「海上保安レポート2002」について(概要)

はじめに

 海上保安庁が取り組むべき課題は、治安の維持や海上交通の安全確保、海難の際の救助、海上災害・海洋環境の保全など多岐にわたっています。その中でも、テロ対応や不審船対策とともに、密航、密輸、海賊など、海を通じ、また、海を舞台として行われる組織犯罪の抑止は、海上保安庁の最も重要な課題の一つです。

 そこで、今回のレポートでは、特集として「海の治安は海保におまかせ!」を取り上げ、海上保安庁が海の治安を維持していくうえでの課題や取り組みについてまとめました。また、発足以来約130年の歴史のある水路部が、政策遂行にふさわしい姿に変身すべく、今年4月に海洋情報部として生まれ変わりました。このため、もう一つの特集として「海洋情報部に注目!」を設定しました。一方、本編では、平成13年に海上保安庁が目標達成のためにどのように取り組んできたのかを紹介するとともに、課題解決のための取り組みやその方向性を明らかにしています。

レポートの構成

 海上保安レポート2002は、次のような構成で編集しています。

○海上保安庁長官からのメッセージ

○トピックス

○数字で見る海上保安庁

○特集

   ・海の治安は海保にお任せ!

   ・海洋情報部に注目! 

○本編

   ・治安を維持するために

     密航・密輸対策

     領海警備等 

     外国人漁業の取締り

   ・海の安全を確保するために

     海上交通の安全確保

     海難の救助

     マリンレジャーの安全推進

   ・安心できる暮らしと環境を守る

     海上防災対策

     海洋環境の保全対策

   ・グローバル化する業務ニーズに対応するために

     国際協力

     世界の主な海上保安機関

○海上保安庁の体制

○海上保安最前線

○コラム

○資料編    

各項目の概要

○トピックス

 「海上保安庁法の改正」、「海賊対策のため巡視船・航空機を東南アジア海域へ派遣」、「北方四島周辺水域における第三国漁船の操業問題」、「沿岸域情報提供システム(MICS)の本格運用開始」など、平成13年8月から平成14年4月までに起きた事柄から17件をピックアップして紹介しています。

○特集 海の治安は海保にお任せ!

1.不審船対策

 海上保安庁が確認している不審船は、平成13年12月の九州南西海域における不審船1隻を含めて21隻です。

 平成11年3月の能登半島沖不審船事案を踏まえ、巡視船艇・航空機の整備、機能強化を進めるとともに、防衛庁と海上保安庁との間で、不審船に係る「共同対処マニュアル」を平成11年12月に作成し、海上自衛隊と連携訓練を行っています。また、危害射撃の在り方について検討した結果、繰り返し停船を命じても応じず、なお抵抗又は逃亡しようとする船舶に対し、停船させる目的で行う射撃について、人に危害を与えたとしても違法性が阻却されるよう、平成13年11月、海上保安庁法を改正しました。

 平成13年12月22日、九州南西海域で起きた不審船事案では、沈没した不審船を引揚げて船内を詳細に調査することが必要不可欠であると考えており、引揚げが物理的に可能かどうかなど船体の詳細調査、関係国との引揚げについての調整等適切に対応することにしています。

 また、海上保安官が負傷したこと、政府内部の連絡の在り方等の問題について、関係省庁間で検証作業を行い、この検証結果に基づき、職員の安全確保、不審船対応能力の強化を図り、今後の不審船事案対策に万全を期すことにしています。

2.警備活動の展開

 

 

 

 

 

 

 平成13年9月に発生した米国同時多発テロ事件発生以降、原子力発電所等重点警備対象施設への巡視船艇・航空機による警戒など警備強化を図っています。

 また、爆発物の処理を含む船舶に対するテロ等、高度な知識と技術が要求される事案には、特別な訓練、研修を受けたテロ対処部隊を投入することとしています。

 平成14年5月31日から31日間にわたり開催される2002年ワールドカップサッカー大会においては、爆破等のテロ、フーリガンによる暴動等の発生を未然に防止し、万が一発生した場合には的確に対処するため、巡視船艇・航空機の即応体制の確保等、海上警備に万全を尽くすこととしています。

