第3章 今後の取組
 

 N号海難・油流出災害の重大性から,関係閣僚会議の大規模油流出事故への即応体制プロジェクトチームや運輸省の運輸技術審議会総合部会流出油防除体制総合検討委員会において,今後の油防除体制の検討が進められてきた。
 また,D号底触・油流出事故の重大性にかんがみ,運輸省に東京湾等輻輳海域における大型タンカー輸送の安全対策に関する検討委員会を設置し,今後の対応方策を検討している。
 海上保安庁としては,これらの検討状況も踏まえ,防災体制のより一層の強化を図るため,今後,次のような措置を講じることとしている。

 (1) 情報収集,通報・連絡体制の充実・強化,外国との連絡体制の強化

@ 今般,防災基本計画に「海上災害対策編」等が追加されたこと等に伴う,防災業務計画,地域防災計画等の見直しの中で,情報連絡経路の具体化等,関係機関間の連絡体制の強化を図ることとしている。
A 油の排出があった場合等の「1973年の船舶による汚染の防止のための国際条約に関する1978年の議定書」(MARPOL73/78条約)に基づく通報に関しての規定及び関連ガイドラインの履行や外国の船舶所有者等からの情報収集について,北西太平洋地域海行動計画(NOWPAP)等の場を利用して提案していくとともに,連絡体制の一層の円滑化を図る観点から,近隣諸国との協力について一層の強化を図ることとしている。
B OPRC条約締結を契機として,海上保安庁において9年度から実施している沿岸海域環境保全情報(注)の整備を図るとともに,油汚染事故対応だけでなく,多様な事故災害に対応可能な,逐次最新維持された情報を管理するため,沿岸域の情報管理体制を確立することとしている。


注 沿岸海域環境保全情報 
 油汚染事故発生時に油防除措置を効率的に実施するため,必要な諸情報をデータベース化し,これらの情報や油拡散状況を海図データと合わせて電子画面表示するためのシステム


C 9年2〜3月に実施した「油流出に伴う漂流予測システムの高度化に関する研究」の成果を基に,漂流予測の計算に必要な風係数等の再構築を図ったところであるが,今後,油の拡散効果を組み込んだプログラムの開発及びデータのない海域の海況を合理的に推定するための手法の開発による漂流予測の高度化を図ることとしている。

 (2) 油防除実施体制の充実強化

@ 非常災害対策本部等の早期設置
 海上事故により原油等が大量流出した場合において,事故の規模等から,応急対策の調整を強力に推進するため特に必要があると認められるときには,直ちに,海上保安庁長官を本部長とする警戒本部を設置し,各省庁が協力して油の漂着を阻止することとしている。
 また,大規模な被害が発生していると認められたときは,直ちに災害対策基本法に基づく,非常災害対策本部を設置し,応急対策を一元的に推進することとしている。
A 「国家的緊急時計画」の点検,排出油防除計画の見直し
 外洋での大規模な油汚染事故を想定していなかった国家的緊急時計画及び排出油防除計画について,総合的に点検し,改善すべき事項について見直しを行うこととしている。
B 巡視船搭載型油回収システムの整備,機動防除隊の充実強化
 海上保安庁の油防除体制の強化を図るため,外洋において高粘度油にも対応可能な巡視船搭載型油回収システムの整備について検討する。
 また,機動防除隊についても,引き続き,研修・訓練等により高度な専門的知識及び技術を付与すること等により,充実強化を図ることとしている。
C 官公民の広域的な連携体制の構築の推進
 排出油の防除に関する協議会等の活動海域を油汚染事故の発生状況,参加各会員の活動状況等地域の実情にあわせて広域的なものとするとともに,隣接する各協議会等が連携をとって油汚染事故に対処する体制を整備することとしている。
 また,各協議会等において,各機関の受け持つ役割,発生した事故の規模に応じた関係者間の応援協力要請,防除措置の実施方法等を定めたマニュアルを整備することとしている。
D 海上災害防止センターの充実強化
 海上災害防止センターの財政基盤の強化のため,国による無利子貸付制度の導入等について検討する。
 また,領海外での事故等で,船舶所有者からの委託がない場合などにも,油防除等の迅速な対応を図るための方策を検討する。
E 油防除資機材の活用
 油防除資機材を可能な限り早い段階で投入するため,各機関が把握している資機材の情報を適切に管理し,要請に応じて,関係機関へ迅速な情報提供を行うこととしている。
 また,大規模な油汚染事故発生時の相互協力を関係省庁間にて取り決め,資機材の迅速な輸送体制の構築を図ることとしている。
F 分野別専門家の登録
 各機関が把握している各種専門家に関する情報を一元化し,要請に応じて,当該情報及び専門家からの情報等を関係機関へ迅速に提供することとしている。
G 総合訓練の実施
 排出油の防除訓練における気象・海象条件,対応海域,排出油の粘度等の事故想定を実態にあわせる。さらに,関係機関との連携に重点を置いた実践的な訓練とするため,災害対策本部の設置・運営,資機材の搬送等様々な場面を想定することとしている。
 また,実働訓練では実施が困難な想定の設定,事後評価等が可能なシミュレーション訓練の導入を検討する。
H D号底触油流出事故関連
 D号油流出事故を踏まえ,事故発生時における現場への防除資機材の迅速な配置,活用体制の確立等を図るため,排出油防除計画の緊急点検を実施し,見直しを行うとともに,事故を防止するため東京湾等ふくそう海域における航行安全対策の指導徹底,充実等を行うこととしている。