T 国際機関等における活動
1 国際海事機関(IMO)
国際海事機関(IMO)は、主として海上における船舶の安全確保及び海洋環境の保護のための政府間協議・協力を促進することを目的とする国連専門機関であり、ロンドンに事務局が置かれている。
海上保安庁は、海上安全委員会(MSC)、海洋環境保護委員会(MEPC)の各委員会、無線通信捜索救助小委員会(COMSAR)、航行安全小委員会(NAV)の各小委員会及びロンドン条約締約国協議会議(LC)等に専門家を出席させている。
9年度には、SAR条約、SOLAS74条約、OPRC条約、COLREG72(注)の見直しに関する作業に参加した。
注 1972年の海上における衝突の予防のための国際規則に関する条約
2 国際水路機関(IHO)
国際水路機関(IHO)は、航海の安全のために各国の水路関係機関の活動の協調を図り、水路図誌の統一、水路技術の向上等を目的とする国際機関であり、モナコにその事務局たる国際水路局(IHB)が置かれている。
海上保安庁は、国際海図の刊行、世界航行警報業務等の活動や電子海図の表示システム、データベースに関する委員会等に専門家を出席させている。
3 コスパス・サーサット(COSPAS/SARSAT)
コスパス・サーサットは、捜索及び救助のために打ち上げられた人工衛星(コスパス衛星及びサーサット衛星)を用いたシステムを運用するために設置された国際機関であり、ロンドンに事務局が置かれている。
我が国は、システムの地上部分(MCC及び基幹MCC等)の提供国となっており、海上保安庁は、システムの維持及び発展に的確に対応するため、コスパス・サーサット理事会(CSC)及び合同委員会(JC)等に専門家を出席させている。9年度の会議では、各MCC間の新しいデータ伝送手順などに関する議論がなされた。
4 国際航路標識協会(IALA)
国際航路標識協会(IALA)は、パリ郊外に事務所が置かれ、航路標識・海上交通管理業務の向上、調和等により船舶交通の安全の確保と経済的かつ迅速な運航を促進することを目的とする国際的な機関であり、IMO、IHO等の他の海事関係国際機関と密接な連携を保ちつつ、航路標識に関する情報・資料の交換、航路標識システムの標準化等を行うとともに、加盟国等の技術向上等を図っている。
海上保安庁は、50年から同協会の理事を務め、協会の運営に参画するとともに、運用委員会、エンジニアリング委員会、電波航法委員会及びVTS委員会に専門家を出席させ、技術先進国として航路標識分野における技術の向上に関する協力を行っている。
5 政府間海洋学委員会(IOC)
政府間海洋学委員会(IOC)は、国際連合教育科学文化機関(UNESCO)の中に設けられており、加盟国の共同活動を通じて海洋の自然現象及び資源に関する知識の増進を図るため、各種の国際的な海洋調査・研究、海洋汚染監視、海洋資料交換、教育・訓練及び相互援助等の事業を行っている。
海上保安庁の日本海洋データセンターでは、我が国におけるIOC刊行物・文書保管センター業務を実施するとともに、IOCの依頼により、西太平洋海域共同調査(WESTPAC)実施海域内の各国海洋関係機関の職員を対象に、海洋データ管理研修を57年度から毎年実施している。
6 その他
(1) アジア太平洋海上保安主管庁フォーラム
アジア太平洋海上保安主管庁フォーラムは、アジア太平洋地域における海上保安主管庁間の情報交換の促進と協力体制の強化を図るため、各主管庁の首脳による意見交換の場として開催されている。
海上保安庁は、9年9月10・11日に、13箇国(日、米、加、露、韓、中、比、タイ、シンガポール、インドネシア、豪、ニュー・ジーランド、フィジー)、1地域(香港)、1機関(IALA)の主管庁の参加を得て、本会合を東京において主催した。
同会合では、我が国海上保安庁長官が議長に選出され、油汚染対応、捜索救助、航行安全等の分野について意見交換が行われた。
(2) 国連麻薬委員会(CND)及び国連薬物統制計画(UNDCP)