3.国際組織犯罪への対応

 中国人を中心とする我が国への不法入国事犯は平成11年後半から減少傾向にありましたが、平成13年から再び増加傾向に転じ、予断を許さない状況が続いています。また、薬物や銃器の密輸については、国内の暴力団組織が関与するケースに加え、国際的な犯罪組織が関与する事件が発生しています。

 巧妙な国際組織犯罪に的確に対応するには、事前に情報を入手することが重要であり、海上保安庁では、米国等の海上警備機関との多国間の協力関係及びロシア、韓国、中国の海上警備機関との二国間の協力関係を構築するとともに、国内関係機関と密接に連携しつつ、情報収集・分析及び捜査活動の強化を図っています。

4.海賊対策

 海賊事件は平成13年に335件発生しており、そのうち67%はアジア海域で発生しています。海賊事件に効果的に対応するためには、アジア地域の各国連携を強化する必要があります。海上保安庁は、東アジア各国との相互協力及び連携の推進・強化等を進めており、アジアの地域に巡視船・航空機を派遣し、連携訓練等を実施するとともに、アジア各国の海上警備機関職員の人材育成を図る等、積極的に協力しています。 

 

 

○特集 海洋情報部に注目!

1.海洋情報部誕生

 明治4年、海洋を調査し、海図や航海用書誌を提供する機関として当時の海軍に設置された「水路局」が海上保安庁水路部の起源です。近年、船舶の航行安全のみならず、海洋環境の対策に必要な調査、自然災害から人々を守るために必要な調査など海洋調査に関わるニーズの拡大、海洋情報のユーザーの拡大といった変化に対応するため、「海洋情報部」として新しい組織へ生まれ変わりました。

2.海洋情報部が目指すもの

 明治の初め以来、航海の安全のため海図や水路書誌を刊行してきました。また、緊急時には、船舶に最新の安全情報を提供してきましたが、近年発展してきたIT技術の利用により、情報提供の形が変わりつつあります。

 電子海図の整備、航空レーザーを利用した沿岸測量、海のガイドブックたる水路誌等のデジタル化、航行警報のインターネットによる提供など、近年発展してきたIT技術の利用により、情報提供の形が変わりつつあります。

 また、地球温暖化や環境ホルモンの問題など多様化し、重要な問題になりつつある中、モニタリングポストを利用した汚染物質の常時監視や、海水や海底堆積物を採取し、海洋の汚染状況の把握など、海洋環境の保全にも取り                                                 組んでいきます。

○本編

・治安を維持するために

 密航・密輸対策

 密航・密輸事犯は、国内の暴力団組織の介入に加え、海外の犯罪組織が関与し、その手口も巧妙・多様化しています。これらを水際で阻止するため、検挙件数はもとより、内外の「関係取締機関との連携や情報の入手など「摘発水準の向上」を目指します。

領海警備等

 領海内における外国船舶の無害でない航行や、不法行為の監視取締りなど領海警備は海上保安庁の最も重要な業務の1つです。尖閣諸島周辺海域における領海侵犯、不法上陸等の警備や、我が国の同意のない外国海洋調査船による海洋調査活動の監視など我が国の主権侵害行為等に対して厳正に対処していくこととしています。

 

 

外国人漁業の取締り

 海上保安庁では、外国漁船が多数操業している日本海、九州周辺、東シナ海等の主要な漁場に重点を置いて、外国漁船の監視取締りを行っています。取締りにおいては、移乗した海上保安官に対する暴行傷害など危険で困難を伴う悪質な事犯が多く、このような不法操業に対して、厳正な取締り姿勢で臨むとともに、関係機関との連携強化や外国漁船データベースの構築などを実施しています。

