第2章 今般の災害を踏まえた教訓 |
N号海難・流出油災害及びD号底触・油流出事故を通じ,次のような課題が提起された。 @ N号事故に対しては,1月10日に閣議口頭了解により政府のナホトカ号海難・流 出油災害対策本部を設置し,対応したところであるが,同本部は,法令上明確な位 置付けが与えられたものではなく,また,1月2日の事故発生から,設置まで8日間 を要したことから,同種事故に対する政府としての即応体制が検討課題となった。 A 油汚染事故に対し迅速かつ効果的に対応することを目的として,7年12月に閣 議決定された「油汚染事件への準備及び対応のための国家的な緊急時計画」(国 家的緊急時計画)では,外洋での大規模な油汚染事故を想定していなかったた め,このような事故に際しての事故発生後の即応体制,関係機関の緊密な連携, 個別具体的な役割分担等が明確化されていなかった。 また,排出油防除計画についても,外洋での大規模な油汚染事故に対応したも のではなかった。 B N号事故では,船舶所有者は外国に在住していたこと等から,必要な情報の収 集に困難な面があったが,このような場合における情報収集体制について,国際 的な枠組みの中において,更なる充実を図る必要がある。 C 油防除作業を効率的に行うためには,被害が予想される沿岸域における保護対 象等の必要な情報を的確に提供し,共通の認識を持つことが重要であることから, 自然的,社会的情報等について,関係省庁連携のもとに,整備しておく必要があ る。 また,油防除作業を的確に行うためには,精度の高い漂流予測が必要であること から,海潮流・風等のリアルタイムデータ等漂流予測に必要なデータの充実を図る とともに,風に起因する漂流量(吹送流等)を正確に見積る必要がある。 D N号事故は,荒天下の外洋で発生し,かつ,流出油が高粘度油であったが, そのような海域,油に対応可能な,外洋対応型油回収船,大型油回収装置等の油 防除資機材の整備が不十分であった。 E 官公民合同の調整・防除機関として,排出油の防除に関する協議会等の防災組 織が,8年度末現在,全国に98設置されているが,これらの防災組織は,港湾内や その周辺海域に限定された活動を行っており,N号事故のような外洋からの浮流 油に対する広域的な防除活動を前提としたものではなかった。 また,災害への対応に係る詳細なマニュアルの整備が不十分であった。 F 海上災害防止センターでは,防除措置に要した費用の当面のつなぎ資金として, 同センターの防災基金を活用することとしているが,大規模かつ広域的な油汚染事 故に際しては,現在の防災基金だけでは対応が困難であるため,つなぎ資金の確 保方策について検討する必要がある。 G 広範囲にわたる油汚染事故への対応の場合,限られた油防除資機材を可能な 限り早い段階で使用することが重要であることから,油防除資機材の情報を適切 に管理し,関係機関に提供できる体制及び油防除資機材を現場に迅速に輸送でき る体制が必要である。 また,油防除に関する各種専門家からの情報提供等は,防除対策を決定する上 で重要であることから,専門家に関する情報を一元化し,関係機関に助言等も含め た情報を提供できる体制が必要である。 H 災害への対応については,平時の訓練が重要であるが,N号事故を踏まえ,そ の訓練をより実践的なものとするとともに,あらゆる想定に対応できるよう新しい訓 練の手法を導入する必要がある。 I 東京湾においては,従来から防除体制の強化が図られていたところである が,D号底触・油流出事故発生直後,防除資機材が迅速に動員できなかったこ とから,防除資機材の配置,活用体制等について見直す必要がある。 |