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U 海上交通の安全確保のための指導

 1 海難防止活動の推進

 要救助海難の発生原因をみると,見張り不十分,操船不適切等の運航の過誤や機関取扱不良といった人為的要因によるものが69%を占めている。こうした要因による海難を防止するためには,海難防止思想の普及・高揚並びに海難防止に関する知識・技能の習得及び向上を図ることが有効であることから,海上保安官の訪船指導,全国各地での海難防止講習会等(8年合計880回受講者約48,000人)を通じて海難防止思想の普及等を図っているところである。また,毎年期間を定め,官民一体となって海難防止強調運動を実施し,海事関係者のみならず広く国民に対して海難防止を呼び掛けている。
 9年は,7月16日から7月31日まで,「船舶の点検と見張りの励行」をスローガンとして全国海難防止強調運動を実施し,約7,000隻に対する訪船指導,現場指導及び170回の海難防止講習会等により,海上交通関係法令等の周知徹底を図るとともに,安全運航の励行,危険物荷役時の安全確認等を指導し,必要に応じて是正・改善を勧告した。
 また,各管区海上保安本部では,地域の特性を踏まえ台風による海難を防止するための海難防止強調運動,プレジャーボート等小型船舶を対象とした海難防止強調運動,自動操舵海難防止運動等の地方海難防止強調運動を展開した。

2 海難防止団体等の指導・育成

 海難防止の実効を期するには,海事関係者等自らが主体となった活動が必要不可欠であり,海難防止を目的とする各種民間団体が中核母体となって,これらの活動を活発に推進することが重要である。
 海上保安庁は,海難発生動向,航行環境の変化に応じた自主的活動が着実に展開されるよう各種民間団体等の育成強化に努めており,これらの団体等は,9年8月末現在, 484団体が設立されている。
 なお,これらの団体としては次のようなものがある。
  海難防止に関する調査研究,海難防止のための周知・指導を行う団体((社)日本海難防止協会等)
  港内において漂流物等の航行障害物を除去するなどの活動を行う団体(清港会)
  当事者間で,具体的な安全対策を申合せ,実行に移していくための連絡協議会(外国船舶安全対策連絡協議会,台風対策協議会,漁船海難防止連絡協議会等)

 3 各種船舶に対する安全対策

 (1) タンカー

 8年のタンカーの救助を必要とする海難に遭遇した船舶(以下「要救助船舶」という。)隻数は47隻で,全要救助船舶隻数の3%となっており,最近10年間極めて低い水準で推移しているが,タンカー等危険物積載船の海難は,広範かつ重大な被害の発生が予想されるため,事故の未然防止には特に配慮する必要がある。
 東京湾,伊勢湾及び瀬戸内海の三海域の特定港に入港するタンカー隻数は,全国の特定港に入港するタンカー隻数の75%を占めていることから,これら三海域と港内を中心に,タンカーの衝突・乗揚げ事故の防止及び危険物荷役時の安全確保に重点を置いて安全対策を講じている。

 ア 東京湾等三海域における安全対策

 三海域においては,海上交通安全法に基づき,LNG,LPG,原油等を積載する総トン数 1,000トン以上のタンカーに対し,航路入航予定時刻等の通報を義務付け,必要に応じ,進路警戒船や消防設備船の配備,航行速力及び航路入航予定時刻の変更等の指示を行っている。
 このほか,本邦に初めて就航する総トン数25,000トン以上のLNG・LPGタンカー及び東京湾に初めて入る載貨重量トン数220,000トン以上の原油タンカーに対しては,ふくそう海域の通航時刻や入港時刻の制限,入港時の気象・海象の条件設定等の安全措置についてきめ細かな指導を行っている。8年は,原油タンカー23隻,LNGタンカー5隻,LPGタンカー8隻に対して指導を行った。

 イ 港内における安全対策

 特定港においては,危険物を積載したタンカーの入港に際し,港則法に基づき,港長は港内航行速力の指定,タグボート及び警戒船の配備,ボイル・オフ・ガス(LNG・LPGから蒸発したガス)の放出の制限等の指示を行うほか,停泊・停留場所の指定を行うとともに,停泊中のこれらタンカーへの接近や接げんの制限等を行っている。
 また,危険物の荷役・運搬については,港則法に基づき港長の許可が必要であり,当該荷役等の安全を確保するため岸壁の配置状況及び危険物の種類を勘案し,許可基準として荷役許容の標準量,荷役時間,荷役体制等を定めている。8年は,全国の特定港で約25万件の危険物荷役・運搬の許可を行った。
 さらに,危険物受入施設側に対しては,海陸一体となった荷役安全管理体制等を確立するため,管理体制の充実強化を指導している。
 このほか,港内及びその周辺海域においてタンカーがタンククリーニング作業を行うときは,火災,爆発,油排出事故等の防止のため,作業計画について事前に検討を行い,停泊場所を制限するなど作業中の安全対策及び油排出事故防止について指導している。