・海の安全を確保するために

 海上交通の安全確保

 社会、経済に大きな影響を与えるような東京湾、瀬戸内海などの船舶のふくそう海域における大規模海難の阻止に努めています。特に新しい海上交通体系の構築や国際幹線航路の整備など船舶航行の安全性と海上輸送の効率性を両立させた「海上ハイウェイネットワーク」を構築していきます。特に東京湾においては、平成14年度に新しい通航方式及び管制システムの提案、シュミレーションによる評価・検討を行います。

                 海難の救助

 船舶海難及び船舶からの海中転落による死亡・行方不明者を平成17年に年間200人以下に減少させるよう目標を設定しています。海上保安庁では、海難等の発生に備え、遭難警報の24時間聴取など即応体制に万全を期すとともに、民間救助組織の活用によるレスキューネットワークの構築に努めています。また、皆さまに対しては、ライフジャケットの常時着用、携帯電話等の連絡手段の確保、緊急通報用電話番号「118番」の有効活用を基本とする自己救命策確保キャンペーンを推進しています。

 マリンレジャーの安全推進

 釣りなどのマリンレジャーについても、海上保安庁では事故による死亡・行方不明者の減少を目指しています。生存率を見ても、ライフジャケットの有効性は明らかとなっていることから、ライフジャケットの着用を積極的に推進しています。また、広く一般の方々が海で遊び、海と親しみつつ、海から安全を学ぶ環境づくりを応援するという、事故防止に向けた新たなアプローチとして、海道の旅(マリンロード構想)を関係機関と連携して推進しています。

・安心できる暮らしと環境を守る

 海上防災対策

 海上保安庁では、地震等の自然災害発生時における人命の保護や海洋への油・有害液体物質流出事故、原子力災害等の人為的災害による被害を最小限にくい止めることを目標としています。このため、消防艇の配備等消防体制の強化、油防除資機材の整備、火山、津波等防災情報の調査、隣国同士の連携協力等を図ることとしています。

 海洋環境の保全対策

 海上保安庁では、海洋汚染の汚染源解明実績の向上、廃棄物・廃船の除去等による良好な環境の回復等を図ることとしています。このため、海洋汚染状況の把握を行うとともに海洋環境保全のための指導・啓発や監視取締りを行うとともに、関係省庁とも連携して、東京湾等の閉鎖性水域における水環境の改善をするため、東京湾蘇生プロジェクト等により汚染メカニズムの解明、発生源対策、環境改善対策を一体的に推進していくこととしています。

・グローバル化する業務ニーズに対応するために

 国際協力

 近年の社会経済の急速なグローバル化に伴い、国際犯罪の増加等、国境を越える問題が顕在化し、関係国間における連携・協力の必要性が高まっています。海上保安庁では、北太平洋地域海上警備機関長官級会合の開催、インド洋地域海上保安機関との連携・協力、中米、東南アジア地域の海上保安機関若手職員との交流といった近隣諸国をはじめとする関係国の海上保安機関との連携・協力体制を強化することにより、海上における安全と秩序の維持を目指します。

○海上保安庁の体制

 組織

 海上保安庁は、本庁を中核とし全国各地に官署を配置することで、一元的・効率的な組織運用体制を維持しています。今後とも、海上保安庁を取り巻く状況の変化に的確に対応した適切な組織体制を構築するため、海上保安庁の組織の見直しを継続的に進めていく予定です。

 定員

 海上保安庁の定員は女性職員328人を含む12,255人(平成14年度)です。今後も国民のニーズ、社会環境の変化に対応したサービスを提供していくため、必要な定員の確保と適正な配置に努めていきます。

 装備

 海上保安庁は船艇521隻及び航空機75機(平成14年度)を保有しております。日本周辺の海上を取り巻く情勢は常に変化しており、外国人漁業の取締り、密航・密輸事犯、国際テロ警戒、不審船事案などこれら事案への対応することとなる巡視船艇・航空機の機能強化を進めていくこととしています。

 予算

 海上保安庁は、総額1,682億円(平成14年度)の予算の中で、広大な海域で多岐にわたる業務を行っています。また、九州南西海域不審船事案のように、最近の我が国周辺海域を取り巻く情勢は大きく変化しています。海上保安庁ではこれらの状況に対応するため必要な予算を措置しています。