海上保安庁をめぐる情勢は、急速に変化しつつあり、海上保安業務もこれを受けて常に変化しています。このような状況を的確に国民に伝えていくためには、過去の業務概況の紹介のみならず、最新の情報と今後の展望についても、国民にわかりやすく記述していくことが必要だと私たちは考えます。これまで、海上保安白書は、閣議配布のうえ公表してきましたが、白書という形態をとる限りは、将来の見通しや施策の方向については付随的な記述に止めなくてはならないという制約があり、上記要請に応えることは困難です。このため、白書という形態にとらわれず、題名を含めて見直し、21世紀を迎えた海上保安庁が自由な発想で国民にアピールしうるレポートとして、「海上保安レポート2001」が誕生しました。
「世界初の定常的海底地殻変動観測の開始」、「高速特殊警備船の就役」、「大型灯台の電源に太陽光と風力によるハイブリッド方式の導入」など、平成12年6月から平成13年7月までに起きた事柄から14件をピックアップして紹介しています。
平成4年以降中国人等の密航事案が多発しているほか、平成10年以降覚せい剤の押収量が急増しており、そのほとんどが海外からの密輸入によるものです。また、平成8年以降世界的に海賊事案が増加傾向にあり、その半分以上が東南アジア海域で発生しています。こうした我が国周辺海域における不安定要素は、一国の取り組みのみで解決できるものではありません。そのため、海上保安庁は、これまでの国際的な取り組みを大胆に見直し、これまで以上に戦略的かつ重点的に国際的な業務展開を推進していくべきとの方向性を打ち出しました。その代表例が北西太平洋地域海上警備機関長官級会合と海賊対策国際会議の開催です。
平成12年12月、北西太平洋地域諸国の海上警備機関のトップが出席する「北西太平洋地域海上警備機関長官級会合」が東京で開催され、また、平成13年7月には、「第2回北太平洋地域海上警備機関長官級会合」がモスクワで開催されました。これらの会議の結果、今後は情報交換の重要性にかんがみ、電子メールを活用する情報交換システムを構築し、北太平洋地域において海上犯罪の防止に有効な情報の共有化を進めることとしています。 |
平成12年4月、海上保安庁はアジア地域の15の国と地域から26の海上警備機関が一堂に会する「海賊対策国際会議(海上警備機関責任者会合)」を開催し、国際的な連携・協力の必要性及び今後の具体的な連携・協力手法等について意見交換を行い、「アジア海賊対策チャレンジ2000」を採択しました。
これに基づき、「海賊対策調査ミッション」のフィリピンなどへの派遣(平成12年9月)、インド、マレイシアへの巡視船の派遣と、連携訓練(平成12年11月)及びマレイシアにおける専門家会合への参加(平成12年11月)を行いました。
マラッカ・シンガポール海峡及びインドネシア周辺海域を通航する船舶の安全を確保するためには、国際的な犯罪組織に対抗できるだけの海上警察力を周辺各国で構築することが必要なことから、今後とも専門家会合の継続的な開催、各国海上警備機関との連携訓練の実施、留学生の受け入れなどを通じ、東南アジア諸国等との連携・協力体制の一層の強化に積極的に取り組んでいきたいと考えています。
平成12年9月、東京においてロシア連邦国境警備庁長官と海上保安庁長官署名による「日本国海上保安庁とロシア連邦国境警備庁との間の協力の発展基盤に関する覚え書き」を交わしました。これを踏まえ、9月、海上保安庁長官がロシア連邦国境警備庁を訪問して、同庁幹部と意見交換を行ったほか、11月にはウラジオストックにおいて、また、12月には東京において専門家会合を開催し、情報交換を行いました。平成13年8月には巡視船がロシアを訪問し合同訓練を実施するなど、引き続き両国間の協力関係の強化に努めることとしています。 |
平成8年12月から平成9年2月にかけて中国人集団密航が頻発したことから、平成9年3月には中国外交部及び公安部と協議を行い、@密航に関する情報交換窓口の設定、A密航取締りに関する協議の開催、について提案しました。