  (2) 放射性物質等積載船舶

 原子力の研究や利用の進展に伴い,使用済核燃料を始めとする放射性物質等の海上輸送が行われているが,放射性物質等を積載した船舶の荷役・運搬については,港則法に基づく港長の許可が必要であり,その際,夜間荷役の禁止,放射性物質に関する知識を有する者を立ち会わさせるなど措置を講じている。
 また,核分裂性物質及びその他の多量の放射能を有する放射性物質等の海上輸送については,輸送中の事故等による災害を防止するため,「危険物船舶運送及び貯蔵規則」に基づき,管区海上保安本部長に運送届が提出され,この届出を受けて,運送の日時及び経路,連絡体制,運送中の海難による災害の防止や特定の核燃料物質を輸送する場合の防護体制について,必要な事項を指示・指導するとともに,積載船舶の動静の把握,巡視船艇による警備及び航路等の警戒を行っており,8年は, 233件の許可を行い,86件の運送届を受けた。

 (3) 漁船

 8年の漁船の要救助船舶隻数は,705隻で,前年に比べ32隻増加し,依然として全要救助船舶1,858隻に占める漁船の割合は高く,38%を占めている。
 海難の状況を見ると,見張り不十分等の運航の過誤や機関取扱不良といった人為的要因によるものが,63%を占めていることから,漁船の海難を防止するため,関係者を対象とした海難防止講習会の開催,訪船指導の実施等により海難防止思想の普及の徹底を図るとともに,航法や海事関係法令の遵守,出漁前の整備点検,見張りの励行,気象・海象情報の的確な把握,救命いかだ等の取扱方法の習熟,相互連絡・協力体制の確立等の指導を行っている。

 (4) 旅客船

 国内におけるカーフェリーを含む旅客船の運航状況を見ると,9年4月1日現在1,453航路に2,521隻が就航している。また,このうち航路距離が片道300キロメートル以上あり,陸上輸送のバイパス的な役割を果たす長距離フェリーは22航路に55隻(72万総トン)が就航している。
 カーフェリーを含む旅客船の8年における要救助船舶隻数は31隻であり,最近10年間では,ほぼ横ばい状態であるものの,一度海難が発生すると多数の乗客等に危険が及ぶ可能性が高いことから,海上保安庁は,従来から海上交通関係法令や運航管理規程の遵守,緊急時の避難・救助訓練の実施等について指導を行うとともに,旅客定期航路事業の免許等に際しては,地方運輸局に協力して運航中止基準,係留施設,基準航路及び出入港時刻の調整等の指導を行うことにより,その安全の確保に努めているところである。

 (5) 木材運搬船

 8年の木材運搬船の要救助船舶隻数は12隻で,7年に比べ4隻増加している。木材運搬船の海難は大量の木材流出を伴うことが多く,この場合,漂流・拡散して,他の船舶の航行を阻害したり,風潮流により沿岸へ漂着して漁業施設や海浜環境に影響を与えるなど被害が広範囲に及ぶという特徴がある。
 海上保安庁では,木材運搬船の海難を未然に防止するため,これらの入港時等機会あるごとに,浸水防止対策,荷崩れ防止対策,復原性の確保及び荒天時対策を重点事項として訪船指導を実施するとともに,重点事項をまとめたパンフレットを船舶所有者等関係先に配付するなど防止対策を講じている。
 9年2月には,ロシアからの木材運搬船が佐渡島沖で2,200本余りの木材を流出させる事故が発生したが,関係者に対し早期回収・除去を指示・指導するとともに官民一体となって流出木材を回収した。
 また,春先の荒天時に同種海難の発生が懸念されたため,174隻の木材運搬船に対し特別訪船指導を実施したほか,ロシア政府に対し同種事故の未然防止について申し入れを行った。

 (6) 外国船舶

 8年の外国船舶の要救助船舶隻数は163隻で過去5年間では,ほぼ横ばい状態である。しかしながら1,000総トン以上の貨物船及びタンカーの全要救助船舶109隻について見ると,外国船舶が95隻となっており日本船舶の14隻に対し外国船舶の占める割合が高くなっている。
  また,本邦に入港する外国船舶の中には,我が国周辺海域の地形,気象等に不案内な船員を配乗したものも見られる。
 これら外国船舶の海難を防止するため,我が国周辺海域の気象,海象の特性,同情報の入手方法,ふくそう海域における航法及び航路標識の設置状況等について,外国船舶用パンフレットを利用するなどして周知の徹底を図るとともに,気象・海象情報の適切な入手及び荒天時における早期避難,航行経路付近海域における必要海図の備付け等について,訪船指導等機会あるごとに指導を行っている。
 このほか,我が国の主要な港において,外国船舶を取り扱う代理店,運航会社,用船会社等からなる外国船舶安全対策連絡協議会の設立(9年8月現在48協議会)を促進し,又は活動の活性化を推進しているところであり,これらの協議会を通じ,航海情報等の提供を行っている。

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