異なる調査を行っており、巡視船艇・航空機により追尾監視・中止要求を行い、外交ルートを通じ中止要求を行いました。

特集2 船舶交通を支える海上保安庁

1.船舶交通と生活の関わり

 船舶交通は私たちの生活を支える重要な社会基盤です。海上保安庁は船舶交通の安全を確保する業務に全力で取り組んでいます。

2.船舶交通の安全確保とは

 海上保安庁は国際的なルールに基づき、船舶の交通ルールの立案・運用や安全指導を行っています。また、灯台や浮標といった航路標識を設置して船舶への情報提供を行っています。この両者が一体となって船舶交通の安全確保がなされています。

3.時代のニーズを反映し続ける船舶交通
1)暗黒の海からの脱却(昭和20年代)

 昭和20年代は戦後の混乱が続き、船舶交通の安全の基盤は全く失われていました。この「暗黒の海」をいち早く安全な海にするため、航路標識をすべて海上保安庁の管理下に置くとともに、港ごとの船舶の交通ルールを全国共通とする港則法を制定しました。

2)経済発展を支える船舶交通(昭和30年代)

 経済発展に伴い、海難が徐々に増加してきたのがこの時代です。海上保安庁は海難防止のための啓蒙活動を行い、その結果海難の発生は減少傾向に転じました。

 また、航路標識の数が増加するのに対応して「集約管理計画」を策定しました。

3)大規模海難との戦い(昭和40年代〜昭和50年代)

高度経済成長の中、船舶の大型化、専用化が進み、自動化、合理化された船舶が一般化してきました。

このため、船舶交通がふくそうする海域における特別な交通ルールを定めた「海上交通安全法」を制定しました。また、自船の位置を簡単に求めることができるデッカ、オメガといった電波標識の整備、運用を開始しました。

 また、東京湾などの船舶交通がふくそうする海域において情報提供と航行管制を一元的に行う「海上交通センター」を設置しました。

4)海洋利用の多様化への対応(昭和60年代以降)

昭和60年代にはいると、マリンレジャーを楽しむ人が増加しました。

 マリンレジャーの多様化にあわせて海の歩行者天国とも言える「ボート天国」を昭和63年から毎年全国各地で開催し、マリンレジャーの健全な発展と海難防止思想の普及・啓蒙に寄与しています。

 また、広域電波広報システムであるロランCを米国から引き継ぐとともに、GPSの民間利用が普及したことに伴い、狭水道などにおいて高精度の測位を行うディファレンシャルGPSの運用を開始しました。

4.新たな時代への対応
1)船舶交通に求められる新たなニーズ

21世紀を迎えた今日、AIS(船舶自動識別装置)等の新たな航行支援装置も登場していますが、漁業活動、マリンレジャー活動の多様化により、海上の利用形態はますます複雑化しています。また環境問題への対応など、船舶交通政策に求められる課題は多岐に及んでいます。

2)新たな船舶交通安全政策の展開

海上保安庁では、これまで事故を起こさないことを最重要課題とするとともに、国土の均衡ある発展に向けた航路標識の整備を行ってきましたが、安全性の更なる向上とともに効率性や環境に配慮していくことが必要です。

そのため、海上保安庁では新たな「交通部」という組織の下、航行安全業務と航行援助業務を一元的に実施し、安全性と効率性が両立した船舶交通環境を創出するという政策方針としました。今後、海上ハイウェイネットワークの構築といった様々な施策に取り組んでいきます。

治安を維持するために

テロ対策をはじめとした警備活動の展開

 絶対に許すことのできないテロ行為を未然に防止し、万が一発生した場合は的確に対処するため、巡視船艇・航空機による警備活動を実施しています。

 平成14年は2002年ワールドカップサッカー大会に伴う警備など所要の警備を行いました。爆破物の使用を含む船舶に対するテロなどの高度な知識と技術が要求される事案には、特別な訓練や研修を受けたテロ対処部隊を投入することとしています。

密輸・密航対策

今、日本はかつてないほど海外からやってくる犯罪の脅威にさらされています。平成14年に薬物の押収に関与した件数は4件で、海上保安庁単独又は関係機関と合同で検挙した密航事件は13件でした。

 巧妙な密輸・密航事犯を水際で阻止するため、国際組織犯罪対策基地を活用し、内外関係機関との情報交換・連携協力を強化し、国際的な組織犯罪に対する取締りを推進しています。

