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第1章 海上治安の維持
 「海洋法に関する国際連合条約」((”United Nations Convention on the Law of the Sea”(UNCLOS))以下「国連海洋法条約」という。)は,8年7月20日に我が国について効力を生じた。
 同条約の締結に際し,関係法令を整備し,直線基線,接続水域及び排他的経済水域等を設定したことによって,監視取締り水域が拡大されることとなった。これにより,我が国領海内における主権の確保や排他的経済水域等における我が国の国家権益の保護のため,適切な監視取締りを行うことが一層強く求められており,海上警備がますます重要となっている。

T 領海警備等

 1 領海警備

 (1) 現状

 領海警備は,一般的には,我が国の平和,秩序,安全を害する外国からの諸活動に対して,我が国領海内における主権を確保するために行われるものであり,領海内における外国船舶の無害でない通航や不法行為の監視取締りを任務とする警察活動である。
 海上保安庁は,海上の秩序及び安全を確保するため,領海内における不法行為を行ったり,又は正当な理由のない入域等無害でない航行を防止,排除するなどの領海警備を実施している。8年には,我が国領海内で操業等の不法行為を行い又は徘徊等の不審な行動をとった外国船舶385隻(うち漁船 293隻)を確認している。このうち,不法行為船であった200隻に対しては,116隻を警告の上直ちに退去させ,悪質な14隻については検挙し,また,不審な行動をとった船舶185隻に対しては,当該行動の中止を要求し,あるいは警告の上退去させるなど必要な措置を講じた。
 さらに,荒天による避難等で領海内へ緊急入域した外国船舶4,749隻については,海上保安庁への事前通報等の秩序ある入域を指導するとともに,不法入出国,密輸等の不法行為に関与することを防ぐため,動静監視等の警備を実施している。

 (2) 尖閣諸島関係

 尖閣諸島周辺海域では,多数の台湾漁船及び中国漁船の操業が認められる。
 このため,当庁では,巡視船を常時配備し,航空機を随時しょう戒させ,厳格な監視を実施している。
 8年7月,国連海洋法条約が我が国について発効した。当初,排他的経済水域の設定に伴う漁業活動への影響を不満とし,また,尖閣諸島北小島に日本の団体が灯台の用に供する構造物を設置したことに対する抗議として,台湾・香港等で「保釣活動」と呼ばれる領有権主張の活動が活発になった。
 同年8月下旬以降,抗議や報道目的で,台湾小型船舶が同諸島領海内に侵入する事案が多発するとともに,9月には香港から出港した抗議船が領海内に侵入し,活動家数人が海に飛び込み,うち1人が溺死するという事故も発生した。
 10月には台湾・香港の活動家等が乗船する49隻の台湾小型船舶が同諸島に接近し,そのうち41隻が領海内に侵入するとともに,4人が魚釣島岩礁に強行上陸した。
 また,9年5月には,30隻の台湾抗議船等が尖閣諸島に接近し,そのうち3隻の抗議船が警告を無視して,領海内に侵入し,その際,活動家2名が巡視艇に飛び移るという事案が発生したが,全船を領海外へ退去させ,不法上陸を防止するとともに,関係省庁の判断に基づき,この2名を台湾抗議船に引き渡して強制的に退去させた。
 さらに,7月にも,1隻の台湾抗議船が尖閣諸島の領海内に侵入したが,領海外へ退去させた。
 海上保安庁では,これらの事案に対し,関係省庁と連携を図りつつ,不測の事態が生じないよう細心の注意を払いながら,警備及び救難活動を行った。

 (3) 竹島関係

 日本海南西部に位置する竹島は,韓国が灯台の用に供する構造物等の施設を建設するとともに,警備隊員を常駐させて占拠を続けており,かつ艦船にて常時竹島周辺海域の警戒を行っている。
 海上保安庁は,従来からの竹島問題は外交ルートを通じて平和的に解決を図るべきであるという政府の方針に沿って,我が国漁船の安全を確保するという見地から竹島周辺海域に各種漁業の漁期,我が国漁船の出漁状況等を勘案して,常時,巡視船を配備し,監視及び被だ捕等の防止指導を行っている。