国連経済社会理事会の機能委員会の1つで麻薬等の国際統制に関する意思決定の中心機関であるCND及び薬物関係国際条約の適正な実施を確保し国際薬物統制における指導的役割を担っているUNDCPにおいて、薬物対策に関する国際協力促進のための方策が検討されてきている。
海上保安庁は、従来から海上における薬物の不正取引の防止におけるCND、UNDCPの活動に積極的に協力している。9年10月には横浜において、UNDCPとの共催により、15箇国32名の参加の下、「アジア太平洋海上薬物取締研修セミナー」を開催し、UNDCPによる「海上薬物取締研修ガイド」の紹介、海上保安庁及び米国コーストガードによるデモンストレーションの実施、各国の海上薬物取締りの現状及び域内協力に関する意見交換を行った。
(3) 国際天文学連合(IAU)
国際天文学連合(IAU)は、各国天体暦の仕様をはじめとする天文活動に関する方針等を決定する国際的な機関であり、パリに事務局が置かれている。
海上保安庁は、国際的な協調の下に天文観測を行い、「天体位置表」を刊行しているが、天体暦の精度向上に資するため、IAUの要請により、星食国際中央局(ILOC)業務及び星食観測の予報提供業務を米国海軍天文台から引き継いで実施している。
9年度は、28箇国から送られてきた約12,900件の星食観測の記録を解析・処理して標準化したデータにまとめ、IAU及び各国の観測機関等へ報告した。
U 関係諸国との協力・連帯の推進
1 警備救難業務関係
(1) 海洋環境の保全に関する地域協力
海洋環境の保全に関しては、MARPOL73/78条約による汚染防止、OPRC条約による防除システムの確立等の施策が講じられるなど、IMOを中心として、従来から積極的な取組がなされており海上保安庁もこれに積極的に参画している。
近隣諸国との地域協力体制については国連環境計画(UNEP)が、日本海及び黄海における海洋環境の保全を目的とした「北西太平洋地域海行動計画」(NOWPAP)を推進しているところであり、日本、中国、韓国、ロシアが参画している。海上保安庁は、同行動計画において海洋データ、海洋汚染防除の分野における検討に積極的に参画しているところである。
近隣諸国との二国間協力についても、海上保安庁は各国の油防除機関との専門家会合等を通じて従来から積極的に取り組んできており、油防除体制の現状等について情報及び意見の交換を行うとともに、合同流出油防除総合訓練を実施するなど協力関係の確立に取り組んでいる。
9年11月にはインドネシア・ウジュンパンダン沖において、インドネシア・フィリピン・日本の三国合同による流出油防除総合訓練を行った。また、10年5月には、ロシア・コルサコフ沖において、ロシア・アメリカ・日本の三国合同による流出油防除総合訓練を行った。
(2) アジア地域等における海上交通の安全の確保
海上保安庁は、9年7月に開催されたIMO第43回航行安全小委員会及び10年5月に開催されたIMO第69回海上安全委員会に専門家を出席させ、各国から提起された各種問題に対し提言等を行った。
特に、マラッカ・シンガポール海峡は、日本をはじめとするアジア・太平洋地域の国々にとって船舶の航行ルートとして非常に重要な意味を持つとともに、国際海峡として機能していることから、同海峡における分離通航方式の採用等の提案については、海上保安庁としても積極的に議論に参画してきた。
その結果、第69回海上安全委員会において、海上保安庁の意見を反映した分離通航方式等が採択され、10年12月1日発効することとなった。
また、(社)日本海難防止協会においても、マラッカ・シンガポール海峡をはじめとする東南アジア海域における航行安全対策等の調査・研究を行っており、海上保安庁としてもこれに協力しているところである。
(3) 海上犯罪に対する地域協力
薬物・銃器の取締りに当たっては、一国だけでは対応困難な状況となっていることから、諸外国取締関係機関との協力を積極的に推進しており、中国等の関係機関との間で海上における薬物・銃器の不正取引の動向及び関連情報等に関する意見交換を実施した。
また、9年10月に横浜で開催された「アジア太平洋海上薬物取締研修セミナー」のフォローアップ事業として、10年度より東南アジア諸国等を対象とした「薬物海上取締官養成事業」を実施している。
