第8章 航路標識業務への取組

T 航路標識の現状と整備

 船舶が安全かつ能率的に航行するためには、常に自船の位置を確認し、危険な障害物を避け、安全な針路を把握する必要があり、航路標識は、このための指標として必要不可欠なものである。
 海上保安庁は、港湾・航路の整備の進展、船舶の高速化等により変化する海上交通環境に対応するため、これに適応した航路標識の新設整備及び既設標識の光力増大等の機能向上を推進し、また、設置した標識の信頼性を高めるため、老朽化した航路標識施設、機器の代替更新及び標識監視システムの強化等の改良改修を計画的に実施している。
 さらに、9年4月公共工事コスト縮減対策関係閣僚会議にて決定された「公共工事コスト縮減対策に関する行動指針」に沿ったコスト縮減を図るため、新技術の開発・活用などを積極的に取り組むこととしている。
 航路標識は、光波標識(灯台、灯浮標等)、電波標識(ロランC局、無線方位信号所等)、音波標識(霧信号所)及びその他の標識(船舶通航信号所、潮流信号所)に大別され(第2―8―1図参照)、9年度末現在、光波標識5,328基、電波標識116基、音波標識23基、その他の標識30基、合計5,497基を設置・管理している(第2―8―1表参照)。

第2―8―1図 海上保安庁が所管する航路標識基数の推移


 1 光波標識

 光波標識は、灯光、形象又は彩色によりその位置又は航路若しくは障害物の所在を示す標識であり、このうち、岬の突端等に位置する灯台は、沖合から陸岸に近づく船舶や陸岸に沿って航行する船舶に対して主要な目標・変針点を示し、港の入口又は防波堤の先端等に位置する灯台、灯浮標等は、入出港船舶に対して港、防波堤、水路等の所在を示し、また、主要な航路筋をはじめ岩礁、浅瀬等に位置する灯浮標、灯標等は、このような海域を航行する船舶に対して安全な水路又は危険な海域を示す役割を有している。
 9年度は、45件の新設整備及び582件の改良改修のほか10件の防災対策を行った。
 10年度は、26件の新設整備及び630件の改良改修を行うこととしている。

 2 電波標識

 電波標識は、電波により船舶の位置又は標識の方向を示す標識であり、広い海域にわたって利用することができ、また、天候に左右されないという特性を有している。このうち、ロランC等の広域電波航法システムは、外洋を航行する場合や視界不良のため陸岸や灯台の光が視認できない場合に、船舶の位置を容易に測定可能とする役割を有し、また、無線方位信号所は、沿岸を航行する際の主要目標点の方位又は障害物の存在を示す役割を有している。
 9年度は、ディファレンシャルGPSについて瀬戸内海、東日本の太平洋沿岸、九州沿岸及び山陰沿岸海域の整備を実施したほか、27件の改良改修を行った。
 10年度は、引き続きディファレンシャルGPSについて北海道沿岸、日本海沿岸及び南西諸島海域の整備を実施し、その有効範囲を小笠原諸島等一部の遠方離島海域を除く我が国沿岸全域に拡大するほか、その他の電波標識について68件の改良改修を行うこととしている(第2―8―2図参照)。

第2―8―2図 ディファレンシャルGPS局配置図

コントロールステーション
(ディファレンシャルGPSセンター 東京都)


 3 音波標識

 音波標識は、音響により灯台等の所在を示す標識であり、霧、吹雪等の多い北海道、三陸等の沿岸に設置されている主要な灯台等に併設され、視界不良のため陸岸や灯台の光が視認できない航行船舶に対して、灯台等の所在を示す役割を有している。

 4 その他の標識

  (1) 船舶通航信号所
 船舶通航信号所は、港内、特定の航路及びその付近水域又は船舶交通のふくそうする海域において、船舶の安全かつ能率的な運航を確保するため、航行船舶の動静等について情報を収集し、船舶の位置、他船の動静等を無線電話若しくは一般電話で通報又は電光表示板で表示する役割を有している。
 9年度は、瀬戸内海海上交通情報機構に係る1件の新設整備のほか3件の改良改修及び耐震性の向上を目的とした1件の防災対策を行い、10年度は、1件の新設整備のほか11件の改良改修を行うこととしている。
  (2) 潮流信号所
 潮流信号所は、潮流の強い海峡において、船舶に対して潮流の流向及び流速の現状と予測に関する情報を、無線電話若しくは無線電信で通報又は形象、灯光、若しくは電光表示板で表示する役割を有している。
 9年度は、3件の改良改修を行い、10年度は、1件の改良改修を行うこととしている。

U 航路標識の保守・運用

 職員を常時配置する必要があるロランC局、デッカ局等を除き、航路標識は、そのほとんどが自動化され無人で運用されている。これらの標識の機能を維持するため、船舶、車両又はヘリコプターで定期的に巡回し保守を行っている。
 また、無線回線及び電話回線を利用した監視システム等により、航路標識の運用状態の監視を行っており、灯台が消灯する等の事故が発生した場合は、緊急出動し、速やかに復旧している。
 航路標識の事故のうち、特に多く、跡を絶たないのが、船舶の衝突による灯浮標等の沈没、位置移動及び破損事故である(第2―8―2表参照)。このため、海上保安庁としては、後続する通航船舶の安全確保のため、船舶運航者等に対して事故防止を呼び掛けるとともに、万が一事故を起こした場合は、直ちに通報するよう指導している。

第2―8―2表 灯浮標灯への船舶衝突事故状況の推移

灯浮標の被害状況


V 船舶気象通報

 沿岸海域を航行する船舶や操業漁船、また、プレジャーボート活動やいそ釣り等の海洋レジャーの安全を図るため、全国各地の主要な岬の灯台等55箇所において、局地的な風向、風速、波、うねり等の気象・海象の観測を行い、その現況を無線電話(288KHz〜316KHz又は1670.5KHzが受信できるラジオで聴取可能)、テレホンサービス又はFAXにより提供している(第2―8―3図参照)。
 テレホンサービスについては、容易に何時でも情報を入手できることから、年々利用者が増えており、9年は、全国24箇所で約427万件の利用があった。
 9年度においては,「山陰海域」の整備に着手したほか、8年度に引き続き「相模灘及び遠州灘海域」及び「宮古・八重山海域」における観測箇所及び提供箇所の整備を実施した。
 10年度においては、北海道南部・西部海域、津軽海峡海域及び沖縄本島海域の整備に着手する。

第2―8―3図 船舶気象通報実施箇所


W 自然エネルギーの利用及び歴史的・文化財的施設の保全

 海上、離島、岬、岩礁、浅瀬等に設置される航路標識は、その立地条件の特殊性から商用電源の利用が困難な状況にあり、商用電源に変わる電源の確保が必要不可欠である。
 海上保安庁においては、従来から代替電源を選定する際に、環境負荷の低減化、省エネルギー化を慮し、風力、太陽、波力といった自然エネルギ―の利用拡大を図っている。
 さらに、灯台等の中には、明治時代に建設され、今なお、現役で機能しているものが67基に及んでおり、これらの多くが、歴史的・文化財的価値を有している。その中でも特に価値の高いものについて、その価値の保全を図りつつ、現役のまま運用することとしている。
 9年度においては、禄剛埼灯台(石川県)ほか2基の保全方法について検討を行い、10年度においては、美保関灯台(島根県)の保全工事を実施するとともに、尻屋埼灯台(青森県)ほか1基の保全方法についての検討を行っている。