は じ め に
 海上保安庁は、昭和23年5月1日に海上の安全確保を担う機関として戦後の混乱の中で設され、今年で満50周年を迎えた。この間、海上における治安の維持、海難の救助、海上交通の安全確保、海洋環境の保全、海洋情報の提供等の諸分野において、国民の期待に応えるため、その時々の社会経済情勢、国際情勢等の変化に対応して的確に海上保安業務を遂行してきた。
 海上保安庁の50年間の歴史を概観すると、我が国が戦後の荒廃から立ち直り、高度経済成長期を経て、中東戦争を契機とするオイルショックの到来、安定成長への移行、さらにはバブル経済の出現、冷戦構造の終結等に至る時代の推移の中で、海上保安業務に不可欠な組織・装備の整備、深刻化する公害問題に対応した海洋汚染の取締り強化、東京湾等ふくそう海域における海上交通安全対策の充実、大規模事故災害を踏まえた海上防災体制の整備、海難救助に関する国際条約に対応した広域しょう戒体制及び遭難安全通信システムの構築、組織化、巧妙化する集団密航等の海上犯罪対策の強化、「海洋法に関する国際連合条約」(" United Nations Convention on the Law of the Sea "(UNCLOS)以下「国連海洋法条約」という。)等に基づく海上警備及び海洋調査の推進、船舶交通の安全に必要な情報提供の充実など、重要な事項が多々挙げられるが、昨今の海上保安業務をとりまく国内外の諸情勢にかんがみると、今後とも、その高度化、多様化、複雑化が一層進展することが見込まれ、海上保安庁の担うべき役割も増大することは必至であるとえられる。
 このような観点から、海上保安庁設50周年という節目を機に、第1部においては、「平成における海上保安の取組と今後の課題」と題して、平成に入ってからの海上保安業務の状況を振り返るとともに、21世紀に向けての課題について記述することとし、第2部においては、9年を中心に実施した業務と現況について記述することとした。