は じ め に
 四面を海に囲まれた我が国にとって,海は交易,交流の場として,また,資源の宝庫として,あるいは海洋レジャー等の憩いの場として広く利用されるとともに,様々な恩恵を与えてくれる存在となっており,その海に対する環境保全の認識が,近年高まりを見せてきている。
 そのような中,本年1月2日に発生し,1府8県への流出油の漂着等,環境,漁業等に甚大な被害を及ぼしたロシア船籍タンカーナホトカ号海難・油流出災害は,あらためて,海洋環境保全及び油流出災害への備えの重要性を認識させることとなった。
 海上保安庁では,従来から,油流出災害に対し,「海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律」に基づく排出油防除計画の策定,油防除に関する専門的知識及び技術を有する専門家からなる機動防除隊の編成,資機材の整備,排出油の防除に関する協議会の設置等の対策を講じてきている。
 さらに,7年には,「1990年の油による汚染に係る準備,対応及び協力に関する国際条約」(OPRC条約)の締結に伴い,政府は「油汚染事件への準備及び対応のための国家的な緊急時計画」(国家的緊急時計画)を閣議決定し,関係機関間の連携強化等を図っている。
 海上保安庁では,これらの従来の施策を踏まえ,ナホトカ号海難・油流出災害に対し,事故発生当初から海難救助活動に従事するとともに,全国から動員した巡視船艇・航空機等により,浮流油の防除作業を実施した。
 また,政府においても,1月10日にはナホトカ号海難・油流出災害対策本部を設置し災害応急対策を実施した。
 しかしながら,同災害における活動を通じ,国家的緊急時計画、排出油防除計画,官公民の連携体制,海上災害防止センターの活動基盤等,現在の油防除実施体制は必ずしも十分ではないことが明らかとなった。
 このため,海上保安庁では,今後,これらの教訓を踏まえて,政府災害対策本部等の早期設置,国家的緊急時計画及び排出油防除計画の見直し,海上災害防止センターの充実強化,油防除資機材の活用体制の確立等,海上防災体制の更なる強化を図っていくこととしている。
 このような観点から,第1部においては,「青い海を守る」と題して,特に油流出災害等海洋環境に係る問題を取り上げ,この分野における海上保安業務について記述するとともに,第2部においては,8年を中心に実施した業務と現況を記述することとした。