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 2 海洋環境保全の指導取締り

 (1) 海洋環境保全のための監視取締り

 海上保安庁では,従来から,東京湾,伊勢湾,瀬戸内海等の船舶がふくそうする海域,タンカールート海域等の海洋汚染の発生する可能性の高い海域への巡視船艇,航空機の重点的な配備,海空からの監視が行いにくい沿岸部における工場排水,廃棄物等に対しての陸上からの監視取締り,期間を定めた「海上環境事犯一斉取締り」(6月及び11月)等の海陸空一体となった海洋汚染の監視取締りを実施している。
 海上環境事犯は,監視取締りが厳しくなるに従い,その目を逃れるため手口がますます巧妙となり潜在化する傾向が見られるため,赤外線捜索監視装置等の監視取締り用資器材の整備等により監視取締り体制の充実を図っていく必要がある。
 8年における海上環境関係法令違反の送致件数は787件で,海洋汚染防止法違反が464件と大部分を占めており,次いで廃棄物の処理及び清掃に関する法律違反が197件,港則法違反が113件と続いている。

<事例>
 古タイヤ約400本の処分を10万円で引き受けたが,自己所有の処分場が一杯となったことから,残り約200本の古タイヤを海域に投棄した廃品回収業者1名を「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」違反の容疑で検挙した。
<事例>
 ケミカルタンカーを立入検査した際に,有害液体物質記録簿の記載に矛盾があり,船長の挙動が不審であったため、説明を求めたところ,船内タンク洗浄後に発生する汚水等の処理作業を簡単にするため,約2年にわたり、有害液体物質が含まれる上記汚水を海域に排出していたことが判明したことから,船長を「海洋汚染防止法」違反の容疑で検挙した。

 (2) 海洋環境の保全指導

 (海洋環境保全思想の普及・啓発)
 海洋汚染の大半は油取扱い時の不注意による排出,廃棄物の故意による投棄等の人為的要因により発生しており,海洋環境保全の重要性に対する認識が未だ十分であるとはいえない状況にある。
 さらに,今日では,事業者等の活動を原因とする環境問題だけでなく,国民の一般生活に伴い,発生する廃棄物の排出等軽微な環境負荷の集積によって生じる環境問題に対しても対応していく必要がある。
 このため,海上保安庁では,海洋環境保全思想の普及・啓発活動に力を入れており,訪船等による油,有害液体物質等の排出事故防止,ビルジ等の適正処理等の指導を行っている。また,全国各地での海洋環境保全講習会(8年においては654箇所計43,391名)を通じて,海事関係者のみならず広く一般市民に対し海洋環境保全の重要性等を呼びかけている。
 特に,6月5日の「環境の日」及び11月1日からの一週間を海洋環境保全推進週間とし,8年は3,618隻を訪船するとともに,236箇所(23,389名)において海洋環境保全講習会を開催し,廃棄物及び廃船の適正処理,ゴミの投棄防止等について指導を行うとともに,百貨店,海中公園への海洋環境保全コーナーの設置,パンフレット等の配布を実施した。

 (廃船問題)
 近年,社会問題となっているFRP船舶等の不法投棄については,原因者の廃船の適正処理に対する意識の欠如及び廃船の適正処理体制の未確立が主な原因であると考えられる。
 このため,海上保安庁では,7年度からFRP船舶等の不法投棄について,不要となった船舶の早期適正処分を指導する内容等を記載した「廃船指導票」(オレンジシール)を当該船舶に貼付することにより,原因者による自主的かつ円滑な処理の促進を図っている。
 8年において,海上保安庁が新たに確認した投棄船舶は,7年の1,104隻の6割である712隻まで減少した。このうち588隻(うちFRP船358隻)の船舶に廃船指導票を貼付し,これと7年に廃船指導票を貼付したが未処理の481隻を併せた1,069隻に対し,適正処理指導等を行った結果,695隻(うちFRP船396隻)が処理された。
 さらに,関係機関等に対し,協議の場を通じ,それぞれの地域に適した廃船の適正処理体制の確立を求めているところである。

 (他機関への支援)
 (社)日本海難防止協会及び(財)海上保安協会共催により,主として海事・漁業関係者を対象に実施されている「海洋汚染防止講習会」に対して引き続き協力を行うこととしている。
 また,8年度から(財)海上保安協会の事業として「海洋環境保全に関する推進事業」が発足しており,全国に配置されたボランティアである統括海洋環境保全推進員(11名)及び海洋環境保全推進員(570 名)が,地方公共団体・企業等が実施する海洋保全関連行事及び地域ボランティア活動等に積極的に参画するとともに,各地区における一般市民等への海洋環境保全思想の普及・啓発活動等を行っている。海上保安庁では,同事業に対して積極的な支援を行っている。

 (3) 外国船舶による海洋汚染の防止対策

 国連海洋法条約の締結前における外国船舶による海上環境事犯のうち,我が国の領海内で発生した事犯については,我が国の法令を適用してその刑事責任を追求し,領海外(公海)で発生した事犯については,違反外国船舶の旗国に対して違反事実の通報を行い適切な措置を求める旗国通報制度を適用していた。しかしながら,国連海洋法条約の締結に際し排他的経済水域及び大陸棚に関する法律等を整備したことにより,8年7月20日から,我が国においても,領海に加え,排他的経済水域及び大陸棚における外国船舶等による海上環境事犯について,一定の条件の下に海洋汚染防止法等を適用して取締りができることとなった。
 また,その際には,船舶の航行の利益を考慮し,違反者の刑事手続継続のための出頭等を担保する担保金等の提供を条件として速やかに釈放を行う早期釈放制度(担保金制度)が適用されることとなった。
 海上保安庁が,8年に我が国周辺海域において確認した外国船舶による海洋汚染の発生件数は81件であり,油による海洋汚染の発生確認件数を海域別にみると,我が国領海内が52件,領海外が28件となっている。
 海上保安庁が8年に送致した外国船舶による海上環境法令違反は26件であり,7月20日から12月31日までに検挙した20件に対し担保金制度を適用した。

<事例>
 当庁航空機が,長崎県五島列島沖合の排他的経済水域から領海内にかけて油を排出しているフィリピン籍貨物船を現認したことから,写真を撮影し,しょう戒中の巡視船に通報した。通報を受けた巡視船は,現場に向かい海上浮流油の採取等を行った。
 このような巡視船と航空機の連携にて証拠を確保し,同船機関長を「海洋汚染防止法」違反の容疑で検挙した。その際,担保金制度を適用した。

 海上保安庁では、巡視船艇・航空機のタンカールート海域等への配備,巡視船艇・航空機の連携等による効率的な運用を推進することにより,領海内及び排他的経済水域内における監視取締り体制の更なる充実を図るとともに,関係行政機関との連絡調整を行う国際海洋汚染対策官を本庁及び5の管区海上保安本部に置き,事件処理手続きの円滑化を図っている。
 さらに,外国船舶による海洋汚染の防止のため,訪船時等あらゆる機会を利用し,外国船舶の乗組員に対する関係法令の周知及び油排出事故等の防止指導を行っている。

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