2 ナホトカ号海難・流出油災害への対応 (1)
海上保安庁の対応
(海難救助関係)
9年1月2日午前2時51分頃,N号から遭難信号を受けた海上保安庁は,直ちに巡視船,航空機及び特殊救難隊を乗組員の救助に当たらせるとともに,航空自衛隊小松基地に協力を依頼した。
N号に乗り組んでいた32名の乗組員のうち,2隻の救命筏に分乗して脱出していた31名については,同日,救助されたが,行方不明となっていた1名(船長)については,1月26日,福井県越前町の海岸において遺体で発見された。
(漂流船首部及び付近浮流油への対応)
海上保安庁は,浮流油等の情報を福井県,京都府,石川県等の沿岸地方公共団体及び関係省庁へ提供するとともに,第三港湾建設局,海上自衛隊等に対し油回収船の出動等の防除活動に関する協力を要請する一方,船主に対し船首部及び浮流油の漂着防止指導を実施した。
また,漂流船首部等への対応のため,1月4日には第八管区海上保安本部に,6日には浮流油の海域が拡大したため第九管区海上保安本部に,それぞれN号海難・流出油対策本部を設置した。
また,巡視船・航空機を動員し,船首部及び浮流油の漂着阻止対策を実施したが,北西の風15〜30m/s,波浪4〜6mの大時化に阻まれ,7日,船首部及び浮流油が三国町に漂着した。
(漂着船首部及び流出油への対応)
船首部の三国町への漂着等,事態の重要性にかんがみ,1月7日,海上保安庁は,本庁に海上保安庁ナホトカ号海難・流出油災害対策本部を設置し,全国から巡視船艇・航空機(最大巡視船艇74隻,航空機13機),油防除資機材を動員,集結するとともに,機動防除隊を派遣し,油防除作業,流出油の状況調査,船主側との調整及び防災事業者等の防除措置に対する指導等を実施した。
また,船首部からの油抜取りのため,1月14日,政府のナホトカ号海難・流出油災害対策本部の方針決定を受け,海上災害防止センターに対し,船首部からの残油の抜取り及びこれに必要な措置に関する指示を行った。
(汚染調査)
「油流出に伴う漂流予測システムの高度化に関する研究」の一環として,9年2〜3月,青森県から島根県の沖合(距岸10〜200キロメートル)において海水中の油分調査を実施したところ,海水中の油分は日本近海の過去の油分濃度と同じレベルであり,本件事故の影響は見られなかった。
(船首部撤去)
船首部漂着当初から,船主側代理人である英国の保険会社を通じ船主に対して,船首部の早期撤去を強力に指導していたところ,日本のサルベージ会社と撤去の請負契約を結び,4月20日,撤去された。
同作業の際には,監視警戒等のため,巡視艇3隻及び航空機1機を現場に配備するとともに,機動防除隊を現場に派遣した。
なお,船首部の漂流から撤去までの間,航行船舶に対して船首部の漂流情報,作業区域等の情報を航行警報により提供し,航行船舶の安全確保に努めた。
(2)
海上災害防止センターの対応
海上災害防止センターは,海上防災に関する民間の中核機関であり,その業務として,海上保安庁長官の指示により行う防除措置(1号業務),原因者からの委託により行う防除措置(2号業務)を実施する。
(船主との委託契約に基づく油防除(2号業務))
海上災害防止センターでは,1月5日,N号船主代理人から,流出油の防除等の作業の委託を受け,2号業務を発動した。
同センターは,海上災害防止センターN号流出油災害対策本部を設置し,船舶,防除資機材等の手配を行い,島根県から新潟県に至る広範囲において,流出油の回収を行った。
また,回収した油については,各地に回収油集積基地を設け,全国各地の廃油処理施設等に搬入した。
(海上保安庁長官指示による船首部の残存油対策(1号業務))
1月14日,政府のナホトカ号海難・流出油災害対策本部の決定方針を受けて,海上保安庁長官から指示された船首部の油抜取り等の作業(1号業務)を実施するため,同センターは,15日から仮設道路の造成を開始するとともに,16日から海上からの油抜取り作業を行った。
海上からの油抜取り(2月10日までの計3回実施)及び仮設道路からの油抜取り(2月10日以降実施)により,25日までに海水混じりの油,計約2,831キロリットルを抜き取り作業を終了した。
また,造成した仮設道路については,6月7日から撤去作業を開始した。
(3)
政府の対応
(ナホトカ号海難・流出油災害対策本部関係)
政府は,1月6日及び7日に油汚染事件に対する準備及び対応に関する関係省庁連絡会議(18省庁等で構成)を開催し,各省庁の対応状況,関係情報の交換を行うとともに,政府が一体となって連携をとりながら,浮流油の防除作業等を迅速かつ円滑に進めていくことを確認した。
さらに,流出油がさらに広範囲に拡散するとともに,沿岸に漂着した油の被害の程度が深刻化してきたこと等にかんがみ,応急対策を関係行政機関相互の密接な連携と協力の下に強力に推進するため,1月10日に閣議口頭了解により,運輸大臣を本部長とするナホトカ号海難・流出油災害対策本部を設置するとともに,同日,本部長である運輸大臣は,福井県及び石川県の現場視察,両県知事との意見交換を実施した。
対策本部構成メンバー 内閣安全保障室 警察庁 防衛庁 科学技術庁
環境庁 国土庁 外務省 厚生省
水産庁 資源エネルギー庁 運輸省 海上保安庁
郵政省 建設省 自治省 消防庁 |
対策本部は,1月10日,14日,20日,23日,29日に開催され,応急対策全般について検討が行われた。
同本部会合においては,三国町に漂着した船首部の残存油について,冬の荒天下で大量の流出のおそれがあり緊急に抜き取る必要があったことから,沖合からのバージによる方法及び仮設道路の設置による陸上からの方法の両方による回収を実施すること,漁業者及びボランティアの負担が非常に大きくなっていたことから,自衛隊の増強派遣等国が従来以上に勢力を投入し,防除体制の強化を図ること等が決定されるとともに,ボランティア等の健康管理対策等について話し合われた。
(ナホトカ号流出油災害対策関係閣僚会議関係)
1月20日には,閣議口頭了解により,N号流出油災害における応急対策,被害対策及び再発防止対策等について,関係機関相互の緊密な連携を確保し,その効果的かつ総合的な対策の推進を図ることを目的として,ナホトカ号流出油災害対策関係閣僚会議を随時開催することとなった。
同会議は,1月20日,2月4日,25日に開催され,被害対策,再発防止策を含め,各種対策が協議された。
さらに同会議の下の幹事会が設置されるとともに,次のようなプロジェクトチーム(PT)及びワーキンググループ(WG)が設置され,関係省庁による検討が行われることとなった。
流出油被害対策PT
被害状況把握WG
・ 直接的被害の把握等
賠償問題WG
・ 船主側への責任履行の働きかけ等
その他被害対策WG
・ 現行制度の活用方策等
再発防止策等PT
・ 事故原因究明に関する国際協力
・ 油回収体制の充実及び強化
大規模油流出事故への即応体制PT
・ 関係機関における即応体制の確立等 |
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