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第2章 海上交通の安全確保
T ふくそう海域における安全対策

 沿岸海域では,小型漁船による漁業活動や海洋レジャ−活動が盛んに行われているが,とりわけ,東京湾,伊勢湾及び瀬戸内海の三海域は,背後に大都市及び工業地帯を控えているため,船舶交通がふくそうしており,8年の港則法上の特定港への入港船舶約106万隻のうち65%に当たる約69万隻が三海域の特定港に入港している。
 これらの三海域の主要船舶通航路に当たる浦賀水道,伊良湖水道及び明石海峡の船舶交通量を見ると,8年は1日当たりそれぞれ663隻,920隻,1,213隻であった。
 このように船舶交通がふくそうしている海域では,船舶の衝突を防止し,安全な航行を確保するため,航行管制を始めとする各種航行安全対策の一層の推進を図っているところである。
 また,9年7月,東京湾において発生したダイヤモンドグレース号底触油・流出事故については,その重大性にかんがみ,運輸省内に設置された「東京湾等輻輳海域における大型タンカー輸送の安全対策に関する検討委員会」において,喫水が17メートル以上あるため中ノ瀬西側海域を北航する船舶に対し,東京湾中ノ瀬A,B,C及びDの各灯浮標を結んだ線から一定距離以上離して航過するよう指導すること等の当面の施策を決定するとともに,中長期的施策について検討しているところである。
 さらに,近年,船舶交通のふくそうする海域では,本州四国連絡橋の建設工事及び関西国際空港2期事業等の大規模プロジェクトが実施又は計画されているため,これらの動きに対応した船舶の航行安全対策を実施又は検討している。

 1 海上交通安全法及び港則法の運用

 我が国における船舶交通の安全を確保するための法律としては,基本的な海上交通ルールを定めた海上衝突予防法のほか,次の二法が制定されている。
 (1) 海上交通安全法
 船舶交通のふくそうする東京湾,伊勢湾及び瀬戸内海の三海域においては,海上衝突予防法による基本的な交通ルールだけでは船舶交通の安全の確保を十分に図ることができないことから,同法の特別法として海上交通安全法が制定されている。
 海上交通安全法は,浦賀水道等船舶交通が集中する狭水道に11の航路を設定し,航路航行義務,速力の制限等特別の交通ルールを定めるとともに,巨大船,危険物積載船等に対して航行管制を行って船舶交通の流れを整えるほか,船舶交通の危険を防止する必要のある工事・作業に対する規制等を行っている。
 (2) 港則法
 港内では,狭あいな海域に多数の船舶が頻繁に出入りし,しかも停泊,荷役等の場所でもあるため,事故の発生頻度が高く,また,一度事故が発生した場合には,船舶交通や荷役等の作業に多大な影響を与えるおそれが大きいことから,海上衝突予防法の特別法として港則法が制定されている。港則法は,入出港船舶の多い港502港(9年8月末現在)を適用港とし,港内における特別の交通ルールを定めるとともに,工事,作業,漁ろう等について規制を行っている。
 また,特に入出港船舶の多い京浜,名古屋,大阪,神戸,関門等85港(9年8月末現在)を特定港に指定し,港長を任命している。
 特定港では,上記の規制に加えて,入出港の届出,びょう地の指定等船舶の動静を把握するための措置を定めており,港長は,港内の航行管制を行うほか,爆発物,放射性物質等の危険物荷役を規制するなど港内における船舶交通の安全と整とんを図っている。

 2 海上交通情報機構等の運用

 船舶交通のふくそうする東京湾,瀬戸内海等においては,船舶の安全かつ能率的な運航を確保するため,海上交通に関する情報提供と航行管制を一元的に行うシステムとして海上交通情報機構等を整備・運用している。
 (1) 東京湾海上交通情報機構
 東京湾においては,港内を除く海域を対象として,船舶交通の状況を常時把握・分析し,きめ細かな情報提供と海上交通安全法に基づく航行管制を一元的に行うため,東京湾海上交通センターを設置し,レーダー映像,工事・作業状況等船舶交通に関する各種の情報をコンピューター処理するとともに,その処理データを基に巨大船の通航予定に関する情報の提供等の業務を行っている。
 また,京浜港及び千葉港においては,港内交通管制室及び船舶通航信号所を設置して,レーダー及びテレビカメラにより港内における船舶交通の状況を常時監視し,海上交通に関する情報の提供と港則法に基づく港内航行管制を行っている。
 (2) 瀬戸内海海上交通情報機構
  備讃海域においては,備讃瀬戸海上交通センターを設置し,水島・丸亀地区及び宇高地区を対象海域として,情報提供と海上交通安全法に基づく航行管制を行うことに加え,当該海域の特殊性を考慮し,電光表示板による情報提供を実施している。
  関門海域においては,関門海峡海上交通センターを設置し,六連地区,大瀬戸地区及び部埼・火ノ山地区を対象海域として,情報提供を行うとともに,港則法に基づく港内航行管制を実施している。
 また,当該海域の特殊性を考慮し,電光表示板による情報提供を実施している。
 さらに,洞海湾地区においては,京浜港及び千葉港と同様,港内交通管制室及び船舶通航信号所を設置して,情報提供と港則法に基づく港内航行管制を行っている。
  大阪湾においては,大阪湾海上交通センターを設置し,明石海峡地区を対象海域として,情報提供と海上交通安全法に基づく航行管制を行っている。
  来島海域においては,来島海峡海上交通センターを9年10月に設置し,10年1月から,来島海峡地区を対象海域として,情報提供と海上交通安全法に基づく航行管制を開始するため所要の整備を進めている。
 (3) 名古屋港における情報提供・航行管制システム
 名古屋港においては,名古屋港海上交通センターを設置し,港内における船舶交通の状況を常時把握・分析し,海上交通に関する情報提供と港則法に基づく港内航行管制を行っている。

 3 大規模プロジェクトの安全対策

 船舶交通のふくそうする瀬戸内海及び大阪湾においては,本州四国連絡橋の明石海峡大橋及び来島大橋の建設工事が実施され,また,関西国際空港2期事業が計画されている。
 プロジェクトによる構造物の建設は,海上交通等に大きな影響を与えるおそれがあるため,建設中及び完成後の交通規制,航行安全対策及び防災対策を確立しておく必要がある。
 このため,海上保安庁では,プロジェクトの計画策定段階から事業主体等の関係者に対し,(社)日本海難防止協会等の海難防止団体の協力を得て海上交通の安全に関する調査研究の実施及びその調査研究の成果を踏まえた警戒船の配備,情報管理体制の整備,各種の航行援助施設や防災体制の整備等について指導してきている。
 また,船舶交通の危険を防止するため,建設工事中のプロジェクトについては,付近海域において,海上交通安全法に基づく船舶の航行の制限を実施するとともに,灯浮標等による工事区域の標示,工事作業情報の周知徹底等に関する指導を行っている。
 今後とも,海上における大規模プロジェクトの進展に対応して,航行安全対策,防災対策等の指導,海上交通の規制の実施,巡視船艇による航法指導等を効果的に実施していくこととしている。

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