国内密漁対策

貴重かつ有限な水産資源が枯渇することのないように、海上保安庁は密漁の未然防止や悪質な事犯の取締りに取り組んでいます。

 平成14年の密漁事犯の送致件数は1,046件でした。今後も引き続き暴力団の資金源となる悪質密漁の摘発水準の向上に重点を置き、情報収集・分析体制の強化、捜査能力の向上、必要な装備の整備を実施していきます。

海賊対策

海賊の頻発する東南アジア海域は我が国の海上貿易における輸入量の半分以上が通る地域です。平成14年の日本関係船舶の被害件数は16件でした。海賊対策の強化には、各国の海上警察力の向上や連携が必要です。海上保安庁は東南アジア各国に巡視船・航空機を派遣し連携訓練を実施するとともに、各国の海上警備機関職員の人材育成を図るなど積極的に貢献しています。

海の安全を確保するために

海難の救助

船舶海難及び船舶からの海中転落による死亡・行方不明者を平成17年に年間200人以下に減少させるよう目標を設定しています。海上保安庁では、海難等の発生に備え、遭難警報の24時間聴取など即応体制に万全を期すとともに、民間救助組織の活用によるレスキューネットワークの構築に努めています。また、皆さまに対しては、ライフジャケットの常時着用、携帯電話等の連絡手段の確保、緊急通報用電話番号「118番」の有効活用を基本とする自己救命策確保キャンペーンを推進しています。

マリンレジャーの安全推進

釣りなどのマリンレジャーについても、海上保安庁では事故による死亡・行方不明者の減少を目指しています。生存率を見ても、ライフジャケットの有効性は明らかとなっていることから、ライフジャケットの着用を積極的に推進しています。また、広く一般の方々が海で遊び、海と親しみつつ、海から安全を学ぶ環境づくりを応援するという、事故防止に向けた新たなアプローチとして、海道の旅(マリンロード構想)を関係機関と連携して推進しています。

航海の安全のための情報提供

海上保安庁では航海に必要な情報をわかりやすく速やかに提供し、海上交通の安全を図っています。平成14年は紙海図、航海用電子海図等の刊行や水路書誌の刊行、水路通報・航行警報の発出等を行いました。今後、英語版海図の刊行や電子海図に係る付近関係国への協力などに取り組みます。





安心できる暮らしと環境を守るために

海上防災対策
・事故災害対策
事故から人命・財産を守り海上輸送の安全を守るため、海上災害の未然防止、被害の拡大防止に取り組んでいます。平成14年は、海上保安庁が防除措置を講じた油排出事故は237件で、船舶火災は102件です。防災対策として地震等の自然災害発生時における人命の保護や海洋への油・有害液体物質流出事故、原子力災害等の人為的災害による被害を最小限にくい止めることを目標としています。このため、消防艇の配備等消防体制の強化、油防除資機材の整備、火山、津波等防災情報の調査、隣国同士の連携協力等を図ることとしています。



・自然災害対策
自然災害による人命・財産の被害を最小限とするために、海上保安庁は全力で取り組んでいます。今後は、海上保安庁の東海地震対策の見直し、地震・火山活動に関する精度の高い事前情報の提供、地震発生の予測にむけた調査、海域火山活動の監視に努めます。


海洋環境保全対策

海上保安庁では、かけがえのない海洋環境を保全するために「国民への指導啓発活動」、「汚染調査」、「取締り」を一体的に推進しています。また関係省庁、自治体と連携した東京湾再生プロジェクトの推進や、地球温暖化などの地球環境問題への取組みも進めています。




グローバル化する業務ニーズに対応するために

近年のグローバル化の影響で、密輸や密航などの国際組織犯罪や地球規模での環境問題など、我が国一国では対応しきれない問題が山積みしています。海上保安庁では、北太平洋地域海上保安機関長官級会合の開催、日本海及び航海での海洋汚染対策を目的とするNOWPAPへの参画、ロシア、中国、韓国等の二国間における連携・協力の強化、フィリピン沿岸警備隊海上保安人材育成に関するプロジェクトへの協力及び日本海洋データセンターの運営を推進していきます。

海上保安庁の体制

体制、予算

 海上保安庁の定員は女性323名を含む、12,258人(平成15年度)です。長官の下に本庁組織を置き、全国に管区海上保安本部などの官署を配置しています。予算は総額1,689億円(平成15年度)で、国民一人あたり約1,341円の負担となります。

装備

海上保安庁は519隻の船艇、75機の航空機を保有しています。平成15年度は不審船・工作船への対応能力を強化するための巡視船の整備などを行います。

付録 (CD-ROM等)