 2 外国海洋調査船に対する警備の現状

 沿岸国の管轄権の拡大に伴う海洋開発に対する各国の関心の高まりや海底資源開発技術の進歩等を背景として,我が国周辺海域では外国海洋調査船等の活動が確認されており(8年22隻),特に,中国は東シナ海において,海洋調査船等により海底資源調査活動等を頻繁に行っている。
 我が国は,国連海洋法条約に基づき,我が国の大陸棚及び排他的経済水域において外国が海底資源調査等を行うことは我が国の同意が無い限り認めないこととしている。
 このため, 海上保安庁では,我が国が主権的権利及び管轄権を有する大陸棚等に係る海域において,外国海洋調査船等に対し巡視船艇・航空機により厳重な追尾監視を行い,国内法の規制がある海洋調査についてはこれに従って対処し,また国内法の規制を受けない海洋調査につき,我が国の同意が無いものに対しては,現場海域において中止要求を行うとともに,関係省庁にも通報する等により,対処していくこととしている。
 最近の6箇年について,同海域における外国海洋調査船等の確認状況の推移を見ると,3年の32隻から5年の9隻まで減少したが,6年以降,従来と比較し中国海洋調査船の件数が増え,同年には24隻,7年には12隻,8年には22隻が確認されている。
 なお,9年4月には中国の海洋調査船が,東シナ海の日中中間線付近より日本側の海域で,巡視船の中止要求等を無視して調査活動を行い,さらにこの間2回にわたり領海内に侵入した。海上保安庁としては関係省庁に対しこれらの事実関係等を通報するとともに,現場において,該船が我が国排他的経済水域から退去するまで巡視船等による警備を行った。

 3 東シナ海における不審船への対応の現状

 海上保安庁では,3年から6年にかけて,東シナ海の公海上において,我が国及び外国の漁船,貨物船などが不審船から発砲,追跡等を受けるという事件を79件(日本船舶に対するもの45件,外国船舶に対するもの34件)確認している。
 この一連の不審船事件の背景には,中国向けの密輸の横行及びそれに対する中国側の取締りがあると言われており,この密輸に関係していると思われる煙草等の洋上積替えは,7年32件,8年9件,9年9件(8月末現在)を確認しており,依然として後を絶たない状況にある。
 このため,海上保安庁としては,引き続き東シナ海における厳重なしょう戒を実施している。

 4 我が国漁船の保護

 (1) 北海道周辺海域におけるだ捕事件

 8年のロシアによる日本漁船のだ捕隻数は1隻(5人)で,根室海峡においてだ捕されたものである。さらに同海域では,漁船2隻がロシア国境警備隊の警備艇から銃撃を受け,2名が負傷した。9年に入り8月末現在,オホーツク海海域において1隻(6人)がだ補されたほか,6月には北方四島周辺海域において漁船1隻が銃撃を受け,2名が負傷している。ロシアはロシア極東海域において6年以降,8年まで毎年「プチーナ(漁期)」と称する密漁取締りを実施しており,違反漁船に対しては武器の使用をも辞さないという強硬な姿勢を示してきたことから,本年も厳しい取締りが予想される。
 このため,海上保安庁では,だ捕等の発生が予想される北海道東方海域のロシア主張領海線付近等に,常時巡視船を配備し漁船等の監視を行うなど,漁業秩序の維持に努めている。

 (2) その他の海域におけるだ捕事件

 8年には,漁業水域内,領海内操業等を理由として,アイルランドにより2隻(34名)等の計3隻(48名)がだ捕された。
 なお,だ捕された漁船及び乗組員は全員帰還している。

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