また、集団密航の防止対策の強化等に当たっては、中国等の関係国に対し領事当局間協議等の機会をとらえ、効果的な防止策を講じるよう求める等、取締当局間の協力関係の構築に努めている。
(4) アジア太平洋地域における捜索救助(SAR)体制の確立
我が国は、海上における遭難者を迅速かつ効果的に救助するため「1979年の海上における捜索及び救助に関する国際条約・(SAR条約)(60年6月我が国について発効、10年6月末現在締約国57箇国)に基づき、船位通報制度を導入したほか、ヘリコプター搭載型巡視船の整備等国内的な捜索救助体制の充実を図る一方、隣接国とのSAR条約への締結促進の働き掛けを行うなど、空白のない世界的な捜索救助体制の確立に向けて国際的な協力を強力に推進しているところである。
ア 隣接国とのSAR協定
我が国は、SAR条約の要請に基づき近隣諸国との間で捜索救助に関する協定等を結び、効果的な救助訓練を目指し、捜索救助に関する責任分担の明確化及び協力の促進を図っている。
まず、米国との間では、61年12月、日米SAR協定を締結し、我が国が捜索救助活動の調整に関し必要な責任を負う捜索区域の画定等、具体的な協力方法を定めて円滑なSARの実施を図っている。現在、日米SAR協定を改定し、太平洋の一部水域において重複している両国の捜索救助区域を我が国の捜索救助区域とする方向で米国と調整を行っている。ロシアとの間では、31年旧ソ連時代に日ソ海難救助協定を締結し6年7月には協定に基づく指針を作成し、両国の協力の一層の促進に努めている。また、韓国との間においては、2年5月日韓SAR協定を締結しており、今後の両国間の協力を図るための協定の内容についての検討に入っている。さらに、中国との間においては、協定を早期に締結するための実務者による協議を行っている。
イ 船位通報制度
海上保安庁の運用する船位通報制度(Japanese Ship Reporting System ;
JASREP)は、米国の船位通報制度(AMVER)とも連携し、海上保安庁と米国沿岸警備隊との間において相互にデータの交換を行うことにより、太平洋における迅速かつ的確な捜索救助活動の実施を可能としている。
2 水路業務関係
(1) 海洋環境状況把握のための国際的な連携
UNESCO・IOCが、世界気象機関(WMO)、UNEP、国際学術連合会議(ICSU)等との協力のもと、世界的な広がりで気候変動の評価、海象の長期的な予報等を行い提供する総合システムを21世紀の初めの稼働を目標に構築しようとする世界海洋観測システム(GOOS)構想を提唱した。8年10月から西太平洋海域におけるGOOSとして、北東アジア地域海洋観測システム(NEAR―GOOS)が運用されており、日本海洋データセンターは、同システムにより取得したデータを管理する機関として参画している。
また、UNEPが推進しているNOWPAPの実施に際しては、モニタリング計画の策定のほかデータベースの構築等に協力しており、9年7月に北京において開催されたデータベースの構築等に関するワークショップに専門家を派遣するなど、技術及び知見の蓄積を生かし、積極的に対応している。
(2) 東アジア水路委員会
東アジア水路委員会(EAHC)は、IHOの地域水路委員会のひとつであり、東アジア地域の水路業務に関する調査・開発等の情報の相互交換及び技術の発展に関する相互協力等を目的とし、日本、中国、韓国等の東アジア地域8箇国で構成されている。
海上保安庁は、この委員会の常設事務局となっており、加盟各国の協調関係の推進に努めている。
(3) 国際科学技術協力
国際科学技術協力は、環境問題等地球規模での対応が必要な問題の解決、あるいは宇宙、海洋等に関する研究開発等の効果的、効率的な推進に不可欠である。
海上保安庁は、米国等との間で情報交換、研究者の交流、共同研究等を行っており、その主なものは第2―9―1表のとおりである。
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