その後、中国公安部と協議を重ね、「日本国海上保安庁と中華人民共和国公安部との間の海上犯罪の防止及び取締りに関する討議の記録」について、最終的な意見の一致を見ており、可能な限り早期に署名を行い、両国間の海上犯罪防止等に関する連携・強化を図ることとしています。
平成11年4月、日韓海上保安当局間の長官級会議が韓国において開催され、「日本国海上保安庁と大韓民国海洋警察庁間の協力について」に両長官による署名が行われました。平成12年9月に北九州市で行われた第2回長官級会議においては、両庁地域間連絡窓口を設定することの申し合わせがなされました。今後とも、引き続き長官級会議を開催していく中で、両国間の海上犯罪防止等に関する連携・強化を図ることとしています。
海上保安庁職員の在外公館出向者は、釜山総領事館をはじめ8カ国8名であり、平成14年度からは、これに加えてソウルなどに出向することが予定されています。この他、国際協力事業団長期派遣専門家等として、7名を派遣しています。 |
我が国は、SAR条約に加入し、また、米国、韓国及びロシアとの間では二国間SAR協定を締結しています。また、平成8年から日本、中国、韓国及びロシアの捜索救助及び油防除の実務者による会合を毎年行っています。今後も周辺諸国の海難救助機関との合同訓練などを継続的に実施し、各国の捜索救助能力の向上を図るとともに、我が国と二国間SAR協定を締結していない国と同協定の締結を図ることにより、捜索救助能力の向上を図り、一人でも多くの救助が可能となる体制の実現を目指していくこととしています。 |
「海上における遭難及び安全に関する全世界的な制度(GMDSS)」の運用が、平成11年2月から全面的に開始されました。海上保安庁は、平成9年9月から北西太平洋地区内にある韓国、香港及び台湾との間でデータの集配信、運用指導、調整等を行うほか、米国などと情報交換等を行っています。今後、地区内の連携をより一層強化することとしています。 |
海上保安庁では、海難等の発生の際に迅速かつ的確な捜索活動を可能とするため船位通報制度(JASREP)を運用しています。一方、船位通報制度は米国、中国及び韓国などにおいても運用されており、米国とはそれぞれの参加船舶に関する情報交換等の連携を行っています。今後は中国や韓国とも連携を進めていくこととしています。 |
大規模な油流出事故が発生した場合、国境にかかわらず広範囲の沿岸国にその被害がもたらされることもあります。このため我が国は、平成7年10月、OPRC条約に加入したほか、国連環境計画が推進しているNOWPAPに積極的に参画し、関係国が協力して円滑な対応を行うための体制の構築に努めています。また、韓国やロシアとの間において個別の協力関係を築き、油流出事故発生に備えています。
薬物乱用の増加や銃器の一般社会への浸透を防ぐため、海上ルートによる薬物・銃器の密輸事犯の摘発に努めています。平成12年には490.0kgの覚せい剤、106丁の銃砲を押収しました。これらは、いったん陸上に入り込むと摘発が困難であり、水際阻止が特に重要です。そのためには、密輸事犯に関する情報収集の強化を図り、関係取締機関と連携しながら、取締りを推進することで、国内への薬物・銃器の流入を防ぐことが出来ると考えています。 |
平成12年に摘発した密入国事件は13件で、29名の密航者、26名の密航手引き者を検挙しました。平成13年に入ってからは、コンテナに潜伏して密航を企てる事犯が多発するなど、密航の手口は巧妙化、多様化の度合いを強めています。このような密輸事犯に対しては、いかにして確度の高い情報を事前に入手するかが大きな課題となっています。この課題を克服するために、国内外関係機関との連携等により情報収集、分析能力を強化するとともに、摘発体制の強化を図っていきます。 |
海上保安庁では関係機関と連携をとりつつ、不審船が出没する可能性が高い海域を重点に巡視船艇・航空機による警戒に当たることとしており、不審船事案の対応に全力をつくしています。 |
平成12年には357隻の不法行為又は特異な行動を行った外国船を確認し、このうち不法行為を行った282隻に対しては、警告退去又は検挙、特異な行動をとった75隻に対しては、当該行動の中止要求又は警告退去などの措置を講じています。
平成12年7月には、九州・沖縄サミットの海上警備を実施しました。平成14年6月にはワールドカップサッカー大会が日本と韓国で開催され、日韓間を就航する旅客船等の利用者が急増することが予想されることから、期間中の安全対策について検討、準備を進めていくこととしています。
近年においては、外国漁船の検挙件数のうち6割以上を占めていた韓国漁船が平成12年には約3割に減少し、一方これまで約2割を占めていた中国漁船が約5割と増加しています。海上保安庁では、厳正な監視取締りを行うことにより漁業秩序を維持し、不法操業事犯の撲滅を目指しています。
平成12年には、海上で遭難した15,465人のうち、1,628人が死亡・行方不明となっています。海上保安庁では、海難発生の早期認知、救助勢力の早期投入、救助能力の向上を図ることで死亡・行方不明者数の減少を目指しています。また、特殊救難員等の救助能力と航空機の機動性の組み合わせによる即応能力の向上を図ることとしています。 |
平成12年は、プレジャーボート等の船舶海難が1,142隻発生しました。これに伴う遭難者は3,171人であり、そのうち死亡・行方不明者数は29人でした。また、磯釣りなどの海浜でのマリンレジャー活動中に876人が事故に合い、これらの事故による死亡・行方不明者数は339人でした。 海上保安庁では海道の旅(マリンロード)構想の推進、民間救助団体の活動の支援などにより、死亡・行方不明者数の減少を目指しています。 |
社会・経済に大きな影響を与えるような大規模海難を阻止することが、海上保安庁の大切な任務です。そこで、海上交通のふくそうする海域における安全性と物流の効率性を両立させた「海上ハイウェイネットワーク」を構築することとしています。また、新しい情報技術を導入した次世代海上交通センター、サイバー灯台を整備し、船舶の運航支援の高度化と管制の効率化を図っていきます。 |
平成12年に海上保安庁が防除措置を講じた油排出事故は162件でした。また、船舶火災が135件発生しました。海上保安庁では、排出油防除対策、海上消防対策及び原子力災害対策などを行っています。また、自然災害に対しては、海底地殻変動の観測、活断層調査を行うなど未然防止策を講ずるとともに、自然災害が発生した場合には直ちに巡視船艇・航空機による被害状況調査や救助活動等を実施しており、そのための応急体制を確保しています。
平成12年には、海上保安庁では油の漂流や赤潮などの発生を610件確認しました。海上保安庁では、海洋環境保全のために指導・啓発や監視取締りを行うとともに、これからの取り組みとして、東京湾等の閉鎖性水域における水環境の改善をするため、東京湾蘇生プロジェクト等により汚染メカニズムの解明、発生源対策、環境改善対策を一体的に推進していくこととしています。 |
海上保安庁の定員は女性職員327人を含む12,249人(平成13年度末)です。また、最近、治安情勢の悪化が大きな社会問題となっていることなどに対応し、必要な定員の確保と適正な配置に努めていきます。 |
海上保安庁は、国の組織として全国一元的に効率的に機能しています。しかしながら、国際犯罪に対する捜査体制の充実などの課題が見受けられることから、今後とも組織の見直し・整備を進めていくこととしています。
海上保安庁は、平成13年7月現在517隻の船艇及び75機の航空機を保有しており、今後、これらの機能向上を図っていきます。しかしながら、老朽化した巡視船艇・航空機については順次代替えを進めていくとともに、最適な整備を計画的に実施し、いかにしてその能力を維持していくかが大きな課題となっています。
近年事故及び不祥事案の発生件数が増加傾向にあることを重く受け止め、平成13年4月に「海上保安庁業務・紀律改善委員会」を設置するとともに、5月から6月上旬にかけて全部署を対象に業務処理及び職場内紀律に係る総点検を実施しました。その結果を踏まえ6月下旬に「業務処理及び職場内紀律改善要領」をとりまとめたところです。海上保安庁は、これらの取り組みを強力に推進し、国民の信頼の回復に全力を挙げていくこととしています。